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核戦争後200年

御指摘、感想 等もらえると嬉しいです。

ゆっくりと瞼をあけると、照明の薄暗い灯りが目に入る。

ここはどこだろう。


周りを見渡すと、まるで病室のように寂しげな部屋にいた。

窓はなく外の様子はわからない。


部屋の中を見渡すと、職場の一室であったことを思い出した。

この部屋には、ほとんど入ったことはなかったのに・・・。

なぜこんな所にいるのだろう。


少し頭痛がして、頭に手をやろうとすると、思うように動かせない。

なんというか、きしむような感じで、腕にも鈍い痛みがある。


ここは確か、シェルター内の一室だったな。

ぼんやりとかすむ記憶をたどる。

なぜ自分が、この部屋にいるか思い出してみる。



「おはようございます。」

「おはようございます。今日もよろしくお願いします。」


職場について、朝の挨拶をおこなう。

答えてくれた白衣姿の職員は、とても知的な感じのする女性だ。


普段はもっと大勢人がいる。


今日は特別だ。

政府の研究機関で会議があるそうで、ほとんどの職員は出払っている。


職場は研究所で、緊急時のシェルターを開発しているとのことだった。


一般的なものでなく、かなりの長期間の生存を目的としたものらしい。

らしいというのは、自分はよくわからないからだ。


自分は、研究所の職員ではない。

研究所の施設管理をしている会社の設備員だった。


職場の人達は、頭のいい人たち特有の、丁寧で人当たりがいい人が多い。

本心まではわからないけれど、あたりの職場だなと思っていた。


いままでいろんな建物を見てきた。

はずれのところだと、随分と人当たりがきつい。

報告一つで辛い思いをする。


今日の点検の予定を告げる。


「よろしくお願いします」と返事を受けて点検に出る。


研究所は4階建ての建物、特別な外観ではない。

試験的なシェルターが地下に設けられている。


常駐の設備員は自分一人のみ。

漫画の世界なら、研究所はもの凄く大きく立派なのだが、現実はこんなものだ。


空調については、かなり特殊なものがついている。

なんでも外の空気が汚染されていても、問題なく換気ができるものらしい。


外観や計器の指し示す数値を点検、異常がないことを確認し、報告をおこなう。


正直特殊すぎて壊れても治せそうな気がしない。

問題が起らないことを祈り、日々点検をしていた。




先ほどの白衣の女性が、声をかけてきた。

なんだかちょっと、切羽詰まった感じがする。


「佐々木さん、頼みたいことがあるんです。」


「はい、なにかありましたか?」


「洗面台に指輪を落としてしまって、流れて行ってしまったんです。」


洗面台の排水の配管はU字になっている。

臭いが上がらないよう、工夫されているのだ。


水流に流されていなければ、配管を外すことで、見つけることが出来るかもしれない。


「わかりました、ちょっと見てみますね」


指示された研究室の一室へ向かうと、洗面台の下に潜り込む。


配管を外すと、髪の毛などのごみの中に指輪を見つけた。

水で洗い流し、汚れが取れたことを確認する。


心配げに様子をみていた女性へ、指輪を手渡す。


「運がよかったですね。流されずに残っていました。」


「ありがとうございます、とても大事なものだったので・・。」


彼女は大事そうに指輪を受け取ると、深々と頭をさげた。


歳は25歳くらいだろうか、綺麗な顔というか整った顔をしている人だ。

まるで映画に出てくる研究員のような、背の高いインテリ系の美人。


ただ、研究員らしさなのだろうか、特に化粧などしていないようにみえる。

綺麗な人は、映画でもよく生き残るよなと、そんなことを漠然と思う。


「指輪は母の形見なんです。これしか残ってなくて・・・。」


見つかってよかった、などとあたりさわりのない返事をしてその場を去る。

設備員の仕事は人との関りが意外と多い。


が、あまり踏み込まないことが平和に生きるコツのようなところがある。

好かれず嫌われずが一番よいと自分は考えていた。


その日の昼頃だったろうか、先ほどの女性が訪ねてきた。

お礼ということでコーヒーをご馳走になっていた。


こういうことは滅多にない。

会議で人が出払っていたせいもあるのだろうな。


いままであまり話したことがない人である。

才媛と評判の女性で、研究所でも上位の研究者らしい。


指輪は男性除けで、左の薬指につけていたそうだ。


こういうところでも、色恋沙汰などはあるのだろうな。

自分には無関係なことだと、無難に聞き流す。




「佐々木さんは、戦争は起こると思いますか?」


ふとそんなことを聞かれる。

休憩室のテレビは『隣国の緊張状態が限界を超えようとしている』と、ニュースを流していた。


「ないといいとは思いますが・・・あるかもしれませんね」


正直自分には、よくわからない。希望的観測を述べる。


「この研究所は、戦争があっても、人が生き残れるシェルターを作ることが、目的なんですよ。」


そんなことをぽつりと話す。


「はい、聞いたことはありますよ。特殊な施設も多いですね。」


「使うことがなければ、いいのですけれど。」


そういいながら彼女は、儚げに笑う。

美人は絵になるなと、なんとなく、そんなことを思う。


テレビから速報のチャイムが流れる。地震速報だろうか?

二人で画面を眺める。


『緊急警報です、ただいまミサイルが発射されたとの速報が入りました。』


そして画面が揺れ、消えた。


彼女は立ち上がり告げた。


「地下へ行きましょう、急いで」


シェルターの内部に入る。中にまで入るのは初めてだなと、そんなことを思う。

今は非常事態なんだろうけれど、まだ実感はわかない。


テレビが消えたのは、何故だろう。まさか、着弾したのだろうか?


地下施設の空調機が警報を鳴らしている。

ランプが鋭く赤く光っている。外気の放射性物質を検知した色だ。


彼女に言われるがまま、今いるこの部屋に入った。

受け取った、いくつかの錠剤を飲み込み、やたらと機械的な寝台に横たわる。


「あなたはどうするんです?」


意識が遠のく中で、彼女に尋ねた。


「わたしはこのシェルターを稼働させますね。心配しないで。」


彼女の儚げな笑顔が見えた。


やっぱり美人は絵になるな・・とぼんやりと考える。

そのうち、瞼が重くなり、そして意識を失った。




そして目が覚めて現在というわけだ。


彼女の名前、聞いてなかったな。思い出して最初の感想がそれだ。


壁のデジタル時計をみる。西暦2200年7月20日19時30分か。

夜か・・と思い、疑問に思う。『2200年』ってどういうことだ。


時計の故障の可能性もあるなと、思いながら部屋をでる。


部屋のドアを出てすぐ、足元の何かにつまずき確かめる。


白衣が落ちていた。拾い上げてみると、名札が残っていた。

「二宮良子」

おそらくは彼女のものだろう。無事だろうか?


シェルター内部の捜索はすぐに終わった。

研究用の小規模なものだったからだ。


全体で8室あり、それぞれが簡素な病室のような作りになっている。


どの部屋にも、彼女の姿はない。


奥に食料と水を備蓄した倉庫があった。

宇宙食のような食料が保管されている。


食料と水は使用した形跡が残っている。

彼女が少なくとも、すぐに死亡したわけでないことを伺わせる。


いくつか手に取り、食事を始めよう。

パッケージの説明を読む。

どうしてこういったものは、日本で見ても英語表記なのだろうか?


チューブパックに入った、流動食と水を飲む。

途端に腹痛がした。


古かったのかと訝しがったが、違う。

およそ2百年ぶりの便意だ。かなり苦労して排便をすます。


シェルターにはトイレも完備されている。

排泄をすますと水も流さずに吸い込まれていった。


なんとか腹ごしらえを済ませて、シェルターの外側へ移動する。

つい先程と、何もかわらないように見える。


空調機の計器を眺める。

埃がうっすらと積もっている。


放射能を示すランプは点滅しており、かなり微弱な反応を示している。

色は赤でなく緑の点滅。


核の半減期とはもっと長いものであったように思うが、正確にはわからない。

ランプの表示具合から判断すれば、とりあえず外にでても問題ないだろう。


いったん眠り、明日の朝に外に出てみよう。


部屋に一度戻り、保管してあった服に着替える。


ほかに何かないか探してみる。

食料があった倉庫に、リュックと手斧が有るのを見つける。


40センチほどの、小ぶりな斧だ。

手持ち部分は、木製を模した金属。


腰に下げられるよう、カラビナのついたケースに収められている。

手斧は念のため、腰に下げておく。


階段を上り、シェルターの上部へ向かう。

天井に付けられた、大きな電動扉をスライドさせる。


顔だけ出して、周囲を確認する。

外の空気は、意外にも新鮮に感じた。


1階なのに、上から光が差し込んでいる。

上を見ると、青空が見える。


本来あった建物の上部が失われていた。


扉を出て周囲を歩く。

崩れた建物は見事に緑化され、いつか映像で見たような、古代遺跡を思わせた。


駅から10分程度の距離にあったはずの研究所。

周囲にあった建物はなく、崩れたコンクリートの上に草が生えていた。


遠くに鳥の声が聞こえる。

そして蒸し暑い。


耳を澄ますが、あたりに人の気配はない。


子供の頃、大きな自然公園で迷ったことがある。

人気が無い所に迷い込んだ時、ただ不安だった。

それを思い出す。


手斧で草を払いながら、元は道路であったろう場所を歩く。


たった200年でこんなにも文明は消え去るものだろうか?

そう思わせるくらい、街は森へと姿を変えていた。


周囲を30分ほど探索する。

人影も、人工的な建物も見つからない。


遠くに鹿らしき生き物が、一度見えたきりである。


あてもなく彷徨うのも、危ないだろう。

一度シェルターに戻ることにする。


部屋に入り、倉庫の食料を確認してみる。

食料は高カロリーの流動食と水が20ケースほど。


食塩が段ボールにひと箱、50㎏と書かれている。

ビタミン剤らしきものもあった。


食事は1日1度とるだけでよいものらしい。

そうとうなカロリーなんだろう。


1ケースに100本ほどのチューブがあり、中身が正常であれば、年単位で生き残れそうだ。

水も1リットルのものが、2000個ほどある。


壁面には、水の循環処理の状況を示すパネルがあり、小さな光が稼働を示している。

排泄したものも、循環させる設備がついているようだ。






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