Ex90.誘導
ミラちゃんたちと一緒に遊んだ次の日も、私は別のクラスメートと遊んでいた。
これで三日間、ずっと遊び続けたことになるけど……こんなに遊んだのは、聖都に来てから初めてのことかもしれない。
夏には長期休暇があったものの、そのときはアルバイトやら調べ物をしていたからね。
「……はぁ、もう朝かぁ……」
さらに次の日。
世間はまだまだ三百年祭だけど、それでもピークは過ぎてきたような気がする。
私は今日、何の予定も入っていない。
振り返ってみれば、三日連続で遊ぶ前、記念式典の日まで『妖精のアミュレット』作りで忙しかったから……。
その辺りからの疲れも、そろそろ表に出て来てしまったようだ。
「……寝よっかな……」
頑張れば何とかはなると思うけど、それにしても休みたい。
いくら楽しい時期とは言え、体調が万全で無ければ楽しめるものも楽しめない。
……よし、今日は素直に寝てしまおう。
特別な期間に、何もしない。
これはある意味、とても贅沢なことでは無いだろうか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――……ミーシャさん?」
まどろみの中、懐かしい声が聞こえてきた。
ぼんやりとベッドで身体を起こしてみれば、部屋の扉が少し開いていて、そこからターニアちゃんが覗き込んでいた。
「あー……。
ターニアちゃん、お帰りー……」
「ただいまです。
それよりもミーシャさん? 体調でも崩したんですか?」
ターニアちゃんはふわふわと飛びながら、私の方に近付いてきた。
「んー、そうじゃないんだけど……。
何だか疲れちゃって」
「はぁ。三日も遊び続ける約束でしたよね?
体力があるとは言え、無理はしないでください」
「うん、ありがと。
でももう、三百年祭は一通り楽しんだからいいや……。
……ターニアちゃんは、楽しんで来た?」
「まぁまぁって感じです。
そもそも私、軽く眺めて来ただけですけど」
「あ、そうなんだ。
それじゃずっと、妖精の仲間と一緒にいたのかな?」
「えーっと、そう言うわけでは無いんですが……」
「え? そうなの?
ターニアちゃん、友達いないの?」
「そ、そんなわけ無いじゃないですか!
私にはいますよ、友達の100人くらい!」
「……それはそれで、凄いね……」
仮に100人と仲良く出来たとしても、そのまま全員と仲良くいられるなんて至難の技だと思う。
実際のところは、きっとただの比喩なんだろうけど。
「ふふふ、そうでしょうとも!
ちなみに私、リリー様たちのお手伝いをしてきたんです!」
「リリーちゃんたちの……?」
「はい。
三百年祭が終わったら、もう発ってしまうと言う話でしたので……。
だから色々と、お手伝いをしてきたんです」
「へー、そうなんだぁ……。
それじゃ、リリーちゃんたちは三百年祭には参加していなかったのかな?」
「いえ、忙しくはあったんです。
えぇっと……、リリー様のお母様が、お忙しい方ですので」
「ああ、それもそうか。
外国からも人がたくさん来てるし、会う人も多かったんだろうね」
何せお母さんは商売もやっている人だから、今回のこの時期はきっと大変な商機だっただろう。
お祭りに参加しない、イコール、何もやっていない……と言うことにはならないよね。
庶民には庶民の、ハイクラスな人にはハイクラスな人の、そんな過ごし方があるに違いない。
「……ところで、ミーシャさん?
4日後って、空いていますか?」
「ん? 4日後って言うと……、三百年祭が終わったあとかな?」
「はい。その日の朝に、ちょっとお時間を頂きたく」
「別に構わないけど……。何かあるの?」
「何かあるんです」
「な、何があるのかな!?」
「それはそのときのお楽しみと言うことで……」
「えぇ……」
ふわっとした、ターニアちゃんからの約束。
私が返事にもたついていると、『それじゃ!』みたいな空気を出して、そのまま飛んでいってしまった。
時計を見れば、時間はまだ15時過ぎ。
夕食の時間まではまだまだあるし、疲れもまだ取れていないから――
……うん。
ターニアちゃんには申し訳ないけど、私はもう少し、このまま眠ることにしようかな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……その後は徐々に、いつもの日常へと戻っていった。
三百年祭の期間ではあるけど、今はもう気分転換に出掛けて少し遊ぶ……くらいになっている。
メリハリが大切……って言うのかな。
記念式典では良いものを見れたし、イーディスやミラちゃん、エリナちゃんともたくさん遊べたし……。
三百年祭が終われば、また授業が始まる。
そのときは私も2年生。後輩の1年生が入ってくるわけだから、今まで以上にしっかりしないとね。
……まぁ、直接絡むことなんて無いんだけど。
「ミーシャさん? 暇ですか?」
唐突に、ターニアちゃんが聞いてきた。
「え? 勉強するから暇ってわけでも無いけど……。
でも、時間なら取れるよ?」
ターニアちゃんの質問の意図が分からず、私はひとまずそんな風に答えた。
「それなら、工房で何か作りませんか?」
「あー、それも良いね。
時間が空いちゃうと、何となく勘も鈍っちゃうし……」
「鈍るような勘、もうお持ちなんですね」
「褒めてるのか、煽ってるのか……」
「感心したんです」
「煽ってるね!?」
……とは言っても、これくらいはターニアちゃんとなら日常のことだ。
むしろこういうやり取りはもう、最近では面白くなっていたりして……。
私も随分、耐性が付いてきたと言うものだ。
「さて、それでは何を作りましょう」
「ここは……そうだねぇ。
高品質を目指して、中級ポーションでも作る?」
「そろそろ高級ポーションとか、作りませんか?」
「それ、3年生の範囲!」
早ければ2年生の後半でやるところ……ではあるが、それにしても先取りをし過ぎだ。
仮に出来たとしても、品質なんてお察し状態なのでは無いだろうか……。
「まぁまぁ、ここは果敢にチャレンジしてみましょう」
「えぇー……。
折角ちょっと、良い気分なのに……」
『妖精のアミュレット』を無事に完成させて、楽しいお祭りの時期を過ごすことが出来て……。
ここまで良い流れで来ているのに、実力不相応のアイテム製作をして……、それで何か良いことがあるのかな……。
「素材代は私が持ちますので、折角だから作ってみましょう!」
「え、えぇ……?
そこまでして……?」
……まぁ、たまには背伸びをして失敗するのも良い……のかなぁ……。
私は完全には納得できないまま、ターニアちゃんの誘導に従ってしまうのだった……。




