裸の老人
駅へ向かう道を思い出しながら、森の中を歩く。
下草を手斧で刈り進む。
刈られた草が、帰るときの目印になるだろう。
歩き慣れたはずの街並みは、今やすっかりと廃墟だ。
それも、とても古い廃墟のように感じる。
壊れた建物は、青々とした蔦が絡まっている。
いたるところに樹木が乱立し、すっかりと緑に囲まれている。
まともに天井を保っているビルなどは一軒も見当たらない。
建物の名残を頼りに進むのは難しいだろう。
ただ、アスファルトで舗装されていただろう道路は偏って平坦である。
まったくヒントがないわけでもない。
自分の目安でそろそろコンビニにつくだろう。
何か残っていないかと期待し、あたりを見渡す。
「グルルァ」
ふいに動物の吠える声が聞こえる。
手斧を構えあたりの様子をうかがうと、獣ではなく人影に気が付く。
目の前、50メートル程のところだろうか。
森の開けたところに、その姿はあった。
裸らしき小柄な人影だ。
老人のように腰がまがり、腹がでている。
足元には人が倒れている。
動物に襲われたのだろうか。
「人がいた」
自然と言葉が口からこぼれる。
状況からみて、危険な状態かもしれない。
それでも、人がいたことに喜びを感じる。
生き残っていたことを確認できたことに、おなかの底から喜びがこみあげる。
目から涙があふれてくる。
体感としては数日一人で過ごしただけであるが、心の中は不安で押しつぶされていた。
駆け寄って大きな声で呼びかける。
話しかけてみよう、言葉は通じるだろうか。
困っているのであれば、手助けをして打ち解けたい。
今の状況を知りたい、いま世界はどうなっているのだろうか。
こちらの呼びかけに老人は振り向く。
その口は、真っ赤な血で染まっていた。
「ひぃっ」と後ずさり、足元の人を見る。
足元の人は、腹部から血が流している。
老人はこちらをはっきりと見つめ、大きな口をひらき「グルルァ」と吠えた。