Ex78.偏り
「……まったく、もっと早く助けてくださいよ。
本当に鈍いんだから」
魔法関連のお店を出たあと、ターニアちゃんからチクリと言われる。
まったく以って、これは返す言葉が無い。
「ごめんね……。
まさかあのお婆さん、ああも豹変するとは思えなくて」
「人間の本性なんて、あんなものです」
「えぇー……」
……私はそうじゃないと信じたい。
いや、他の誰か……じゃなくて、少なくても私は、そんな本性を持っていないと信じたい……。
「それで、少し割り引きしてくれたのを良いことに、たくさん買い込んでいましたけど……。
今日はもう帰りますか?」
「そうだねー……。
……ああ、そうだ。何か欲しいものは無い?」
「え? 私ですか?」
「うん、さっきのお詫びと言うか……。
買えるものなら何でも良いよ!」
「でも、ミーシャさん?
そんなにお金、持ってないですよね?」
「そりゃまだ学生の身だし……。
って、何を買わせようとしているのかな……!?」
「それはもう、『私の欲しいもの』です。
人間の街には売っていないものなので、機会があったらお願いしますね」
「む、了解……」
……機会があったら。
うーん? 私はこの街から出る予定なんて無いから……。
そんな機会、やって来るのかなぁ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「こんばんわ~。訪問販売のポッポルでーす」
夜、ポッポル君がいつも通りやって来た。
ターニアちゃんのチクチクした雰囲気に対して、ポッポル君の柔らかな雰囲気。
……うーん、癒されるわぁ。
「こんばんわ!
ささ、入って~♪」
「はい、お邪魔しまーす」
ポッポル君を招き入れて、その間に私はお茶の準備をする。
この辺りはもう、自然と化したいつもの流れだ。
しかし――
「ポッポル!」
「え? ……うわぁ、ターニア!?」
「うわぁ、って何ですか!」
自身の部屋から戻って来たターニアちゃんが、ポッポル君の方に向かっていく。
そう言えばこの二人が会うのって、初めて見るんだっけ。
「お、驚いただけだよ……。
えっと、まずはおねーさんと仕事の話があるから、また後でね……」
「おねーさん?
ああ、ミーシャさん? のことですか」
「……何で呼び方、疑問形なの?」
「こっちにはこっちの事情があるんです」
……どんな事情だっけ。
ターニアちゃんが、私のことをまだ認めてくれてないって事情だっけ?
何だかもう、あだ名みたいな感じで慣れちゃったなぁ……。
「それじゃポッポル君、お仕事の話をしようっ」
「あ、そうですね!
ちなみに依頼をしていたものは、どんな感じですか?」
「うん、期限までには余裕を持って作ってはいるけど……。
出来た分だけでも、持っていく?」
「それはありがたいです!
受け渡しの書面が増えますけど、大丈夫ですか?」
「私は大丈夫。
それじゃ、そっちは後で確認をお願いするね!」
「承知いたしましたー。
では今回の商品を説明しますねー」
……とは言っても、目新しいものは特に無かった。
ポッポル君の依頼は引き続き受けたいから、その素材になるものは買い込んで……。
「おねーさん? どうかしましたか?」
「え? ああ、最初は珍しいものばかりだったけど、もう見慣れちゃったかなーって……」
「営業努力が足りないんじゃないですか?」
私の言葉に、さらっと続けるターニアちゃん。
ポッポル君に対しても辛辣である。
……知り合いなんだよね?
……いや、知り合いである私も、毎日チクチク言われているか。
「なるほど、おねーさんも目が肥えてきましたね……。
それでは新商品の、『ガチャボックス』バージョン4を……!」
「だからガチャは要らないってば……」
「えぇーっ!?
バージョン3に続いて、バージョン4も買ってくれないんですか!?」
「だって、どうせ『妖精の花びら』しか出ないし……」
「いえいえ! 中身が刷新されて、入っている種類が3倍に増えました!
つまり『妖精の花びら』が出る可能性も、一気に3分の1になったわけで……!!」
「3分の1かぁ……。
でもここまで来たら、それでも引き当てちゃう気がするよ……」
「ポッポル、そのガチャって信用できるんですか?」
「ターニアまで何を言ってるの!?
これは開けた瞬間、アイテムが転送されるって言う代物だから大丈夫……!」
「あ、箱にアイテムを入れているわけじゃないんだね」
「もちろんです!
そんなことをしたら、ズルし放題じゃないですか!」
……まぁ、確かに。
でも――
「転送されるアイテムって、どこかに保管庫があるんですよね?
そこを細工すれば、結局はズルし放題じゃないですか」
「そうそう、それそれ」
ターニアちゃんの言葉に、私はついつい頷いてしまう。
「そんなこと無いです!
おねーさんはいつも1個しか買ってくれないから、被ったのはたまたまで……」
「お客様のせいにするなんて、ポッポルも落ちたものですね」
「むぐぐ……。
……分かりました、今回は大サービスです!
二人に1個ずつ、無料で進呈しましょう!!」
「え? 本当に?」
「はい! ガチャの素晴らしさを体感してください!!」
「売り物を無料にするなんて、大丈夫なんですか?」
「大丈夫! 僕のお給料から出しておくから!!」
……いやいや、それはどうなんだろう……。
しかし無料でくじ引きが出来るとなれば、これはさすがにやりたくなってしまう。
そんなことを考えている間に、ポッポル君は半ば無理やりガチャボックスを押し付けてきた。
同じように、ターニアちゃんの前にもガチャボックスが置かれる。
「……はぁ。
それじゃミーシャさん? 私から開けちゃいますね」
ターニアちゃんが魔法でぱぱっと箱を開けると、中には小さな塊が入っていた。
綺麗な透明な玉だけど、これは――
「……ガラス玉?」
「ミーシャさん? はご存知ないですか?
これは『無垢の魔石』と言って、一番小さいものですが、結構高かったと思います」
「へー……。
魔石って、装備に付けるアレだよね? これにはどんな効果があるの?」
「残念ながら、これ自体には何の効果もありません。
だから逆に、何でも力を付けられる素体になるんです」
「ほらほら! どうですか、おねーさん!
『妖精の花びら』以外にも出てきましたよ!!」
「う、うん……。
それじゃ私も開けてみよっかな……」
ポッポル君とターニアちゃんが見ている前で、私は期待を込めながらガチャボックスを開けてみた。
今回は無料で開けられるわけだから、何が出ても悲しくはならないはずだけど――
――『妖精の花びら』1個、獲得。




