覚悟を決めて 5
明日帰ることになった。
「帰る前に、もう一回頼むわね」
良子が言う。
「約束はできない」と返事すると、意地悪をされたような顔をする。
男性の心情を説明するのも苦しい。
「努力はする」と、返事をあらためる。
良子は『同室で』泊るってと、リツと、はしゃいでいる。
こんな人だったのか。
自分には女性のことは、何もわからない。
これからは、女性のことは何もわからないことを、心に刻もう。
ユカリはこちらを、恨みがましい表情で見ている。
どうして、この流れで自分が悪いのかも、わからない。
世界は不思議に満ち溢れている。
話を変えたい。
「二宮さん、どうして池にブラックバスがいたんだろう。」
良子は、それが当然のように答える。
「優秀な食料だからよ、ブルーギルに、ウシガエルもいるわよ。」
そして、面倒な返事をしたとでも言わんばかりに、話を元に戻す。
早めに部屋に移動しよう。
案内された部屋には、シングルベッドが二つあった。
リツと良子が「せーのっ」と、ベッドをくっつけている。
「シャワー」使えるから、あっちねとドアを指さす。
ユカリが『当然です』なんて返事をするからだ。
ようやく二人が出て行って、並んでベッドに横たわる。
ユカリが手を繋いできたので、握り返す。
目が覚めて、二ヶ月近い。
人生で一番波乱だなと、苦笑する。
先にシャワーを浴びさせて、照明を眺める。
やたらと緊張するが、明日のこともあり、何もしないだろう。
夫婦だから、悪いわけではないのだけど。
夫婦か・・・。
初めて会った頃のユカリは、随分と大人びて見えた。
いまは高校生くらいに感じる。
娘が出来たようだと、思えばいいのだろうか。
相変わらず、自分には、わからないことだらけだ。
シャワーを交代し、ベッドに戻る。
寝ようとすると、いちど胸を叩かれたが、『何もしませんよ』と、丁寧に伝える。
もう一度叩かれるが、諦めたようだ。
でもね・・・。
「一生大事にするよ」と伝え、額にキスをした。
これが今の精一杯だ。
ようやく、横で寝息が聞こえてくる。
見慣れない天井を眺め、これからを思う。
きっと、大変なことばかりだろう。
そして、この世界の平凡に埋もれて、死ぬのだろう。
自分では、それさえ必死につかみ取らないといけない。
あらためて、気合を入れる。
そうして、ユカリの胸を一瞬思い出し、罪悪感を覚えて眠りにつく。
明日は頑張らなくてはいけない。




