89.アクセサリ屋さんにて
本屋で買い物をしたあと、昼食をとったらそのままアクセサリ屋巡りへ。
エミリアさんの案内で着いた先はいろいろな装飾品が売っている通り。
アクセサリを売っているお店もたくさん見えた。
「メルタテオスでは、アクセサリ屋さんはこの辺が一番多いですね!」
「ふむふむ、それ以外はあちこちにある感じなんですか?」
「はい。誰も気付かれないようなところにもたまにあったりして、油断がならないんですよ」
「油断って……。でもそんなところで商売になるんですか?」
「知る人ぞ知る、って感じじゃないでしょうか。アドルフさんのお店もなかなか分かり難いところにありましたし」
言われてみればミラエルツのアドルフさんのお店は少し奥まったところにあったなぁ。
他の武器屋では魔法剣用の剣なんて売ってなかったし、特定の層を狙ったお店だったのだろう。
「それじゃ、この辺はいわゆる普通のお店がたくさんって感じですね。
さて、どこからまわりましょうか」
「そうですね。時間はありますし、手前から順番に見ていきましょう!」
「そうですね、時間はありますしね!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――エミリアさん、大変です! 外がもう真っ暗です!」
「うわぁ、本当だ! 時間が足りませんでしたね!」
「まったくですね、十分あると思っていたのに!」
「……毎度のことですね」
ルークは落ち着き払ってツッコミを入れる。
確かに! 確かにそうなんだけども!
「それではそろそろ締めにかかりましょう。何か買い残したものはありませんか?」
「うーん、今見てるこれなんですが……少し悩んでて、即決はできませんね……」
エミリアさんが買うのを悩んでいたのは青い宝石のイヤリング。
さり気ない感じの繊細な作りが実に良い。
「えー、これ素敵じゃないですか? 似合うと思いますけど?」
「そうですか? うーん、もう少し青みが薄かったら良いなって……。
――よし、決めました!」
「お、買いますか!」
「いえ、止めておきます!」
「えぇっ!?」
「やっぱり色が……。それ以外は良いんですけど~」
うーん、せっかく気に入ったデザインがあるのにもったいないなぁ。
……ん? そうしたら宝石のところを変えれば良いのかな?
「それじゃ、私が買っちゃっても良いですか?」
「え? もちろん構いませんけど、アイナさんには大人し過ぎないでしょうか。
……あ、例の服なら合うかもしれませんね!」
「『はったりをかます服』ですか? そういえばそうかもしれませんね」
「……それにしてもその呼び方、ずっとそのままなんですか?」
「いやぁ、何か分かりやすくて。『インテグリティローブ』って急に言われても分かり難いですし」
「た、確かに。……というか、そういう名前だったんですか?」
「鑑定だとそうらしいですよ。まぁ他の人に名前を言う必要があれば、そっちを出しますけど」
「ふむぅ」
「それじゃ、私はこれとこれとこれを買おうかな。
それでルークは、こっちとこっち、どっちが良い?」
私はルークにネックレスを二つ見せた。
「……え、私ですか? うーん、アイナ様にはどちらも武骨な感じがしますが」
「いやいや、ルーク用にね?」
「え? 私は要りませんけど――」
「そうなんだ? せっかくプレゼントしようと思ったのに……」
「ではこちらで」
「……ルークさんのそういうところ、私は好きですよ」
「おやエミリアさん、突然ですがルークに告白タイムですか?」
「違いますよ! アイナさんとのやり取りが好きってことです!」
「あはは、分かってますよ! それじゃ買ってきますね」
「アイナさん、私にプレゼントは無いんですか!?」
「エミリアさんのそういうところ、私は好きですよ」
「真似しないでください!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
宿屋に戻って食堂へ。今日も今日とて夕食の時間だ。
ジェラードはいないようだったので、いつも通り三人で食べることにした。
「――むぅ」
「ど、どうしたんですかエミリアさん」
「ルークさんばっかりずるいです!」
「あ、もしかしてさっきのアクセサリの件ですか?」
「そうですそうです! 私もアイナさんから何かもらいたいです!」
あれー、エミリアさんってこんな甘えん坊だったっけ……?
どこかで好感度が激変でもしたのかな……。
「分かりました、それじゃネタばらしを先にします」
「え? ネタばらし?」
「さっき買ったアクセサリは錬金術で加工したあとにプレゼントする予定だったんです。
エミリアさんが買うのを止めたイヤリングも、宝石を置換してお渡ししようかなって――ぶわっ!?」
話している途中で突然顔に何か柔らかいものが押し付けられた。
ちょ、ちょっと呼吸ができないんですけど!!
「わーい、アイナさーん♪」
「え、エミリアさん! アイナ様が苦しそうですよ!?」
「……はっ!? ご、ごめんなさい!」
申し訳無さそうにエミリアさんが私の側を離れて自分の椅子に戻っていく。
ああ、突然抱き締められてたのね、何事かと思った……。
「――でも、それなら先に教えてくれても良かったですのに」
「失敗したらかっこ悪いじゃないですか!」
「え、アイナさんが失敗なんて……」
「いやいや、上手くいかないことは結構ありますよ。特に今回は新しいことをやろうとしているので」
「新しいこと、ですか?」
「アーディファクト系の錬金術なんですけどね。素材置換も一緒に行うので、上手くいくか心配で」
「なるほどー。ちなみにアーディファクト系の錬金術って、どういうことができるんですか?」
「魔石みたいな感じで、ちょっとした効果を付けられるみたいですよ。基本的にはステータス関連のようなんですけど」
ステータス追加の効果は魔石と同じ感じで、『力が1%増加する』とか『魔力を1%増加する』といったものが付くようだった。
ひとつひとつの効果は小さいけど、無いよりは有った方が断然良いからね。
「ちょっとしたしあわせ、みたいな感じですね」
「そうですね。気休め程度になると思うので、とりあえず気に入ったアクセサリに付けようかと思って」
「ところでステータスは自分で決められるんですか?」
「あ、それはランダムみたいです。何か付くかはあまり期待しないでくださいね」
「付いて困るステータスなんてありませんからね、大丈夫です!」
「ごく稀に変なものが付くみたいなんですけど、まぁ『迷踏の魔石』みたいな効果じゃなきゃ大丈夫ですよね」
「歩くたびに『ぷぎゅぷぎゅ』いうのも恥ずかしいですしね……。あ、いや、アイナさんには可愛らしいと思いますよ!」
「エミリアさん、フォローになってませんよ!」
「はわわっ」
「でもルークがすごい速さで走っていくときに付けてたら、『ぷぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅ』みたいな感じになるのかなぁ?」
「……それは勘弁して頂きたいですね」
ルークの顔が珍しく引きつる。自分でも想像したのだろう。
確かにそんな光景には可愛さも格好良さもないし、あるのはシュールさくらいなものだろうか。
うーん、見てみたいけど、一回見たらもうそのイメージが付いちゃいそうだから……やっぱり見たくないかなぁ。
――間違っても夢に出てきませんように。




