表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
外伝 ミーシャのアトリエ ~ラミリエスの錬金術師~
897/911

Ex81.作成中……

 ――街は賑やか。


 ちょうど1週間後に、建国三百年祭の中心となる記念式典が予定されている。

 その前後の1週間、合計2週間がいわゆる『建国三百年祭』と呼ばれる期間だ。


 私が遊ぶ約束をしているのは、後半の1週間。

 後半の方が他の国からたくさんの人が来ているだろう……と言うことで、そちらに合わせることにしたのだ。

 見世物とかも、多くなる予定だって聞いているからね。



「……でもやっぱり、気にはなるよね……」


 街を歩くと、あちこちから露店が見えてくる。

 これから徐々に人が増えていく……と言う話ではあるが、賑わいとしてはもう十分な程だった。


 騎士団の人たちがあちこちで見回りをしているようだけど、人がもっと増えたら大丈夫なのかな……?

 まぁ私がどうにか出来るわけでも無いし、ここはこっそり無事を祈っておくくらいにするとしよう。


「ミーシャさん? あっちの方に、面白そうなものがありますよ」


 ターニアちゃんが私の上空を飛びながら、遥か向こうを指している。

 こう言うとき、空を飛べるって便利だよね。


「うーん、私は後半に行く予定だから……。

 今は我慢、我慢……」


「自制しているんですか? それとも、好奇心が枯れているんですか?」


「自制してるんだよー」


「枯れてますね……」


「ひ、人の話を聞いてたのかな!?」


「でも、美味しそうなものがたくさんありましたし……。

 食事番をしている身としては、やっぱり興味がありますね」


「あ、そっちなんだ?」


「え?」


「いや、てっきり面白い見世物でもあるのかなーって……。

 ……なるほど、ターニアちゃんは仕事を見て覚えるクチだもんね。

 料理の方が良いのか……」


「もちろんです。いつかはあの方の食事番も出来るようになりたいですから。

 錬金術と料理は、私の二大目標なんです」


 ……『あの方』と言うのはもちろん、リリーちゃんたちのお母さんのことだ。

 でもお母さんは料理の腕も凄いから、食事番を任せられるようになるには……さぞかし大変なんだろうな。


「私は錬金術だけだからなぁ……。

 もうひとつくらい、何かあっても良さそうだよね?」


「ミーシャさん?

 二兎追う者は一兎も得ず、とも言いますよ?」


「え、この流れでそれを言っちゃうの?

 ターニアちゃんの話に乗ってあげたのに!」


「せめて営業スキルとか、そう言うのにしませんか?」


「うーん……?

 まぁ、お店もやりたいとは思っているからね……。

 ……でも何だか、錬金術の延長って言うか……?」


「バレましたか」


「ちょっと!?」


「でもミーシャさん? は、錬金術を学んでいる最中なんですから。

 それこそ、他のものを追っている時間は無いかと」


「ま、まぁそうなんだけど……。

 ほら、気分転換に何かあった方が良いかなー、みたいな」


「なるほど。

 挫折を味わったとき、逃げる場所も必要ですからね」


「な、何で急にそんなシリアスな話になるの!?」


「目標が大きいほど、挫折は当然のように生まれると思いますが……。

 もしかして、そう言うことは今までに無かったんですか?」


「うん、まだ無いかな。

 ……ターニアちゃんには『図太いですね』とか言われそうだけど」


「よく分かりましたね」


「さすがにそろそろ、言いそうなことは分かってきたよ。

 ……って、本当にそう思ってたの!?」


「さすがです」


「褒めてるの!?」


「さて、それじゃ帰りますよ。

 素材も買いましたし、『妖精のアミュレット』作りに入らないと」


「仕切らないでっ!?」



 街に漂う非日常の空気に酔ってしまったのか。

 私とターニアちゃんは、変なテンションのまま帰宅することになった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 早めの夕食を済ませて、その後は工房で『妖精のアミュレット』の製作に着手する。

 私は作り方を知らなかったけど、ターニアちゃんが詳しく聞いてきてくれていた。


「……でも、そう言うのに詳しい妖精さんがいるんだね」


「はい。妖精も何かを作って、ポッポルみたいな行商に売ってもらう……なんてことがあるんです」


「私が受けたような錬金術の依頼は、設備が必要だったりするからね……。

 自分たちで出来るのは、自分たちでやっちゃうんだねー」


「そうですね。

 それにしても妖精の依頼を受けてくれる錬金術師なんて、なかなかいないんですよ。

 まったく、ミーシャさん? は奇特な方です」


「まぁ奇特でも何でも、誰かの役に立てるなら嬉しいよ」


「そして無駄に前向きですよね」


「後ろ向きよりは良いんじゃない?」


「そう言うところ、前向きですよね」


「あはは、ありがと♪」



 ターニアちゃんの刺のある言葉をかわしつつ、私は『妖精の花びら』の下処理に入っていった。

 最終的には透明な樹液で固める感じなんだけど、しっかり綺麗に見えるように調整をしないといけないのだ。


「……そうそう。

 花びらはちゃんと良い形に……。

 あ、もう少し角度を付けた方が……」


「こう? いやいや、こうかな?」


「ああ、そっちの方が良いですね。

 ミーシャさん? は、美的センスは平均よりも少し上ですよね」


「少し?」


「はい、少し」


 ……まぁ、僅かであったとしても……ターニアちゃんから褒められるのは稀なことだし?

 いつかは普通に、しっかり褒められたいところだけど……。



「でもこの樹液って、ちょっと茶色掛かってるよね?

 花びらは白いのに、漬けちゃって大丈夫なの?」


「この樹液は固まると透明度が増します。

 固まったあとは少し鈍い色になりますが、また別の処置を入れるので大丈夫ですよ」


「なるほどなるほど……。

 いや、まさか私の方が教わることになろうとは……」


「作り方を知らないなら、それも仕方が無いんじゃないですか?」


「まぁそうなんだけど……。

 でも素材の性質くらい、私も知っておきたかったなぁ……って」


「なるほど、勉強不足ですね」


「いやいや、この樹液はまだ教わってない範囲だから!」


「言い訳は達者ですね。

 それより工程はまだまだあるので、どんどん進めましょう」


「分かりました、ターニア先生!」


「おふざけはやめてください」


「うぐぅ……」


 ターニアちゃんはぴしゃりと言うと、そっぽを向いてしまった。

 くぅ。作業の合間の冗談くらい、別に良いじゃないか……。



 ……まぁそれはそれとして。

 教えてもらった工程を振り返ってみれば、『妖精のアミュレット』が完成するのは約束の前日になりそうだ。


 待ち時間もあるから、ずっと手が塞がっているわけではないけど……でも、1つのミスが命取りになる。

 そうなってしまえば、当然のようにタイムオーバー……。


 だからこそ、やるべきところはしっかりやって、休むときはしっかり休まないといけない。

 よーし、改めて集中、集中……っと!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 相変わらず手厳しいね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ