ここがいいんだ
ユカリさんとカイと三人で、駅の地下にある居住区を歩く。
一部焼け残ったとはいえ、火災のあとが残る酒場では今後不都合が多いだろうと、代替となる検討することになった。
とはいえ地下の店舗は、殆どは居住用として使用されており、またその周りには拾ってきたであろう廃材が並んでいる。
大きな地下街ではない、また火を使い調理をするということを考えると飲食店の跡がのぞましく、十分な広さがあってとなると、もう空きがない。
キッチンがあるような場所は、酒場のほかは共用の台所となっており、そこを利用すると、現在の割り振りを大幅に変更する必要がある。
大きな通路や、廃材置き場など空いているスペースがあるが、火を使うと排気ができない。
ユカリさんがいることもあり、普段は酒場は託児所のようになっているが、本来は集会所や外部との取引の場として、それなりに整備されていたのだ。
地上の部分は、バリケードを外壁とし内部は畑で埋め尽くされている。
空いたところにはプランターが置かれ、そこにも作物が育てられ始めた。
「やはり難しいですね」
カイと唸っていると、ユカリさんは今の場所を直して使うと言う。
酒場にもどり改めて確認すると、L字型の店内の長いほうの一列は、椅子やテーブルが燃えてつかいものにならない。
燃え残った部分にも、汚れが残り、本来の機能は果たせそうになかった。
カウンターの内側はユカリさんの居住スペースとなっており、いまはチビ達がそこを占領して遊んでいる。
ふと見ると、ユカリさんの下着をつけた男の子がこちらに出てきてくる。
自分の前に立つと、胸を押さえ「キャー」と逃げていく。
ケンヤ君、君は男の子なのだよ。
そして、胸を押さえ去っていった意味を考えて・・・考えるのをやめた。
ユカリさんが子供を追いかける様をながめながら、カイが話す。
「コウさんも、この町にずっと住みませんか?」
あらためて聞かれて、言葉に詰まる。
いろいろと出来事が多くて、目先の問題が多くて、これからどうしようかなんて考えている余裕もなかった。
自分の目覚めたシェルターが家という感覚もあったのかもしれない。
ユカリさんもこちらを見て、返答をうかがっている。
自分の目的は、生きているかわからない二宮良子に礼を言うという、曖昧なものしかなかった。
世界がどうなっているのか見て回るのもいいと考えていたが、たぶん此処のことが気になってしまうだろう。
いつの間にか自分の後ろに戻ってきたユカリさんが、自分の声色をまねて言う。
「すこしやりたいこともあるから、出かけることはあると思うけど、よろしく頼むよ」
カイと顔を見合わせると
「それで頼むよ」
と苦笑しながら告げた。
自分がどこで生きるなんて、改めて考えたことはなかったのだけれど・・
ここがいいなと思う。
「ここがいいんだ」
カイも笑って受け入れてくれた。




