Ex71.お手伝い
週末も終わって、また新しい一週間が始まった。
今日も一日頑張るか――と教室をぐるっと眺めたところで、何となく違和感を覚える。
「……おや?」
見れば、教室の一番後ろの机にはミラちゃんが一人だけ。
いつもは一緒のはずのリリーちゃんが、今日はいないようだった。
「ミラちゃん、おはよー。
今日はリリーちゃん、お休み?」
「ミーシャさん、おはようございます。
はい、今日はちょっと用事があるようで」
「へぇ……?
風邪とかじゃないんだよね? ちょっと心配しちゃった」
「ふふふ、あの子はいつも元気ですわ。
まったく、呆れるくらいに……」
……ふと、ミラちゃんの表情が寂しいもののように見えてしまった。
やっぱり、一人だと寂しいのかな?
「それじゃ、今日は私がリリーちゃんの代わりになるよ!
お昼とかも、一緒に食べない?」
「ありがとうございます。
たまにはそう言うのも、素敵ですね」
……おお!
何だかんだで、二人とは距離を詰められていなかった私だけど……。
ここに来て、ミラちゃんと仲良くなるイベントが来たーっ!?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……どうしたんですか?
ミーシャさん? いつも以上に顔が残念ですよ?」
私が家に戻ると、出迎えたターニアちゃんがなかなかの挨拶をしてくれた。
べ、別に残念な顔なんてしていないんだからね……っ!?
「そ、その言い方も結構酷くない……?」
「そうですか? それで、一体どうしたんです?
風邪なら薬を買ってきましょうか?」
「いや、そう言うのじゃなくて……。
今日はリリーちゃんがお休みだったからさ、ミラちゃんとずっと一緒に過ごしたの」
「羨まし過ぎて殴りたくなります。
それで?」
「言い方に容赦が無い……。
えっとね、今までそう言う機会も無かったから、もっと仲良くなれるように頑張ったの!」
「はぁ」
「でも結局はいつも通り、するするかわされちゃって……!
あー、もっと仲良くなりたいのにーっ!!」
「あはは♪ それは仕方がありません。
私だって、お話をするのすらはばかられるような方ですから」
……む。
ターニアちゃん、珍しく音符なんて飛ばしてきたぞ……。
「うーん……、私にとってはただのクラスメートなんだよ……。
仮に凄い人だったとしても、それは関係無くて、ただ単純に仲良くなりたいだけの子なんだよ……」
「私はミーシャさん? の立場にいないので、そう思えること自体が羨ましいです。
でも、あの方々の高貴さを知らないのは可哀想にすらなりますね」
「むぅ、高貴なのか……。
ミラちゃんはともかく、リリーちゃんはいまいちイメージが付かないけど……」
……お嬢様と、元気印の女の子。
私の中では、二人はそんなイメージなのだ。
「ミーシャさん? とは違う世界の方々なので、一瞬でも対等な立場にいられることは誇るべきです。
本来であれば、声すらも掛けられない方々ですから」
そんな言葉を続けるターニアちゃん。
……でもその辺りの話を聞いたところで、絶対に教えてくれないんでしょう?
「うーん……。
そうだ、二人の家に遊びに行ってみようかな!」
「それこそ、絶対に断られると思いますよ」
「え、そうかな……。
二人のお母さんには会えないだろうけど、二人は毎日学校に来てるし……。
ちゃんと約束すれば、大丈夫じゃない?」
「いえ、絶対に断ると思います。
ミーシャさん? だけと言うわけでは無くて、誰でも断るところかと」
「……むぅ。
ちなみにターニアちゃんは、行ったことがあるの?」
「うっ。
あると言えば、ありますけど……」
「本当!? 場所だけでも、教えてくれないかな!?」
「無理です、無理無理!
そんなことをしたら、約束を破ってしまうことになります!」
約束……と言うのは、二人のお母さんとの約束か。
それを破ると言うことは、ターニアちゃんにとっては本命の契約を諦めると言うことになる。
「そ、それじゃ諦めておくよ……。
以前、ちょっと跡をつけたことはあるんだけど……」
「ストーカーですね」
「そ、そう言うのじゃ無いもんっ!」
「……今の、リリー様の真似ですか?」
「え? ……もしかして、似てた?」
「はぁ、小指の先程度には」
……小指の先って。
どれくらいちょっとなのよ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
授業の予習と復習をしている間に、何とターニアちゃんが夕食を作ってくれた。
……何と言うことだろう。
錬金術うんぬんを置いておいても、これはとても助かるじゃないか。
日中は暇だったらしく、色々な食材を仕込んでいたらしい。
私が作るよりも、一手間も二手間も掛かっているような料理が食卓に並べられていて――
「……凄い!
ターニアちゃん、私より料理が上手いじゃん!」
「ありがとうございます。その基準なら余裕です」
……ぐさっと心にくるものがあるが、それも今更のことだ。
気にせずに料理を口に運んでみると、実際に美味しいから、それくらいは余裕で許してしまえる。
「はぁ、美味しい……。
人間の料理なんて作ったことが無いって言ってたけど、どこで覚えたの?」
「リリー様たちのお母様が、よく料理をされていますので」
「え? 錬金術は手伝わせてくれないのに、料理は手伝わせてくれるの?」
「いえ、もちろん手伝ったことは無いのですが……。
私のような職人を手伝う妖精は、見たものを真似るのが得意なんです。
だからこの料理も、ただの物真似なんです」
「へぇ、そう言うものなんだ……。
……あれ? 二人のお母さんって、錬金術もやるんだよね?
もしかして、そっちの真似も出来ちゃうの……?」
そうだとすれば、ターニアちゃんは私よりも錬金術が上手いんじゃないかな……。
そんな不安が、一気に押し寄せてきてしまう。
私のちっぽけなプライドも、さすがに傷が付いてしまいそうだ。
「残念ながら、錬金術をされているところは見たことが無いので……。
あの方が調合の作業をすること自体、かなり珍しいんです」
「ふーん? 錬金術も凄いみたいだけど、あんまりやらないんだ……?
ちょっともったいないなぁ……」
「それは同感ですが、他にもやることがたくさんある方ですから」
「なるほどー……」
……凄い実力を持っているなら、使わないのはもったいないけど……。
でも二人のお母さんは、何でも凄腕の人だからなぁ……。
……うぅーん、でもやっぱりもったいない……。




