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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
外伝 ミーシャのアトリエ ~ラミリエスの錬金術師~
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Ex76.これから

 私とリリーちゃんが向かい合って座ると、ターニアちゃんが凄まじい勢いでお茶を持ってきてくれた。

 そして私たちの前にお茶を出すと、彼女は凄まじい勢いで部屋を出ていってしまった。



「……速っ」


「『押し掛け眼鏡』は、いつもあんな調子なの?」


「え? いつもはもっと普通だけど……。

 リリーちゃんがいたから、緊張したのかなぁ」


 何せ呼び方なんて、『リリー様』……だもんね。

 私はリリーちゃんがどれだけ偉いのか知らないから、いまいちイメージが持てないんだけど……。


「……慌ただしくて、ちょっと嫌なの」


「それを聞いたら、ターニアちゃん落ち込んじゃいそう……。

 と、ところで今日はどうしたの? こんな遅くに――

 ……って、随分待たせちゃったのかな?」


「ううん。

 久し振りにここでゆっくり出来たから、気にしないで欲しいの」


「そう?」


「なの!」


 ……久し振りってことは、以前にもゆっくりしたことがあったのかな?

 私が初めてここに連れてきてもらったときは、ゆっくりしていたようには見えなかったけど……。

 ま、それはいっか。


「えっと、それで……?

 用事はなぁに?」


「みゅ。

 実はね、今日はお別れを言いに来たの」


 突然のリリーちゃんの言葉。

 私の頭は一気に、真っ白になってしまった。



 ……お別れ?

 え? ええぇーっ!?


「……は? え?

 どどどっ、どういうこと!?」


「この街を離れて、しばらく他の街で暮らすことになったの。

 もうしばらくはいるんだけど、授業に出るのはおしまいなの」


「えぇ……、そんなぁ……。

 もっと一緒に過ごしたかったよ……」


 リリーちゃんとは来年度も、てっきりずっと一緒に学んでいけるものだと思っていた。

 私はまだまだリリーちゃんと仲良くしたかったし、そのための時間もあるものだと思っていたのに……。


「結構前から、決まってはいたの。

 錬金術学院も、それまでの予定だったの」


「うー、そうなんだぁ……。

 ちなみに引っ越す先って、どの辺りなの?」


「内緒だけど、海の向こうなの!」


「……ってことは、外国じゃん……。

 それ、絶対にもう会えないやつ……」


「みゅ。でも、何年かしたら戻って来るの。

 多分その頃には、ミーちゃも立派になってると思うの!」


「何年か、かぁ……。

 うーん、立派に……なってるかなぁ……」



 その頃には、イーディスの薬は完成しているのかな?

 私も自分のお店、持っていたりするのかな?

 さすがにその頃には、フランとルーファスの関係も何とかなっている……かなぁ。



「楽しみにしてるの!」


「う、うん、ありがとね……。

 それにしても、一人で引っ越す感じ?」


「んーん、ママと一緒なの。

 あとは……お供もいるの?」


「いるの? ……まぁいるんだろうけど。

 そっかー、お母さんも一緒なんだね……。

 ……ってことは、ミラちゃんも?」


「んーん。ミラはこの街に残るの」


「え、そうなの? 何で?」


「ミラは、ここから離れられないから……」


 ……離れられない?

 何か特別な事情でもあるのかな……。


「そっか、ミラちゃんは残るのかー」


「なの。だからね、ミーちゃにはミラと仲良くしてもらいたいの。

 出来ればで良いんだけど……」


「そりゃもちろん!

 私としても、ずっと仲良く出来たら嬉しいよ!

 ミラちゃんは学院には残るの?」


「考え中って言ってたの。

 だから、ミーちゃが説得するの!」


「私が!?」


「そうなの!」


 ……唐突に突き付けられたミッション。

 さすがにこれは、責任が重大と言うか……。


「わ、私に出来るかなぁ……」


「今のところ、8割方は残るって感じなの!」


「お、確率が結構高い!

 ……でも残ってくれない2割を引き当てちゃったら、悔やんでも悔やみきれないよ……」


 悩んでいる最中の誰かの一言と言うのは、どんなものであっても結構重いものがある。

 意に介さない言葉や、不本意な言葉が出てしまえば、一気に気持ちが変わってしまう……なんて危険もあるわけで。


「多分、大丈夫なの!」


「うーん、頑張ってはみるよ……。

 ……でも、どうやって頑張ろう? 私、リリーちゃんたちの家も知らないんだよね」


「みゅ? 私とミラは、別のところに住んでるの」


「え、そうなの!?

 ……もしかして、それぞれ家があるの?」


「家と言うか……。でも、そんな感じなの。

 えーっと、ミラの家は――

 ……ちょっと危険だから、ミラにここに来るように伝えておくの!」


「危険って……」


「口が滑ったの!」


 ……いやいや。

 でも最大限、好意的に解釈すると……途中で魔物がいる、とかかなぁ。



「もしかして、『魔女の迷宮』に住んでいたり?」


「『魔女の迷宮』には入れないの。

 ……って言うか、学生は入っちゃダメなの!」


「う、さすがにダンジョンに住むなんてのは出来ないよね……」


 そんなの、伝説の錬金術師のアイナ様ならともかく……。

 錬金術を勉強中の、リリーちゃんやミラちゃんがそんなことを出来るはずも無いか……。


「そんなわけで、そのうちミラが来ると思うの。

 そのときはよろしくなの!」


「ん、了解……!

 はぁ……。それにしても、リリーちゃんがいなくなっちゃうのかぁ……。

 寂しくなるなぁ……」


「ミーちゃは友達がたくさんいるから、大丈夫だと思うの。

 はわわも気に掛けていたし、何の心配も要らないの!」


「……『はわわ』?

 『はわわ』って?」


「『はわわ』は『はわわ』なの?」


 ……いやいや、疑問形で聞かれても困るよ?

 でもこの言い方、きっと誰かのあだ名なんだろうな……。

 でも誰だろう……。


 意思を疎通しているようで、いまいち通じ合ってないリリーちゃんとの会話。

 寂しいことに、これもしばらく無くなっちゃうのか……。



「ちなみに、引っ越した先では何をするの?

 お母さんの仕事関係?」


「お仕事もするの!

 でも、主には人探しなの?」


「人探し……? 外国まで行って、大変だねぇ。

 それじゃ、リリーちゃんはそれを手伝うことになるのかぁ」


「そんな感じなの!

 ミラも出来れば行く感じだったんだけど、やっぱり無理になっちゃって……」


 ……ふと、心配そうな顔をするリリーちゃん。

 本当はきっと、離れたくないんだろうなぁ。



「ん、分かった。ミラちゃんのことは私に任せて!

 だからその分、リリーちゃんは全力でお手伝いをしてきてね!」


「みゅ。それじゃ、ミーちゃに任せるの!

 この工房は、ずっと使ってて良いからねぇ」


「え、本当に?」


「ママがそう言ってたの!

 お店もやってみればー、って、伝言なの!」


「おぉ……。

 一応考えてはいたけど、そう言われたら……やっぱり、やりたくなっちゃうなぁ……」


「頑張って! なの!」



 ……最後は応援される形になってしまった私。

 でも、そんな力強い声を受けてしまったら……これはもう、やるしかないでしょう!!

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