94.挑戦の夜の続き②
「――さて、次はジェラードさんのブレスレットをやりますか」
「ジェラードさんのもあるんですね。そういえばアクセサリは四つ買っていましたっけ」
「はい。これは昨日、少しやってみたんですけどね……」
そう言いながら鑑定のウィンドウを出してエミリアさんに見せる。
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【ブレスレット(S+級)】
一般的な装身具
※錬金効果:魔力が1%増加する
※追加効果:素早さが1%増加する
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「追加効果の方はジェラードさんに良さそうですね」
「ですよね! でも錬金効果の方が良いの付かなくて」
「ルークさんのがびしっと決まりましたから、あの調子でガツンといっちゃいましょう!」
「その前のドクロのネックレスは十回もやりましたけどね……。
でも良い流れが来てそうですし、ちゃちゃっといきますか!」
「はい!!」
そして意気込んで挑戦したものの、『魔力、精神力、力、魔力、ダメージ減少、魔力、魔力、力、ダメージ増加』――という結果に。
「まさに爆死」
「なかなか上手くいきませんね……。あの、ちょっと気分転換しませんか?」
「え? そうですね、それが良いかも」
「えっとですね、アイナさんにお渡ししたいものがあるんです」
「私にですか? 何だろ?」
そういうとエミリアさんはパジャマのポケットから紙包みを取り出した。新しいお菓子かな?
「えへへ、開けてみてください!」
「うーん?」
紙包みを受け取って開けてみると、中には金色のブレスレットが入っていた。
細い鎖で作られた、さり気ない感じのデザインが素晴らしい。
「わぁ、素敵ですね。これにも錬金効果を付けるんですか?」
「いえいえ、これはアイナさんへのプレゼントです」
「え? 何でまた?」
「イヤリングのお返しだと思ってください! あんなオンリーワンなものには及びませんが、私の気持ちということで」
「そんな、気にしないで良かったのに。でも頂けるというのであればありがたく頂きますね、ありがとうございます」
自分で買うのも良いけど、やっぱり誰かにもらうっていうのは嬉しいものだよね。
それがずっと使えるものであればなおさらだ。うん、私の好きな感じのデザインだし!
それにしても、いつの間に買ってきたんだろう? 確かに自由時間みたいなのは少し取ったけど。
「せっかくですので、それにも錬金効果を付けてみませんか?」
「そうですね。ジェラードさんの分で上手くいかなかったので、こっちはズバッと決めたいですね!」
「私もお祈りしてますね! ――あ、ちょっと待っててください!」
「え?」
エミリアさんは慌てて部屋を出て行ったあと、少しして戻ってきた。
「これこれ、これが無いと!」
そう言いながら、エミリアさんはイヤリングを付け始めた。
「え? 急にどうしたんですか?」
「いえ、せっかくなので形からでも入ろうかと思いまして」
「形?」
「いきますよー。
グロリアス・スターライト!!」
「へ?」
――キラキラキラーッ!
エミリアさんが魔法を唱えると、白く綺麗な輝きが部屋中を満たした。
イヤリングに付いたエコーの効果のおかげか、とても美しい光に見える。
「おぉ……。エミリアさん、これは何の魔法ですか?」
「これはちょっとした光の領域を作る魔法なんです。
ほぼ見掛けだけの魔法なんですが、運が少し上がる効果もあるんですよ」
「へー。こんな魔法もあったんですね」
「最近覚えたんです! でも使うタイミングが無かったので、この機会に是非と思いまして」
「おお、勉強熱心な。それにしても、ランダム効果があるときは良さそうですね」
ゲームでも、製造系のスキルを使うときには幸運が影響する場合があるしね。
「お役に立てれば幸いです! それではアイナさん、いってみましょう!」
「分かりました! それじゃ、れんきーんっ」
バチッ
そしてかんてーっ
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【ブレスレット(S+級)】
一般的な装身具
※錬金効果:光魔法『バニッシュフェイト』使用可
※追加効果:魔力が1%増加する
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「――うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!?」
「えぇえ!? え、エミリアさん!?」
「す、すごいです! アイナさん! すごいっ!!!!」
むぎゅ!
「むわっ!? エミリアさん! 柔らかいじゃなくて苦しい!!」
いきなり抱き着いてきたエミリアさんに、背中をぱしぱし叩いて即ギブアップ。
昨日も抱き着かれたし、心なしかスムーズにギブアップすることができた。
「――はっ!? す、すいません!!」
そう言うと、エミリアさんはようやく解放してくれた。
それにしても――
「突然どうしたんですか……?」
「アイナさん! この魔法! バニッシュフェイト!!」
エミリアさんは引き続き興奮を続けた。
「また魔法ですね、指輪のクローズスタンに続きまして。これってすごい魔法なんですか?」
「とにかく鑑定を!!」
「は、はい!」
それじゃ、かんてーっ
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【バニッシュフェイト】
光魔法。
すべての魔法効果を打ち消す
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「――おぉ……?」
「この魔法、光魔法のずっと上位の方にあるんですよ! 私もいつか覚えたい魔法のひとつなんです!」
「そ、そんなに良いものなんですか……? それじゃ、エミリアさんが使います?」
「いやいや! そのブレスレットは私がアイナさんにプレゼントしたものなので……それはダメです! アイナさんが使ってください!」
「そうですか?」
「アイナさんも私に言ってくれたじゃないですか。
『エミリアさんのプレゼント用に買って作ったものなので、エミリアさんが使ってくれると嬉しいです』って。
それと同じですよ~っ!」
「むぅ、確かに……。それじゃありがたく使わせて頂きますね」
そう言いながら、金色のブレスレットを左手首に付けてみる。
うん、可愛い。――のは良いとして、そういえばクローズスタンも含めて魔法を使ったことがまだ無いんだよね。
「ところでエミリアさん。魔法が使用可なのは良いんですけど、魔法ってどうやって使うんですか?」
「え? そういった装備を使う場合は、普通にスキルを使う感じでやれば良いと思いますよ」
「普通に……?」
そういえば錬金術スキルも鑑定スキルも『普通に』使ってるから、意識的なところでやればいけるってことかな?
それじゃ――
「バニッシュフェイト!」
――サアアアァッ……。
「「あ」」
何となく使ってみると、周囲のキラキラ――エミリアさんが作り出していたグロリアス・スターライトの光が消えてしまった。
「あぁ、せっかく作ってもらったのに消しちゃいました」
「ふえぇ……普通に使えてますね……。バニッシュフェイトって、本当だったらもう少し詠唱があったりとか大変なんですけど……」
「や、やっぱりエミリアさんが使います……?」
「却下です! アイナさんが一生使い続けてくださいっ!」
むぅ、分かりました。死ぬまで(?)使わせて頂きます。
「でも、魔法を消したくなる場面って今まで無かったんですよね。どういうときに使うんですか?」
「えぇっと……人と戦うとき、とかですね……」
「……なるほど」
人と戦うとき、そこには攻撃手段として魔法も当然のように登場するのだろう。
確かにそういった場面では、魔法効果を打ち消すというのは大きな力だ。
「――エミリアさんって、優しいですよね」
「えぇ? 何で急にそんな話に!?」
「戦場で泣いてる子供を守りながら敵に向かい合ってるエミリアさんが思い浮かびました。
『いつか覚えたい魔法』っていうのを聞いて、そんな感じかなって」
「私、どれだけ格好良いんですか!」
「あはは。そうですね、でもそれくらい立派な人だって思ってますよ」
「あぁ~、もう! アイナさんってば~!!」
むぎゅ。
何だか左のほっぺをつねられた。
「えぇっと、エミリアさん……。これは一体なんでしょうか……」
「いいから……ちょっと、このままでお願いします……」
「えー?」
エミリアさんは下を俯きながら私のほっぺをつねり続けている。
それにしてもさっきの台詞って、普通カップルとかが抱き着きながら言うものじゃないの?
なんで私、今つねられてるんだろ。




