表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
外伝 ミーシャのアトリエ ~ラミリエスの錬金術師~
906/911

Ex90.誘導

 ミラちゃんたちと一緒に遊んだ次の日も、私は別のクラスメートと遊んでいた。


 これで三日間、ずっと遊び続けたことになるけど……こんなに遊んだのは、聖都に来てから初めてのことかもしれない。

 夏には長期休暇があったものの、そのときはアルバイトやら調べ物をしていたからね。



「……はぁ、もう朝かぁ……」


 さらに次の日。

 世間はまだまだ三百年祭だけど、それでもピークは過ぎてきたような気がする。


 私は今日、何の予定も入っていない。

 振り返ってみれば、三日連続で遊ぶ前、記念式典の日まで『妖精のアミュレット』作りで忙しかったから……。

 その辺りからの疲れも、そろそろ表に出て来てしまったようだ。


「……寝よっかな……」


 頑張れば何とかはなると思うけど、それにしても休みたい。

 いくら楽しい時期とは言え、体調が万全で無ければ楽しめるものも楽しめない。


 ……よし、今日は素直に寝てしまおう。

 特別な期間に、何もしない。

 これはある意味、とても贅沢なことでは無いだろうか。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――……ミーシャさん?」


 まどろみの中、懐かしい声が聞こえてきた。

 ぼんやりとベッドで身体を起こしてみれば、部屋の扉が少し開いていて、そこからターニアちゃんが覗き込んでいた。


「あー……。

 ターニアちゃん、お帰りー……」


「ただいまです。

 それよりもミーシャさん? 体調でも崩したんですか?」


 ターニアちゃんはふわふわと飛びながら、私の方に近付いてきた。


「んー、そうじゃないんだけど……。

 何だか疲れちゃって」


「はぁ。三日も遊び続ける約束でしたよね?

 体力があるとは言え、無理はしないでください」


「うん、ありがと。

 でももう、三百年祭は一通り楽しんだからいいや……。

 ……ターニアちゃんは、楽しんで来た?」


「まぁまぁって感じです。

 そもそも私、軽く眺めて来ただけですけど」


「あ、そうなんだ。

 それじゃずっと、妖精の仲間と一緒にいたのかな?」


「えーっと、そう言うわけでは無いんですが……」


「え? そうなの?

 ターニアちゃん、友達いないの?」


「そ、そんなわけ無いじゃないですか!

 私にはいますよ、友達の100人くらい!」


「……それはそれで、凄いね……」


 仮に100人と仲良く出来たとしても、そのまま全員と仲良くいられるなんて至難の技だと思う。

 実際のところは、きっとただの比喩なんだろうけど。


「ふふふ、そうでしょうとも!

 ちなみに私、リリー様たちのお手伝いをしてきたんです!」


「リリーちゃんたちの……?」


「はい。

 三百年祭が終わったら、もう発ってしまうと言う話でしたので……。

 だから色々と、お手伝いをしてきたんです」


「へー、そうなんだぁ……。

 それじゃ、リリーちゃんたちは三百年祭には参加していなかったのかな?」


「いえ、忙しくはあったんです。

 えぇっと……、リリー様のお母様が、お忙しい方ですので」


「ああ、それもそうか。

 外国からも人がたくさん来てるし、会う人も多かったんだろうね」


 何せお母さんは商売もやっている人だから、今回のこの時期はきっと大変な商機だっただろう。

 お祭りに参加しない、イコール、何もやっていない……と言うことにはならないよね。


 庶民には庶民の、ハイクラスな人にはハイクラスな人の、そんな過ごし方があるに違いない。



「……ところで、ミーシャさん?

 4日後って、空いていますか?」


「ん? 4日後って言うと……、三百年祭が終わったあとかな?」


「はい。その日の朝に、ちょっとお時間を頂きたく」


「別に構わないけど……。何かあるの?」


「何かあるんです」


「な、何があるのかな!?」


「それはそのときのお楽しみと言うことで……」


「えぇ……」


 ふわっとした、ターニアちゃんからの約束。

 私が返事にもたついていると、『それじゃ!』みたいな空気を出して、そのまま飛んでいってしまった。


 時計を見れば、時間はまだ15時過ぎ。

 夕食の時間まではまだまだあるし、疲れもまだ取れていないから――


 ……うん。

 ターニアちゃんには申し訳ないけど、私はもう少し、このまま眠ることにしようかな。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ……その後は徐々に、いつもの日常へと戻っていった。

 三百年祭の期間ではあるけど、今はもう気分転換に出掛けて少し遊ぶ……くらいになっている。


 メリハリが大切……って言うのかな。

 記念式典では良いものを見れたし、イーディスやミラちゃん、エリナちゃんともたくさん遊べたし……。


 三百年祭が終われば、また授業が始まる。

 そのときは私も2年生。後輩の1年生が入ってくるわけだから、今まで以上にしっかりしないとね。

 ……まぁ、直接絡むことなんて無いんだけど。



「ミーシャさん? 暇ですか?」


 唐突に、ターニアちゃんが聞いてきた。


「え? 勉強するから暇ってわけでも無いけど……。

 でも、時間なら取れるよ?」


 ターニアちゃんの質問の意図が分からず、私はひとまずそんな風に答えた。


「それなら、工房で何か作りませんか?」


「あー、それも良いね。

 時間が空いちゃうと、何となく勘も鈍っちゃうし……」


「鈍るような勘、もうお持ちなんですね」


「褒めてるのか、煽ってるのか……」


「感心したんです」


「煽ってるね!?」


 ……とは言っても、これくらいはターニアちゃんとなら日常のことだ。

 むしろこういうやり取りはもう、最近では面白くなっていたりして……。

 私も随分、耐性が付いてきたと言うものだ。



「さて、それでは何を作りましょう」


「ここは……そうだねぇ。

 高品質を目指して、中級ポーションでも作る?」


「そろそろ高級ポーションとか、作りませんか?」


「それ、3年生の範囲!」


 早ければ2年生の後半でやるところ……ではあるが、それにしても先取りをし過ぎだ。

 仮に出来たとしても、品質なんてお察し状態なのでは無いだろうか……。


「まぁまぁ、ここは果敢にチャレンジしてみましょう」


「えぇー……。

 折角ちょっと、良い気分なのに……」


 『妖精のアミュレット』を無事に完成させて、楽しいお祭りの時期を過ごすことが出来て……。

 ここまで良い流れで来ているのに、実力不相応のアイテム製作をして……、それで何か良いことがあるのかな……。


「素材代は私が持ちますので、折角だから作ってみましょう!」


「え、えぇ……?

 そこまでして……?」



 ……まぁ、たまには背伸びをして失敗するのも良い……のかなぁ……。

 私は完全には納得できないまま、ターニアちゃんの誘導に従ってしまうのだった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] スキルのレベルが上がったのか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ