私の罪 3
彼女の問いかけに、すぐに答えることが出来なかった。
簡単に答えてはいけないような気がしたから。
目を閉じて自分に問う、僕は生きていたい。
ユカリとリョウと、あの廃墟のような町での暮しが、とても大切に思えた。
今まで生きていた、平凡で平和で、贅沢な暮らしより、愛おしく思う。
失いたくない。
「生きていたい」
本当に?
「生きていたい」
誰かを犠牲にしても?
「生きていたいよ。」
そう・・・ありがとう・・
いつまで、彼女を抱きしめていただろう。
彼女の手の血は乾き、薄い茶色に変色していた。
彼女の震えは収まり、そっと体をはなす。
うっすらと涙の跡が残るその表情は、まだ20代の幼さを残していた。
「ごめんなさい」
そう告げて、彼女は離れる。
紅くなった瞳の下には、うっすらと隈がのこり彼女の苦悩をうかがわせる。
「ありがとう。君がいたから僕は生きている。」
言葉にすると、とても陳腐になるけれど、彼女に伝えたい。
そうね。そう答えて、彼女は、ほんの少しだけ笑った。
ドアからノックの音が聞こえ、リツ達が戻ってくる。
「彼女が、どうしてもって・・。すいません。」
ユカリが、恐らく大騒ぎをして、やむえず戻ってきたようだ。
すまないと周囲に頭を下げて、ユカリの手を引き側に寄せる。
「また、話せるかしら」
二宮良子は、先ほどの弱さを隠すように、しっかりと問いかける。
えぇ いつでもと答え、部屋を出る。
リツが、食堂に案内してくれて、そこで休憩をとる。
室内は、戦前の姿をそのまま残している。
ポトフのようなスープと、固いパンを受け取り、食事を取る。
ユカリは、自分の腕をつかんで、心配そうにこちらを伺う。
向かい合って座ったリツが、何か聞きたそうに、様子を伺っている。
ユカリの様子をみてか、言い出せずに、困っている。
食事の手をとめて、リツを見る。
「安心してもらえたんならさ、もう少し、大きいお母さんと話をしてほしいんだ。」
ユカリも食事の手を止めて、こちらを見る。
頭に軽く手をのせて、大丈夫だと伝える。
彼女には、ずっと、何も事情の説明をしていない。
それなのに、自分のことを思って側にいようとしてくれている。
わけも分からずに、心細いだろう。
リツに頷くと、邪魔したら悪いねと・・ぼそぼそ言いながら席を外す。
あとで迎えに来るそうだ。
静まった室内に、二人でいる。
リツが離れた後も、食事の手は進まない。
「あの人は?」
おそらく、二宮良子のことだろう。
どう伝えるべきだろう。不安にさせないように。
「ずっと昔、助けてもらった人なんだ。」
そう・・、食器にのこるスープを見つめながら、彼女は続けて問う。
「どうして此処へ来なければならなかったの?」
そうだね、どうしてだろう。僕がここに来たかったのは。
「彼女に礼を言いたかった。」
同じところを見つめたまま、彼女は問う。
「それだけ?」
それだけじゃいけない。
「ずっと昔から、一人で任せきりにしていた、仕事を手伝うために。」




