Ex73.適性
「ただいまー」
「お帰りなさい。遅かったですね」
私が家に帰ると、ターニアちゃんが台所からひょっこりと現れた。
まるでお母さん……、もとい奥さんのようである。
「ちょっと魔術師ギルドに寄っててさ。
あー、疲れた~……」
「……魔術師ギルド、ですか?
錬金術師は諦めるんですか?」
「いやいや、そんなことはしないけどっ!?」
即座に極論に向かう、ターニアちゃん。
「それでは、何でまた?」
「この前、錬金術師ギルドで鑑定士さんと話したんだけどさ。
『空間系』の魔法の適性があれば、収納魔法が覚えられるなぁ……って思って」
「なるほど?
収納魔法やスキルがあると、かなり便利ですからね」
「一から勉強するとかなり大変な魔法なんだよね?
だから適性が無いか、調べて来たの」
「それで、ダメでしたか?」
……え? そう聞くの?
普通は『どうでしたか?』とか、『適性はありましたか?』とかじゃないのかな……?
でもまぁ――
「うーん、残念ながら無かったよ……」
「さすがにそう上手くはいきませんよね。
ちなみにミーシャさん? は、何の魔法に適性があるんですか?」
「ん? 私は風属性だよー」
「風、ですか……」
ターニアちゃんの、微妙な反応。
そう言う反応はよく見るけど、今回ばかりは本当に微妙そう……。
「ど、どうしたの?」
「いえ、錬金術師としてはいまいちだなぁ……と思いまして」
「辛辣ぅ!」
錬金術師に良いとされる適性は、まずは『火』と『水』だ。
火を扱い、水と共に調合をする、そんな錬金術の性質から来ている。
次は『土』。
大地からの恩恵を存分に受けられるから、これも良いとされている。
六属性で言えば、あとの残りは同じくらいかな?
ちなみに『風』と『闇』は魔術師寄り、『光』は聖職者寄りの適性だと言われている。
「……やっぱり、魔術師に転職した方が良いんじゃないですか?」
「そ、そんなことないよ……?
……ないよ、ね……?」
「そこで自信を失われると、私としてもやり難いのですが」
「うぐぅ」
「でも折角ですし、魔法のひとつでも覚えたらどうでしょう。
錬金術学院では、風属性なんて教えてくれませんよね?」
「確かに、授業では火と水がメインだねぇ……。
あとは氷もやるけど、水属性の派生だし……」
「風属性は雷を扱えるので、護身用の魔法が特にお勧めですよ。
『クローズスタン』とか、いざと言うときの魔法もありますし」
「へー、どんな魔法なの?」
「電撃を浴びせて、相手を気絶させる魔法です」
「うわ、攻撃的だね……」
……しかしそんな魔法を覚えていたら、私もピンチのときは自分だけで乗り越えられたかもしれない。
街の外で戦闘になったとしても、攻撃魔法があれば丸腰よりはいくらか戦えるだろう。
うぅーん、魔法……。
いいなぁ、魔法……。
「でも魔法を覚えるなんて時間があるなら、ミーシャさん? は錬金術を学びたいんでしょうね。
ふふふ、私もミーシャさん? のこと、少しは分かってきたでしょう?」
満面のドヤ顔を浮かべるターニアちゃん。
……でも、ごめん。魔法に少し、心が揺らいでたわ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
魔法の適性は調べたものの、それで何かが変わると言うことも無い。
収納魔法は今のところは諦めることにするし、引き続き立派な錬金術師を目指すのも変わらない。
しかし『空間系』の魔法に適性が無かったのは、正直残念な気持ちがある。
何だか今日は集中できないから、少し早目に終わらせちゃおうかな……。
「……それじゃ、こっちの研磨剤が終わったらおしまいにしよっか」
「早いですね。お疲れですか?
持っていない才能にショックを受けていたら、いちいちキリがありませんよ?」
「察しが良いと言うか、容赦が無いと言うか……。
そう言うんじゃなくて、ちょっと疲れちゃってさ」
「それなら安眠効果のあるお茶でもいかがですか?
……って、在庫が無いから作らないといけませんね」
「さすがに、今から作る気力は無いなぁ……」
「もし余ったとしても、ポッポルが買い取ってくれると思います。
今度作ってみましょう」
「おー、良いね!」
……ちなみにそのお茶、私は作り方を知らない。
そんなわけで、お手伝いの妖精からレシピを教えてもらう私であった……。
「ところでポッポルから依頼を受けているんですよね?
そっちはどうなっているんですか?」
「うん、少しずつ進めてるけど……。
期限がまだあるから、今はターニアちゃんを優先している感じ」
「なるほど、それなら仕方が無いですね」
再びドヤ顔のターニアちゃん。
……うーん。やっぱり言葉以外は、しっかり可愛い子なんだよなぁ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
工房を片付けて、身の回りのことをしてからベッドに飛び込む。
悩みが無い限り、これが一日で最も幸せな瞬間だ。
……悩み、かぁ。
今のところは、比較的順調なのだろうか。
イーディスの治療には猶予が出来たし、学院生活も順調だ。
私生活ではターニアちゃんの助力も得ることが出来ているし……。
そんな中、これから控えているのは建国三百年祭。
私としても、錬金術学院としても、特にやることは無いけど……。
だから今回のお祭りは、思う存分楽しむことにしちゃおうかな。
いつもは賑やかな聖都だけど、その時期はさらにたくさんの人で賑わうはず。
もしかしたら、レアな素材が出まわるかもしれないし……。
……さてさて。
一体、どんな出来事が待ち受けているやら……。




