Ex80.妖精のアミュレット
ルーファスは無茶な依頼を出すと、しばらく話をしてから帰っていった。
基本的には忙しく、ずっと喋っているわけにもいかないようだ。
姿が見えなくなるまで見送ってから、建物の中に戻るとターニアちゃんが飛んできた。
「……ミーシャさん?
何か変な依頼、受けていませんでしたか?」
変……と言うよりも、ふわっとし過ぎていると言うか……。
私も場の雰囲気に流されて、アテも無く引き受けてしまったけど……。
「うーん……。
受けちゃったものは仕方が無いから、何か考えないと……」
「失敗の可能性が濃厚ですね」
ターニアちゃんは早々に、不穏なことを言い始める。
そりゃ確かに、そんな空気は漂い始めているけど……。
「いやいや、諦めるのは早いって。
でも、どうしようかなぁ……」
「結局のところ、どう言う依頼なんですか?」
「どう言うって……。
そりゃ、えーっと……。友達以上、恋人未満の女の子に送るプレゼント……?」
「そう言えば、宝石でもドレスでも――
……なんて言っていましたね。それで済むなら、ミーシャさん? には相談しないと思いますが」
「まぁねぇ……。
それで……そのプレゼントって、何のために贈るんだろ?」
「流れ的に、告白……ってわけでも無さそうですよね」
「そうだね、ルーファスも決めきれていないようだし……。
でも何年か会えなくなっちゃうわけだから、『待っててくれ』とも違うよね?」
「フランさんは、ミーシャさん? とは同年代なんですよね?
遠くに行った男性を待つには不安がありますし、もし戻って来て結婚できなかったら――」
「っとっとっと……。
ま、まぁそう言う懸念もあるけどさ」
「人生設計においては、割と重要な問題かと」
「そ、そうだけどね……。
だからまぁ、『待っててくれ』とも違うんだろうね」
「残りの選択肢としては……『諦めろ?』でしょうか」
「いやいや、それなら贈り物なんてしないんじゃないかな!?」
「とすると、何でしょうね……。
ちなみにミーシャさん? 的には、お二人にはどうなって欲しいんですか?」
「え? そりゃ、二人には上手くいってもらいたいよ?」
「具体的に言うと?」
「むむ?
お互い好きなら、付き合ったり、結婚もしちゃえばー……なんて思ってるけど」
「ふむ……。
ミーシャさん? は、ルーファス様のことを想ってはいないんですね」
「ん? まぁ、そんな風には見たことは無いけど……」
……何だか私って、たまにそんな心配をされるんだよね。
そんなことを思いながら、私はついつい不満そうにしてしまった。
「だって、天下のスプリングフィールド家の長男ですよ?
玉の輿ってやつじゃないですか」
「んー、私はそう言うのには興味が無いから……。
フランだって家門を見ているわけじゃなくて、ルーファス本人を見ているはずだし……」
「何とまぁ、欲の無い人たちですこと」
「……褒めてるのかな?」
「半分は」
……半分は褒めていて、もう半分は呆れてでもいるのだろうか。
改めて考えれば、もったいないことかもしれないけど……今さら、ねぇ……?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
期限までは時間が無いので、ひとまず私は図書館に行くことにした。
しかし作る物のイメージが固まっていないこともあって、残念ながらろくな成果を上げることが出来なかった。
意気消沈しながら家に帰ると、ターニアちゃんが急いで飛んできた。
「……あ、ただいまー」
「おかえりなさい。
ミーシャさん? 調べ物はどうでした?」
「うーん、さっぱり……。
どうしよう、時間が無いのに……」
「まったく、知り合いとは言っても依頼の安請け合いはしないでください。
巡り巡って、私の迷惑になるんですから」
……私の評価が落ちれば、そのお手伝いをしているターニアちゃんの評価も落ちる。
そうすると、リリーちゃんたちのお母さんとの契約も難しくなる……って感じかな。
「う、ごめんね……。
とりあえず今日は早く寝て、頭をすっきりさせて明日考えるよ……」
「あ、待ってください!
実はミーシャさん? がいない間、知り合いの妖精に聞いて来たのですが」
「ん?」
「恋人に、想いを伝えるアイテムがあるみたいなんです!」
「想い……?
告白用、なのかなぁ……」
「『想い』って言うくらいだから、いろいろなことを含んでいるんじゃないですか?
いや、『愛してる』……ってことだけになるんでしょうか」
「でもそれ、良い感じのアイテムだね……。
私でも作れそうかな?」
「あ、無理です」
「ぎゃふん」
……それなら何で、ここで話を出すのかな!?
「ミーシャさん? は、バイオロジー錬金は使えませんよね?」
「バイオロジー錬金って……植物とか動物を扱う分野だよね?
さすがにまだ、勉強はしていないなぁ……」
「えっと、そのアイテムは『妖精の花』と言うのですが……」
「何だか、めちゃくちゃ聞き覚えがあるけど……」
ポッポル君が売っているガチャボックスから、私は『妖精の花びら』を確定で出してきている。
だからもう、嫌なイメージしか無いわけで……。
「それでですね、ここからが私のマル秘情報なのですが」
「おっ?」
軽く絶望していた私に、ターニアちゃんがドヤ顔をしてきた。
「多少効果は落ちるのですが、その分効果が長く続くアイテムがありまして……。
その名も、『妖精のアミュレット』!」
「おお、それっぽいっ!!」
「恋人の想いを大切にするために渡し合う……みたいなアイテムです。
でも、素材が揃えられるかどうか……」
「くっ、現実的な問題が!
素材は分かる? 手に入れにくいものはあるのかな?」
「手に入れにくいものと言えば、まずは……『妖精の花びら』ですね」
「それ、持ってる……。
ターニアちゃんも見たでしょ? ガチャボックスから出すところ……」
「はい。でも量がですね、4つも要るんです!」
「4つ? 持ってるけど……」
「え? 何でそんなに持っているんですか?」
「ひとつはバザーで買ったんだけど……。
あとはガチャボックスから3つ……」
「どれだけ出してるんですか……」
……今までは運が悪いとばかり思っていたけど……。
でもここで私を助けてくれるなら、大当たり続きだった……と言うオチになるわけで。
「それで、他の難しそうな素材は?」
「アミュレットの中心となる鉱物が必要になります。
『白妖精の宝石』や『黒妖精の宝石』みたいな、そんな感じのものなんですが……。
ああ、『太陽の石』や『月の石』、『星の石』なんかでも大丈夫だそうです」
「……ん?
『黒妖精の宝石』と『星の石』なら持ってるかな……」
「……何で持ってるんですか」
「『黒妖精の宝石』は採集中に拾ったんだけど、『星の石』はリリーちゃんからもらったの」
「なるほど、それでは『黒妖精の宝石』を使いましょう」
「え? 何で?」
「決まっているじゃないですか。
リリー様からの贈り物を、素材になんて使わせられませんから!」
「あ、はい……」
他に必要な素材を聞いてみると、特に問題なく揃えられそうなものばかりだった。
ターニアちゃんは詳しい作り方を知らなかったので、明日また聞いてもらいに行くことに。
そしてその間、私は買い物に行くことになった。
……絶望しかけていたけど、これは何とかいきそうかな……。
今回は本当、ターニアちゃん様様だなぁ。




