来訪者 7
「もうあと30分もしないうちにたどり着きます」
そうリクが告げる。
ユカリを両手に抱えると、廃墟の日陰に腰を掛ける。
ユカリの頭を、腿の上にのせて様子を見る。
帽子を取ると、頬の腫れが青く色を変えている。
目を閉じて、息を落ち着かせようとしている。
おそらく車酔いをしてしまったのだろう。
短くなってしまった髪をそっと撫でる。
白く細い指が、時々不安げに服をつかむ。
そっと口づけると、安心したかのように力が緩む。
男性二人は周囲の警戒をしており、リツは草を刈っていた。
そうして刈った草をバイクのタイヤに詰め込んでいる。
ああして、空気の代わりにしているのだろう。
強い日差しに目を細めると、風が木々を通り抜けてくる。
刈った草の香りが、鼻をかすめた。
しばらくして、ユカリの顔色がもどり、声を掛ける。
「大丈夫だから」
強がる彼女の手を引いて、立ち上がる。
残りの道を行くとしよう。
残りの道程は、言われた通りさほど距離はなく、遠目に集落が見えてくる。
研究所に近ずくにつれて、道は獣道から、よりはっきりとしたものになる。
いくつか廃墟とは異なる、新しく建てられたであろう小屋が見え、その周囲には人の姿がある。
石やレンガで組まれた柵があり、中央に小さな門がある。
守衛の男にリクが手をあげて、そのまま通り過ぎる。
守衛の男は、自動小銃を肩にかけており、駅の町とは異なる戦力を持っているようだ。
駅の町の数倍はあろう畑を抜けて、小さなコンクリート造りの一角でとまる。
ユカリの手を引き、三人に囲まれて奥へと進む。
地下に降りる階段は、入り口付近は荒れをみせていたが、内部は遠い過去をそのまま残したかのようであった。
病院の廊下のような道をたどり、ある一室で立ち止まる。
「中に伝えてきます。すこしお待ちください。」
告げられて、あたりを見渡す。
自分には見慣れた景色だが、ユカリは不安げに腕に掴まっている。
どうぞと声を掛けられ、室内に入る。
昔と同じ、いや、昔よりすこし痩せた二宮良子がそこにいた。
こちらに気が付くと、笑顔で歩み寄り言葉を交わす。
「お久しぶりですね。二宮さん。」
「そうね、本当に久しぶり、会えると思っていなかったわ。佐々木さん。」
応接室のような、皮のソファを進められ、腰をかける。
「そちらは・・」
二宮さんが、ユカリを見て尋ねる。
「妻ですっ」
と食い気味に、ユカリが答える。
身をすくめ、自分の腕に縋りつくように座っている。
「妻です。」
そう、自分が答えると、少し落ち着いたようだ。
「そう・・」
「じゃあ遠慮なくこのまま話させてもらうわ」
そして、彼女の話が始まる。
再生と共に生まれた、人類の罪と罰の話だ。




