Ex83.納品
――早朝、4時。
外から戻って来たターニアちゃんと一緒に、うつらうつらとしていると、工房の扉が叩かれる音が聞こえた。
ここから訪ねてくるのはポッポル君……くらいだけど、さすがにこの時間に来るはずも無い。
だから来たのは、きっと早朝に約束をしていた人――
「……ルーファス。おはよー……」
「よっ、朝早くにごめんな。
……さすがに眠いよな。本当にごめん」
「んーん、大丈夫。それじゃ、中に入って?」
「おう。お邪魔しまーす」
いつもはお店の方から訪ねてくるルーファス。
今日は慣れていない工房側からだから、どうにも少し緊張しているようだ。
『工房』って言うのは職人にとって聖なる場所だから、そう言った意味で緊張しているのかもしれない。
「おはようございます、ルーファス様。
お茶をどうぞ」
「ありがとう、働き者の妖精さん」
「いえいえ!」
ルーファスにお茶を出すと、ターニアちゃんは少しデレた感じで奥に消えていってしまった。
やっぱり私に対する態度と違うなぁ……。
……って言うか、どこかに行っちゃった。
品物を渡すところには立ち会ってくれないのか……。
「ところでさ、無茶な注文だったけど……何か出来たかな」
「無茶な注文って自覚はあったんだ……」
ルーファスの言葉に、私は少し呆れてしまった。
それなのに、あんなに飄々と帰っていってしまったのか。
「話が全然、具体的じゃなかっただろ?
家に帰って改めて考えたらさ、本当にそう思えてきて……」
「それなら、具体的に言い直しに来るとか……考えなかったのかな?」
「んー……。
本当にダメだったら、ミーシャなら聞きに来るかなぁ……って」
ルーファスはそう言うと、苦笑いをしながらお茶を口に運んだ。
「まぁ、そうかもだけど……。
ただ今回は、ターニアちゃんに教えてもらった良いアイテムがあったってだけだからね?」
「へぇ? どんなものを作ったんだ?」
「それじゃ、お披露目しまーす!」
私は少しテンションを上げて、綺麗な細長のケースから中身を取り出した。
このケースはターニアちゃんが調達してきたもので、金貨1枚に相応しい風格を漂わせている。
入れ物に金貨1枚……。
私にはちょっと、縁の無い世界だけど……。
「おー……。
それは、ペンダント?」
私の手に乗せた装飾品を、ルーファスはまじまじと覗き込んだ。
「これは『妖精のアミュレット』って言うアイテムなの。
形は色々と出来るそうなんだけど、フランが身に付けると思ってペンダント型にしたよ」
「なるほど、とっても綺麗だな。
確かにフランには似合いそうだけど……でもこれ、錬金術なのか?」
「ぱっと見、ただのペンダントだけどね?
でもターニアちゃん曰く、『恋人に想いを伝える』って言う効果があるんだって!」
「恋人――
……って、いやいや! 俺とフランはそんな仲じゃないんだが!?」
「今さら何を言ってるの……」
「え? 何をって、何が!?」
「だって、フランは言わずもがなだけど……。
ルーファスだって、まんざらじゃないじゃん。
それならもう、恋人と言っても過言では無いでしょう」
「いや、過言じゃないか!?」
「過言では無いでしょう」
「ごり押すつもりか!?
……ま、まぁいいや。それで、えーっと、その効果なんだけど……」
「『恋人に想いを伝える』って言うくらいだから、良い感じで想いを伝えてくれるんじゃないかな!」
「え……?
説明、それだけ……?」
「妖精の世界では、古くから伝わるお守りだそうだよ。
だから大丈夫、大丈夫だって!」
「え、えー……。もっと具体的に、こう……」
「詳細に効果を伝えたいのはやまやまなんだけどね、鑑定する時間も無かったの。
だからもうアイテムに頼りきらないで、今思っていることをそのまま伝えれば良いんじゃないかな。
そしたらこのペンダントが、きっと後押しくらいはしてくれると思うよ!」
「むぅ……。いや、しかし……」
「贈り物なんて、ただのきっかけだから!
大切なのはそれよりも、本人の気持ち!!
頑張れ男の子!!!!」
「う……。
た、確かに俺も……ミーシャに頼り過ぎていたかもしれない……」
「今後のサポートはちゃんとするから、ここはドーンと、しっかり気持ちを伝えて来なさい!!」
「わ、分かった……。
それじゃ、話をしたあとに……、この『妖精のアミュレット』? しっかり渡すことにするよ……」
「うん。せっかく作ったものなんだから、ちゃんと渡してね。
フランの好みっぽく作ったしさ」
……私のごり押しが奏功して、ルーファスに何かの決心をさせることが出来た。
『妖精のアミュレット』にはしっかり効果があるはずだけど、アイテムばかりに頼っていると、ダメだったときに後悔が残るからね。
やっぱりこう言う大切なことは、自分の意思を以ってやり遂げなければいけないのだ。
……アイテムはただのきっかけ。
それくらいの位置付けが、きっと丁度良いだろう。
「それじゃ、代金を払わせてもらうよ。
友達価格とかは要らないから、しっかり請求してくれよな」
「うん、それじゃ金貨4枚でお願い。
素材で金貨2枚、手間賃で金貨1枚って感じ」
「……え? それなら少し、高くないか?」
「あとはケース代で、金貨1枚……」
「おっと……。
確かにこのケース、良いものだもんな。
なるほどなるほど、それじゃ金貨4枚……っと」
ルーファスはお財布から金貨を確認すると、私にしっかり手渡してくれた。
「はい、確かに。今後ともよろしくね!」
「おう、また何かお願いさせてもらうよ。
……それじゃそろそろ、帰ろうかな」
「今日も忙しそうだもんね。
あんまり無理しないで、適度に頑張ってね」
「ああ、肝に銘じておくよ。
働き者の妖精さんにもよろしくな!」
「うん、伝えておく。
……名前はターニアちゃん、って言うの。
今度は名前で呼んであげてね」
「そうだな、次からは気を付けるよ」
「と言っても、本人はあんまり気にしてなさそうだけど……」
「ま、知り合えたのも何かの縁だしさ。
それじゃミーシャも、記念式典は楽しんでくれよな!」
ルーファスは爽やかに明るい笑顔を見せると、そのまま帰っていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ルーファス様、お帰りになりましたか?」
「うん。
『妖精のアミュレット』はしっかり渡せたから……、あとは本人の頑張り次第かな!」
「そうですね……。
上手く行くように、願掛けでもしておきますか?」
「願掛け? 例えばどんなやつ?」
「ミーシャさん? が、滝に打たれたり」
「えぇっ!? そんなの嫌だよ……。
って言うか、この辺りに滝なんて無いでしょ……?」
「『水の迷宮』の中に、あるそうですよ?」
「えぇ……。そんなところまで行って、滝に打たれたくなんてないよ……」
「他には、燃える地面の上を裸足で歩いたり……」
「それ、どこの風習なのかな……?」
……ひとまずそんな願掛けは置いておいて。
私は普通に、ルーファスとフランが上手くいくように神様に祈っておくことにしよう……。




