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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
外伝 ミーシャのアトリエ ~ラミリエスの錬金術師~
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Ex79.突然の依頼

 翌日、予想もしない来客があった。


「よ、ミーシャ!」


「あれ、ルーファス?

 忙しかったんじゃないの?」


 あと数日もすれば、建国三百年祭が始まる。

 そこでルーファスは、アイナ様をお護りする役目を引き継ぐから……今は忙しいはずなんだけど。


「ああ、キリが良くなってさ。

 それと、ちょっと相談があって」


「相談……?」


「そんなわけだから、中に入れてもらっても良いかな?」


「あ、そうだね。それじゃ、どうぞー」


 私はルーファスを招き入れてから、お店にある席に着いてもらった。

 その様子を見て、ターニアちゃんは当然のようにお茶を持って来てくれる。


「おぉ……、働き者の妖精さんだな」


「うん、いつも頑張ってくれてるんだよ。

 おかげでうちも賑やかになってさ」


「ははは。こんな立派なお店と工房なんだから、少しくらい賑やかにしないと。

 ……そうだよな、ミーシャも一歩ずつ進んでいるんだよな……」


「そうかな……?

 イーディスの薬を作ったときはさすがにそうも思ったけど、その後は……うーん、どうだろう?」


「本人から見れば、誰だってそんなもんだと思うぞ?

 ミーシャからすれば俺だって、一歩ずつ進んでいるように見えるだろ?」


「一歩ずつどころか、二歩も三歩もどんどん行ってるように見えるよ……」


「でも、俺の中じゃ毎日が自問自答なんだぜ?

 これで良いのか? このままで良いのか? ……ってな」


「へー……。ルーファスも、そうなんだ……」


「そうそう。何かを背負っている限り、そう言う気持ちは絶対にあるんじゃないかな。

 ミーシャだって、色々と背負っているはずだし」


 色々……。

 例えば、イーディスの病気のこと……。


 でも自分以外のことで背負っているものなんて、それくらいしか思い浮かばない……。

 私は基本的に、自分のことばかりだからね。


 それに対してルーファスは、家門のことやアイナ様のこともあるわけだから……。

 私よりもずっとずっと、背負っているものは多いはずだ。


「まぁ、ルーファスほどじゃ無いと思うよ?」


「そりゃ、まぁな。

 貴族なんてのは、責任を背負ってなんぼもものだし。

 ……いや、もちろん貴族以外が気楽って意味じゃないけどさ」


「はいはい、分かってますよ。

 どんな立場だって、良いところばっかじゃないよね」



 ルーファスと私には、貴族と平民……と言う違いがある。

 本来であれば、こんな気楽に話せるような立場ではそもそも無いのだ。


 そう思った私を察してか、ルーファスは話題を変えていった。



「……実はさ、ここだけの話なんだけど……。

 三百年祭が終わったら、俺はこの国から離れることになったんだ」


「え? お父様から、アイナ様の護衛を受け継ぐんじゃなかったの?」


「いや、受け継ぐぞ?

 アイナ様が他の国でしばらく暮らすから、その護衛で一緒に行く……ってこと」


「ああ、そう言う……。

 私の知り合いのお母さんも、何年か引っ越しちゃうって言うし……引っ越しブームなのかなぁ」


「三百年祭は区切りとしては大きいからな。

 そう考える人がたくさんいても、仕方が無いとは思うぞ?」


「そうだねー……。

 そっか、それじゃルーファスともしばらく会えなくなるのかぁ……」


「やるべきことが終わったら、すぐに戻ってくるって話なんだけどな。

 ただ、どれくらい掛かるか分からなくてさ……」


「ふむ……。

 それで? 最初に言ってた相談って、それ関係?」


「うん、そうなんだけど……、そうなのかな……?」


「んん? いや、どっちよ?」


 若干の微妙な言い方に、私は怪訝な声を出してしまった。



「……いや、お役目の方は大丈夫なんだ。

 そりゃ不安なことはあるけど、俺が頑張れば済む話だから」


「うーん? そうかもしれないけど、あんまり抱え込まないようにね?」


「ああ、肝に銘じておくよ。

 それよりも、その……フランのことなんだけど」


「……ああ、そっちか」


 結局のところ、ルーファスとフランの関係は今なお(こじ)れたままだ。

 その上、これから数年も会わないとなれば……完全に終わってしまいそうな気配がしてしまう。


「俺も色々考えたんだけどさ、やっぱり恋愛する気にはなれなくて……」


「……うん」


「別に、好きな人がいるってわけじゃないんだよ。

 まぁ、誰かと言えば……フランかなぁ、みたいな気が、最近はしてきたんだけど……」


「そうなの?

 念のために聞くけど、家的には大丈夫なの?」


 何と言っても、フランだって平民なのだ。

 ルーファスくらいの大貴族と友達なだけでも驚きなのに、お嫁さんになるなんてことになったら――


「……その辺りなら大丈夫だと思うぞ?

 ご先祖様も、結構好き勝手にやってたみたいだから」


「ええ……?」


「スプリングフィールド家は、そもそもアイナ様からの信頼が絶大だからさ。

 政略結婚に頼らなくても良いし、それにむしろ、他の貴族とはそう言う関係を作りたくない……って言う面もあるんだ」


「はぁ……。

 それはそれで、ややこしいね……」


「勝手に結婚相手を作られない分、俺としては良いと思うけどな」


 ルーファスは苦笑いをしながら、お茶を静かに口に含んだ。

 普通に考えれば、結婚相手は自分で選びたいものだよね。



「えーっと、それで?

 私にはどんな相談なのかな?」


「ああ、うん。

 ……何て言うのかな。フランに、プレゼントを渡したいんだよ」


「プレゼント?

 贈るものの相談に乗れば良いってこと?」


「うーん、それでも良いんだけど……。

 何かさ、俺たちの今の状況を踏まえて……錬金術で何か、良いものを作れないかな?」


「は、はぁ?

 ここで錬金術を出してくるの?」


「ほら、錬金術には無限の可能性があるだろ?

 普通に宝石でもドレスでも、今回のプレゼントにそぐえば何でも良いんだけど……。

 でも、どうにもぱっとしなくてさ……」


「いやいや……。

 ポーションを贈られるよりも、全然良いんじゃないかな……」


「おいおい、錬金術には色々な分野があるだろ?

 薬だけに絞るのは良くないぞ!」


 私の言葉に、ルーファスからピシャリ。


「……う、確かに。

 でも、プレゼントに良さそうなものなんてすぐには思い浮かばないよーっ。

 それこそアイナ様なら、ぱぱっと何か作ってくれるんじゃないの?」


「前も言ったけど、アイナ様は誰の依頼も受けてくれないから……」


「むぅ、そうだった……。

 ……分かった、何か考えてみるよ……」


「お、マジか!? サンキュな!!」


「でもこれ、貸しにしておくからね……」


 何なら『竜の血』の借りを返したいところではあるけど、さすがにそれとは釣り合わないだろうから諦めて……。


 ……大きな借りと、中くらいの貸し。

 ひとまずはそれで、済ませておこう。



「お金のことは心配しなくても良いからな。

 金貨20枚くらいまでなら大丈夫だぞ!」


「うわぁ、大盤振る舞いじゃん……。

 えっと、それでいつまでに作れば良いの?」


「1週間後!」


「……え?」


「三百年祭の記念式典の日に渡したいから……。

 申し訳ないけど、当日の早朝までに頼む!!」


「えぇーっ!?」



 ……私が友達と約束をしているのは、三百年祭の後半に入ってから。

 つまり記念式典の日から、そのあとずっと。


 記念式典の早朝までは、確かに時間があるんだけど……。

 それにしても、作るものから考えなきゃいけないんだよ……!?

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[一言] がんば
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