Ex81.作成中……
――街は賑やか。
ちょうど1週間後に、建国三百年祭の中心となる記念式典が予定されている。
その前後の1週間、合計2週間がいわゆる『建国三百年祭』と呼ばれる期間だ。
私が遊ぶ約束をしているのは、後半の1週間。
後半の方が他の国からたくさんの人が来ているだろう……と言うことで、そちらに合わせることにしたのだ。
見世物とかも、多くなる予定だって聞いているからね。
「……でもやっぱり、気にはなるよね……」
街を歩くと、あちこちから露店が見えてくる。
これから徐々に人が増えていく……と言う話ではあるが、賑わいとしてはもう十分な程だった。
騎士団の人たちがあちこちで見回りをしているようだけど、人がもっと増えたら大丈夫なのかな……?
まぁ私がどうにか出来るわけでも無いし、ここはこっそり無事を祈っておくくらいにするとしよう。
「ミーシャさん? あっちの方に、面白そうなものがありますよ」
ターニアちゃんが私の上空を飛びながら、遥か向こうを指している。
こう言うとき、空を飛べるって便利だよね。
「うーん、私は後半に行く予定だから……。
今は我慢、我慢……」
「自制しているんですか? それとも、好奇心が枯れているんですか?」
「自制してるんだよー」
「枯れてますね……」
「ひ、人の話を聞いてたのかな!?」
「でも、美味しそうなものがたくさんありましたし……。
食事番をしている身としては、やっぱり興味がありますね」
「あ、そっちなんだ?」
「え?」
「いや、てっきり面白い見世物でもあるのかなーって……。
……なるほど、ターニアちゃんは仕事を見て覚えるクチだもんね。
料理の方が良いのか……」
「もちろんです。いつかはあの方の食事番も出来るようになりたいですから。
錬金術と料理は、私の二大目標なんです」
……『あの方』と言うのはもちろん、リリーちゃんたちのお母さんのことだ。
でもお母さんは料理の腕も凄いから、食事番を任せられるようになるには……さぞかし大変なんだろうな。
「私は錬金術だけだからなぁ……。
もうひとつくらい、何かあっても良さそうだよね?」
「ミーシャさん?
二兎追う者は一兎も得ず、とも言いますよ?」
「え、この流れでそれを言っちゃうの?
ターニアちゃんの話に乗ってあげたのに!」
「せめて営業スキルとか、そう言うのにしませんか?」
「うーん……?
まぁ、お店もやりたいとは思っているからね……。
……でも何だか、錬金術の延長って言うか……?」
「バレましたか」
「ちょっと!?」
「でもミーシャさん? は、錬金術を学んでいる最中なんですから。
それこそ、他のものを追っている時間は無いかと」
「ま、まぁそうなんだけど……。
ほら、気分転換に何かあった方が良いかなー、みたいな」
「なるほど。
挫折を味わったとき、逃げる場所も必要ですからね」
「な、何で急にそんなシリアスな話になるの!?」
「目標が大きいほど、挫折は当然のように生まれると思いますが……。
もしかして、そう言うことは今までに無かったんですか?」
「うん、まだ無いかな。
……ターニアちゃんには『図太いですね』とか言われそうだけど」
「よく分かりましたね」
「さすがにそろそろ、言いそうなことは分かってきたよ。
……って、本当にそう思ってたの!?」
「さすがです」
「褒めてるの!?」
「さて、それじゃ帰りますよ。
素材も買いましたし、『妖精のアミュレット』作りに入らないと」
「仕切らないでっ!?」
街に漂う非日常の空気に酔ってしまったのか。
私とターニアちゃんは、変なテンションのまま帰宅することになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
早めの夕食を済ませて、その後は工房で『妖精のアミュレット』の製作に着手する。
私は作り方を知らなかったけど、ターニアちゃんが詳しく聞いてきてくれていた。
「……でも、そう言うのに詳しい妖精さんがいるんだね」
「はい。妖精も何かを作って、ポッポルみたいな行商に売ってもらう……なんてことがあるんです」
「私が受けたような錬金術の依頼は、設備が必要だったりするからね……。
自分たちで出来るのは、自分たちでやっちゃうんだねー」
「そうですね。
それにしても妖精の依頼を受けてくれる錬金術師なんて、なかなかいないんですよ。
まったく、ミーシャさん? は奇特な方です」
「まぁ奇特でも何でも、誰かの役に立てるなら嬉しいよ」
「そして無駄に前向きですよね」
「後ろ向きよりは良いんじゃない?」
「そう言うところ、前向きですよね」
「あはは、ありがと♪」
ターニアちゃんの刺のある言葉をかわしつつ、私は『妖精の花びら』の下処理に入っていった。
最終的には透明な樹液で固める感じなんだけど、しっかり綺麗に見えるように調整をしないといけないのだ。
「……そうそう。
花びらはちゃんと良い形に……。
あ、もう少し角度を付けた方が……」
「こう? いやいや、こうかな?」
「ああ、そっちの方が良いですね。
ミーシャさん? は、美的センスは平均よりも少し上ですよね」
「少し?」
「はい、少し」
……まぁ、僅かであったとしても……ターニアちゃんから褒められるのは稀なことだし?
いつかは普通に、しっかり褒められたいところだけど……。
「でもこの樹液って、ちょっと茶色掛かってるよね?
花びらは白いのに、漬けちゃって大丈夫なの?」
「この樹液は固まると透明度が増します。
固まったあとは少し鈍い色になりますが、また別の処置を入れるので大丈夫ですよ」
「なるほどなるほど……。
いや、まさか私の方が教わることになろうとは……」
「作り方を知らないなら、それも仕方が無いんじゃないですか?」
「まぁそうなんだけど……。
でも素材の性質くらい、私も知っておきたかったなぁ……って」
「なるほど、勉強不足ですね」
「いやいや、この樹液はまだ教わってない範囲だから!」
「言い訳は達者ですね。
それより工程はまだまだあるので、どんどん進めましょう」
「分かりました、ターニア先生!」
「おふざけはやめてください」
「うぐぅ……」
ターニアちゃんはぴしゃりと言うと、そっぽを向いてしまった。
くぅ。作業の合間の冗談くらい、別に良いじゃないか……。
……まぁそれはそれとして。
教えてもらった工程を振り返ってみれば、『妖精のアミュレット』が完成するのは約束の前日になりそうだ。
待ち時間もあるから、ずっと手が塞がっているわけではないけど……でも、1つのミスが命取りになる。
そうなってしまえば、当然のようにタイムオーバー……。
だからこそ、やるべきところはしっかりやって、休むときはしっかり休まないといけない。
よーし、改めて集中、集中……っと!!




