おっさんは南を目指す
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シェルターの一室で考えていた。
今後どのように動くべきだろうか。
シェルターを歩き回り、ノートとペンを探す。
ノートは見当たらないが、ペンは白衣の胸元にあった。
高級そうなペンと、書きやすさが売りの100円のペン。
紙がないので、とりあえず手に書くことができるか試してみる。
高級そうなペンはすっかりインクが乾ききっている。
使用はできなさそうだ。
安いほうは、まるでついさっき買ってきたかのように、普通に書くことができた。
とりあえず両方持っておこう。
白衣はきれいに畳んで、机においておく。
紙とペンを探したきっかけは、周囲の地図を作ろうと思ったからである。
記憶にある街並みはすっかりと消え去っている。
周囲を探索するにしても、すべて記憶頼りというのも、心もとない。
方位磁石もない状況であるので、戻ってこれるか不安もある。
街並みはどこも崩れた建物で、すっかり木々に囲まれている状態。
とりあえずは、戻ってこれる範囲で周囲を確認してみよう。
目を閉じて、昔の街並みを思い出す。
漠然とであるが、駅を目指してみよう。通勤経路を思い描く。
いつもの込み合った駅。
コンビニの前を通り、パン屋の角で右に曲がる。
まっすぐ500m歩いたところで横断歩道をわたり、左におれて5分進むと職場につく。
職場の入り口については、瓦礫をながめてあたりをつけている。
ともかくは、南の方向へ。太陽が目安になるはずだ。
元は駅だった場所を確かめてみよう。
大きな建物であったし、全てが無くなっているわけでもないはずだ。
外の汚染状況を考えてみる。
おそらくは放射能で汚染されているはず。
目に見えるのが、自然にあふれているからと言って安心できるものではないだろう。
かといって、此処にこのまま留まっていても、食料が尽きればどうしようもなくなる。
気力があるうちに、外の状況は確認したい。
救助を待つかと考え、そして苦笑する。
誰が助けに来るというのだろう。
それに、こちらは200年近く、あの中で過ごしてきたのだ。
出発に備え、リュックに流動食と水を詰め込む。
先ほどの白衣を眺める。
これ地図書いたら怒られるかな・・・。
しばらく逡巡したのちに、地図(になる予定の白衣)をカバンに詰め込んだ。
シェルターのドアをスライドさせる。
機械の動作音が遠くで聞こえる。
まぶしい光を浴びて、外の様子をうかがう。
近くには何もいないようだ。
瞼をとじて、昔の光景を思い描く。
道は覚えている。
さぁ、駅へ向かおう。