Ex88.待ち合わせ
――翌朝。
「……はぁ」
疲れが癒えないまま、私は目を覚ました。
昨日の日中は建国三百年祭の記念式典があって、夜は花火大会を堪能して、故郷の人たちと楽しく騒いで……。
その後、イーディスは私の家に。
他の人は、部屋を取っている宿屋に。
……で、そこから私がアイナ様と会ったときの話をイーディスにして……。
私が危ない目に遭ったことはこっそり隠そうとしたものの、やっぱり途中で見抜かれてしまって……。
観念して全部正直に話したら、やっぱり凄く怒られて……。
自分のために誰かが危険な目に遭うなんて、普通なら止めて欲しいのは当然のわけで……。
それが幼馴染、親友と言う立場の人間なら尚更のことで……。
……イーディスは今、隣の部屋で眠っているはず。
まだ早い時間だから、起きてくるにはもう少し時間があるかな……?
それならひとまず、朝食でも作ることにしてしまおう……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
まずはパンやらサラダの準備をして……。
卵も焼こうと思ったけど、折角なら焼きたてを食べたいから、ひとまずは置いておいて……。
「……そう言えば、ターニアちゃんは楽しんでいるかなぁ……」
数日の間、ターニアちゃんはここには戻って来ない話になっている。
私も作業をする予定は無いから、折角だし長期休暇を楽しんできてもらいたいところだ。
何しろ日頃、生活の面倒まで見てもらっているからね……。
「……おはよ」
「あ、イーディス。おはよー」
昨晩、散々怒られた記憶が鮮明に残っている。
明るく挨拶をしたものの、私としてはまだまだ気まずいところがあるんだけど……。
「朝食、作ってくれたの? ありがとね」
「ううん。これくらいは全然。
後は卵を焼くだけだから、椅子に座って待ってて」
「ん、分かった。
……それにしてもミーシャ、自分で朝食を作ってるんだねぇ」
「え? 私、村でも作ってたよ?」
「そうだったっけ?」
「そうだよー。
私のダメダメなイメージ、勝手に広げないでよ」
「あはは、そう言うわけじゃないんだけどさ」
私が卵を焼いている間、イーディスは私の方をぼんやりと眺めていた。
何だか少し、気分が良さそうにも見えるけど……何なのかな。
「――はい、出来た」
「わぁ、美味しそう」
「そう? 卵、焼いただけだけど」
「んー? 今日は百倍増しで、美味しそうに見えるね」
「そこまで言われると、逆にちょっと……。
でもまぁ、温かいうちに食べちゃお?」
「そうだね。それじゃ、いただきまーす」
「はい、召し上がれ。
私も、いただきまーす」
イーディスに褒められたのは嬉しいけど、実際に食べてみれば……まぁ、普通の卵焼きだ。
それはそのはずで、卵をただ焼いただけなんだから……。
……特に話もせず、私たちは黙々と食べ続けた。
そしてそのまま別れの時間になるまで、何となくの沈黙が流れてしまうのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――時間は8時。
村の人が集まる場所に、私も見送りに行くことに。
「それじゃ、ミーシャちゃん。
これからも頑張るんだぞ」
「はい、たくさん頑張ります!」
「立派な錬金術師になって、村に帰ってきてくれよ。
ミーシャちゃんのご両親にも、頑張ってることはちゃんと伝えておくからね」
「あはは……。良い感じでお願いしますね」
馬車が出る時間になると、村の皆は次々に乗り込んでいった。
そして最後に残ったのは、イーディスがただひとり。
「……ん?
イーディス、どうしたの? 乗らないの?」
「ん……。
……ミーシャ、昨日はごめんね」
そう言いながら、イーディスは私のことを抱き締めてきた。
「え、えーっと……?」
私は何のことか分からず、一瞬混乱してしまった。
特に謝られることなんて、された覚えは無いんだけど……。
「……昨日、たくさん怒っちゃってごめんね。
ミーシャも、私のために頑張ってくれたんだもんね。
それは本当に、本当に分かっていたんだけど……」
……ああ、なるほど。
イーディスが怒った気持ちは分かる。
ただ、それ以外の感情も色々と絡み合っているはずで……。
……私も、怒られたことは怒られたこととして受け止めて。
でも、イーディスが悩んでしまわないように、何かを言わないと……。
「う、ううん。
イーディスが怒るの、凄く当然だもん。
だから気にしてはいないと言うか……そもそも、もうたくさん怒られちゃってたし……?」
私は学院長先生に怒られたことを念頭に、何とか台詞を振り絞ってみた。
大した慰めにもならず、そもそも言っていて情けなくなってしまうけど……。
「……今度また会ったときに、埋め合わせは絶対にするから。
それまで元気でね……」
「うん……、分かった」
最後にイーディスともう一度強く抱き締め合ってから、私たちはそこでお別れをした。
次に会うのはいつになるのか。
順当にいけば、私が村に戻ったとき。
でももしかすると、イーディスが聖都に引っ越してくるかもしれないし……。
……本当、どうなることやら……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……時間は10時の少し前。
今日は学院の友達と一緒に、三百年祭をまわる予定だ。
待ち合わせの広場に行くと、既にエリナちゃんが来ているのが見えた。
エリナちゃん、待ち合わせのときには結構早く来るタイプなんだよね。
「ミーシャさん、おはようございます!」
「エリナちゃん、おはよー……って、あれ?」
挨拶をした直後、エリナちゃんが思いもよらない人と一緒にいることに気付いた。
私としては、ずっとご一緒したかった相手ではあるんだけど――
「ミーシャさん、おはようございます」
……エリナちゃんと、全く同じ挨拶。
しかし雰囲気は、エリナちゃんよりもずっとずっと落ち着いている。
「ミラちゃん!!」
私の言葉に、彼女はにっこりと微笑んだ。
……でも、何で一緒にいるんだろう?
ミラちゃんとは今日、特に約束をしていないはずなんだけど……。




