今の世界の様子
シェルターの扉近くにたどり着いた。
地面の一部に、白く塗装された扉が姿をのぞかせている。
それが何か知らなければ、扉とは思わないだろう。
一見すると、それは何かの残骸が埋まっているかのように見える。
レバーを引くと駆動音が響き、ゆっくりと扉が開く。
音は地下にも反響し、静かな森の中へ響き渡る。
以前は気にはしていなかったが、この音は危険だと感じる。
余計なものを、呼び寄せることになるかもしれない。
扉が開き、中に光が差し込むと、下層に降りる階段が見える。
リョウを先に入れ、周囲を見渡してから自分も続く。
幸い周辺には何も気配はない。
内側から操作を行い、扉を閉める。
閉じていく扉を眺めて思う。
そういえば、この扉には鍵がないな。
もともと建物の内部にあった試験的なシェルターである。
鍵のない理由は思い当たるが、その事がとても残念に思える。
シェルターの内部をみたリョウは、驚きのあまり声も出ないようだ。
落ち着かない様子で、室内を見渡している。
過去から未来に連れてこられたら、こんな感じになるのかもしれない。
一つ一つに驚き、こちらの顔を見ている。
実際は未来から過去を除いているようなものであるのだけど。
驚く彼女を促して、自分が目覚めた部屋に招き入れる。
そして、ともかくも水を渡す。
彼女は飲まずに、受け取った水をを大事そうにしまった。
まだあるからと笑い、もう一つ渡す。
自分は水を飲むと、リョウに話しかける。
今の世界の様子を聞き出してみよう。
自分が遠い過去から生きてるなんて話をしても仕方ない。
ともかく、ここに隠れて生きてきて、外の様子を知らないとだけ伝えた。
さて、何から質問をしようか。
「知ってる範囲でいい、いろいろと教えてもらえないか」
彼女は自分もあまり詳しくはないのだけど言いながらも、了承してくれた。
彼女との会話は、理解しやすいものではない。
自分の思う当たり前と、彼女の当たり前との差が、理解を困難にさせる。
国がどうなったか尋ねるが、国という言葉を知らないと答える。
自分なりに説明をするが、そんな物は無いのではないかと答えが返ってきた。
国の概念は無いようだ。
試しに神という言葉を知っているか尋ねるが、彼女は知らないと答えた。
神も死ぬのだろうか。
人の暮らしの平均を問うが、彼女にはその質問は難しいようだ。
どう答えていいものか悩んでいる。
しばらく様子を見てみるが、その結果、言葉は出ない。
いろいろと問いかけて返答を聞き、その意味を考えて消化することにする。
今いるシェルターの付近の一帯は「再生の森」と呼ばれるそうだ。
なんでも緑が再生し始めたのはこの森かららしい。
昔々に戦争があり、文明は終わりを告げた。
戦火を逃れ生き延びた人は、いまよりずっと多くいたらしい。
だが、食糧危機により多数の数を減らした。
飢えもあり、争いもあった。
そして生き残った人達も、数を減らしていったそうだ。
それでも、一部の人は生き延びた。
廃墟をあさり、廃材を再生することにより、生きる術を見出した。
廃墟から町をつくり、生き残っていた作物を増やし、狩りをし、生き延びていた。
しかし生き延びたのは人だけではなかった。
いや、元は人であったものが、姿や生態を変えて生き残った。
あのとき戦った、ゴブリンのような生き物を思い出す。
少数であるが、他にも怪物はいるそうだ。
飢えにより狂い、時を重ねて異形の姿となった、普通の人々。
あの時の怪物も、本来であれば普通の老人であったのかもしれない。
伝え聞いた話しを、さらに推測を交え聞いている。
どれほど真実に近づけているかわからない。
けれど楽観できぬ状況なのだということだけは、痛いほど伝わってきた。
ともあれ、質問を続け現状の把握に努める。
もとの駅、今は町と呼ばれる場所のことも尋ねてみた。
30人ほどの人が住んでいる。
集落として認知されており、行商などの定住していない者も時折訪れる。
暮しぶりを問うと、周辺に狩りにでるほか、僅かであるが農耕もしているそうだ。
他には廃墟をあさって、生活をしていると答えた。
生活は厳しいと、彼女は悲し気に言った。
生きていくためには危険も多く、人同士の争いも絶えない。
怪物に襲われるより、野盗に襲われての死傷者のほうが多いそうだ。
彼女の住む町は、いま食料の不足の危機である。
無理な狩りを行い、その事でかえって住民の数を減らしているらしい。
かといって、食料採取にでなければ飢えを待つことになる。
彼女の兄も、過酷な日々の中で傷を負っていた。
それでも、手負いの体で狩りに出ていたそうだ。
話を聞くうちに、彼女の瞳から涙がこぼれる。
彼女は無力で、足手まといであると、自分を恥じていた。
「何度も死のうと思ったわ。でもね、怖いの。」
平和な頃を知る自分は、彼女にかける言葉を思いつかなかった。
黙って彼女を見つめることしか出来ない。




