Exx02.探し人
「――ママっ!!」
「リリー、久し振り!!」
……感動の再会、と言うべきか。
アイナ様は俺たち第三騎士団のメンバーと一緒に、半年の間をずっと『廃城の迷宮』で過ごしていた。
つまり愛娘であるリリー様とも、会うことが出来たのは半年ぶり……と言うことになる。
「やー、大きく――……は、別になってないか。
でも、何だかしっかりしたように見えるよ!」
「みゅ! 社会経験、ばっちりしてたからなの!」
「ふふふ、ちゃんと頑張れたみたいだね。
あとで色々、話を聞かせてね♪」
……ちなみにリリー様は、酒場でずっとアルバイトをしていた。
この街は『廃城の迷宮』から最も近く、ダンジョンに挑む冒険者が休息をする場所になっている。
そのため、情報収集を兼ねて酒場で働くことにしていたのだ。
「……ママの方は、もう大丈夫なの?」
「うん、さっきまで王様と会っていてね。
話はいろいろ付けてきたから、あとは例の件だけだよ」
この国は、北方の不毛な大陸に存在している。
目立ったものは『廃城の迷宮』があるだけで、そこから産出されるアイテムや、それを目的とする冒険者たちが落とすお金――
……そう言ったものが、かなりの収益になっているようだった。
しかし今回、その『廃城の迷宮』をアイナ様が消滅させてしまった。
だからこれから、この国は困ることになるはず……。
……ただ、国王との話がすんなり終わったところを見ると、きっと何かしらの話が以前から通っていたのだろう。
「――ルーファス様。
『犬』から、情報を受け取っております」
部下の一人が、俺に囁いてきた。
『犬』……と言うのは、第三騎士団の中での隠語だ。
アイナ様をどこまでも追い掛けてくる……そんなところから命名された、俺としては『仕方の無いヤツ』と言うイメージが強い人物。
俺は部下からメモを受け取って、それをそのまま確認する。
するとそこには、『探し人』が逃げる準備をしていることが、詳細に書かれていた。
「……明日の、早朝の便か。
アイナ様!!」
俺は、リリー様と抱き合うアイナ様に声を掛けた。
リリー様は少し不満そうな顔をしていたが、しかし俺たちがここまで来たのは、この『探し人』こそが目的なのだ。
アイナ様としては、『廃城の迷宮』を消滅させる……と言う目的があったのかもしれない。
しかし第三騎士団としては、この『探し人』こそが、今回の主な目的だと聞かされていたのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――深夜の街。
酒場が多く並ぶ、歓楽街。
どこもかしこも、『廃城の迷宮』の消滅が話題に上がっていた。
基本的には否定的な意見が多く、これからのことに不安を抱く人が多いようだった。
……そんな中、俺たちは徐々に、『探し人』を追い詰めていく。
そしてどうにか、薄暗い袋小路まで追い詰めることに成功した。
「――な、何だよ! お前ら!!
何で俺を追い掛けてくるんだよッ!?」
小奇麗な格好をした、美形の青年。
あどけなさは残るが、それはそもそもそう言う顔の作りだからだろうか。
マントを羽織り、フードを深く被り、しかしその目は爛々と輝いていた。
俺は正体不明な不気味さを感じたが、アイナ様は平然と、彼に向かって話し掛けていく。
「……初めまして。
あなたが、この世界に病気をばら撒いている転生者ね?」
「ッ!?
な、何者だ、お前はッ!!」
否定はしないが、その言葉自体が肯定をしている。
『転生者』……と言うのはアイナ様以外では初めて見るが、やはり俺たちと同じ、普通の人間のようだった。
「……ユニークスキル、『創造才覚<病原体>』。
まったく……。ゼリルベインの転生者は、ロクなのがいないよねぇ」
アイナ様は、俺に向かって困ったように笑った。
本来『転生者』とは、神々によって導かれるもの。
しかし虚無の神ゼリルベインが、生前に例外となるルールを作っていたのだとか。
俺もついさっき教えてもらったばかりだが、その仕組みが『廃城の迷宮』の最深部に存在していたらしい。
「く、くそ……!
もしかして、『廃城の迷宮』を消したのはお前らなのか!?
何だってそんなことを……ッ!!」
「……余計な転生者を生み出さないため。
この世界にはもう、転生者なんて要らないの」
アイナ様の声に、冷たさが帯びていく。
それに怯んだ『探し人』は、ナイフを引き抜き、アイナ様に襲い掛かる――
……しかしどこからともなく伸びてきた、黒い触手のような影。
その影が『探し人』の足に絡み付き、そのまま空へ、『探し人』を高く高く放り投げた。
「――ッ!!?
何だ、これは――」
「……でも、ある意味では感謝しているよ。
あなたが作った病気のおかげで、『彼女』とようやく出会えたんだから――」
そう言いながら、アイナ様は宙を舞う『探し人』を指差し、照準を合わせた。
……そして次の瞬間、『探し人』はこの世界から抹消されていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――全てが終わった。
『廃城の迷宮』を攻略したのは、新たな転生者を生み出さないため。
虚無の神が作ったルールによれば、そこから生み出される転生者は『世界に一人』しか存在できないらしい。
だからこそ、先にそのルールを排除してから、そのあとに『探し人』を始末することになったのだと言う。
……ダンジョンを攻略している間、どこか別の場所に行ってしまうことは不安だったが……。
この国の協力を得て、『探し人』を足止めすることが出来ていたのは幸いだった。
ついでに『犬』によるハニートラップもあったそうなのだが……まぁ、それはそれとしておこう。
アイナ様と一緒に、この大陸までやって来た第三騎士団は、俺を含めて31人。
その内の11人は『廃城の迷宮』の踏破に参加していたが、残りの20人はこの街にずっと残っていた。
……ダンジョンの踏破組は、正直かなり疲れている。
だから今日のところは、警護は滞在組に任せて、踏破組はゆっくり休ませてもらうことになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――深夜の2時頃。
俺は突然目を覚まして、再び寝入ることが出来なくなってしまった。
自分の部屋を出て、宿屋の1階にある酒場へと向かう。
この時間でも、きっと誰かしらがいるに違いない。
そんな誰かの、何でもない話を耳に入れていれば……きっとすぐに、眠くなってしまうはずだ。
……そう思って酒場に足を運ぶと、予想外の人物が、ひとりでテーブルに着いていた。
それ以外は……空席のようだった。
「……アイナ様? こんな時間に、どうされたのですか?」
俺たちの主、アイナ様。
よくよく見れば、酒場のあちこちに第三騎士団のメンバーが護衛をしてくれている。
「あれ、ルーファス?
そっちこそ、どうしたの?」
「いえ、突然目が冴えてしまいまして……」
「あはは、色々と大変だったからね。
……私はちょっと、珍しく飲みたい気分でさ」
「それは本当に、珍しいですね」
俺はアイナ様に促されて、正面の席に座ることになった。
仕えている身ではあるものの、勧められた以上、こうするのが俺たちのスタイルなのだ。
俺たちはそのまま、この国まで辿り着いたまでのこと、『廃城の迷宮』を攻略していったときのことを話していった。
それはここ数年の話ではあるが、もはや全てが懐かしく感じられた。
「……はぁ。本当に、ルーファスには世話になったよね。
今回の旅は、ルーク以来の大冒険だったんじゃないかな……」
ふと、アイナ様がグラスの氷を見ながら呟いた。
……ダンジョンが攻略されるのは、実は今回が世界で初めてとなる。
簡単なダンジョンでさえも、攻略されたものは他に存在しないのだ。
「いえ、アイナ様がいればこそ……です。
今回のダンジョンの攻略だって……」
「……うぅん、私だけの力じゃないよ。
ルーファスの力、第三騎士団の力……。
それにエミリアさんの力だって無ければ、あんなところまでは絶対に行けなかっただろうし……」
アイナ様は何かを懐かしむように、指に嵌めた指輪を眺めていた。
神器のひとつ、神煌クリスティア。……その隣の指に嵌められた、青色の宝石の指輪。
「『暴食の聖女』、エミリア様……ですか?」
「……『エミリアの秘宝』って、聞いたことがある?
実はね、あれって、この指輪のことなんだ」
そう言ってから、改めて指輪を見せてくれる。
見た目は……何でも無い、普通の指輪だ。
「そうなんですか……。
実物は誰も見たことが無いと聞かされていましたが……、まさか、ずっと目にしていたものだったとは……」
「あの日、これをもらってから……ずっと嵌めているからね。
……はぁ、もう一度エミリアさんに会いたいなぁ……」
アイナ様曰く、『エミリアの秘宝』とは、エミリア様がアイナ様に遺した魔法アイテム……なのだと言う。
エミリア様が覚えた魔法を、死の直前に、神器の力を使って全て封じ込めた指輪――
……なるほど。アイナ様が膨大な数の魔法を使えるのも、これで納得がいくと言うものだ。
「……みんなの力で、色々なつっかえがようやく取れたよ。
この世界にはもう、おかしな干渉は生まれないはずだから……」
「『この世界』……ですか。
アイナ様は、人智の及ばないところで大変なんですね……」
「そうなんだよぉー……。
何だかもう、最近はアドラルーン様まで無茶なことを言い出すしさぁ……」
「……はぁ。
絶対神様と普通に交流がある時点で、何と言うか、その……」
「えぇーっ!?」
酒に酔っているせいなのか、俺の知っているアイナ様とは別人のようだった。
陽気で無邪気で隙だらけ。
……しかし、どうにも愛おしい。
そんな想いに従おうとする腕を、俺はどうにか制していく。
……危ない。
正直、嫁さんと言う存在がいなかったら……抱き締めてしまっていたかもしれない……。
……ダメだぞ、ルーファス。
ご先祖様だって、みんな我慢をしていたはずなんだから……。




