Ex68.契約①
ポッポル君が持ってきた商品を一通り購入して、そして改めて、妖精からの依頼を受けることになった。
特に難しそうなものは無いけど、私としては初めて見るものが多かったかな。
具体的に言うと、例えば『ププペポプのミルク』から作るチーズだとか、『黄金のリンゴ』から作るジャムだとか。
この辺りは食料品っぽいけど、他には『妖精の聖水』を精製したものだとか。
「……設備が必要になるからねぇ……」
一人残った工房で、設備を確認しながら誰とは無しに呟いた。
足りない素材はお店で手に入るから、明日の帰りに買い物をして、早速試してみようかな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……翌日。
授業を終えて、予習と復習もしっかり済ませてから、私は妖精の依頼に着手することにした。
今回使う設備や手順については、特に初めてになるものは無い。
そんな状況で新しいアイテムを作れるのだから、今の私にとっては打ってつけの作業だろう。
「それに、報酬ももらえちゃうしね♪」
役立つ勉強をしながら、収入まである。
これはもう、最高のことだ。
だから出来るだけ、妖精さんにはリピーターになってもらわないと……!
「よーし、頑張るぞーっ!!」
「……あの、いつもそんな独り言をしているんですか?」
「ひゃぅっ!?」
私が気合いを入れた瞬間、後ろから突然女の子の声が聞こえてきた。
この工房には、私一人だったはず。
そもそも鍵は掛けていたから、それならこの声の主は泥棒か、あるいは――
……はい、妖精でした。
振り返った先にいたのは、この工房をたまに訪れる、私の苦手なターニアちゃん……。
「こんばんわ。
夜遅くまで、精が出るようでなによりです」
「あのさ……。
勝手に入って来るの、止めてくれないかな……。
……それで、今日は何の用?」
「諸事情で、今日からあなたを手伝うことになりました。
以後、よろしくお願い致します」
「あ、間に合ってます」
「えっ」
流れるような拒絶に、さすがのターニアちゃんも驚きを隠せなかった。
「いや……。
人手は間に合ってるから……。ああ、もちろん妖精の手も含めて、間に合ってるから」
「ポッポルから新しい仕事を受けたんですよね?
忙しいと思って、私が来て差し上げたんですけど……!」
「それはどうも……?
でも、大丈夫だから」
ポッポル君みたいな可愛い妖精なら願ったり叶ったりだけど……。
私、このターニアちゃんは苦手なんだよね……。
「えーっと……。
な、何日かだけでも、どうですか?」
「……食い下がるね……。
何か理由でもあるの?」
「り、理由なんてありませんから!?」
「それじゃ、本当に大丈夫。
心配してくれて、ありがとね」
「むむ……。
私の申し出を断ったこと、後悔しますからねっ!!」
そう言うと、ターニアちゃんは消えるようにいなくなってしまった。
……いやいや、そんな帰り方じゃなくて、ちゃんと扉の方から帰ってよ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……次の日の夜。
「こんばんわ。後悔しましたか!?」
「来て早々、言うことはそれなのかな……?
あと、入るときは扉からお願いね?」
昨日に引き続き、妖精の依頼をこなしているとターニアちゃんが現れた。
相変わらず、私の注意したことは何も守ってくれない。
「これは失礼しました。
でも、そろそろ大変な頃かと思いまして」
そう言いながら、ターニアちゃんは工房の様子をきょろきょろと見まわした。
いくつかの設備では、作業が同時進行で進められている。
効率良くまわるように、1日考えたのが上手くハマっているところだ。
「ご覧の通り、特に大変では無いよ。
だからもう、心配しなくても大丈夫だってば」
実際のところ、大変なところは何も無く、無理も全くしていなかった。
むしろ作業が上手く進められていることに、新鮮な充実感を覚えているくらいだ。
「え、えー……?
でも、少しくらいは手伝うことが……」
「無いよ?」
「ふぇっ」
ターニアちゃんは一瞬泣きそうになったが、そのままいなくなってしまった。
……と思ったら10分後、工房の片隅にちょこんと座っているのを発見した。
何をしてるんだろう……。
声を掛けてこないなら、作業を優先しちゃうけど……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……っと、もうこんな時間か」
時計を見れば、もう23時になっていた。
明日も授業があるし、そろそろ眠らないと――
……って、ターニアちゃんはまだいるようだ。
「……本当にどうしたの?
そろそろ灯りも消しちゃうけど、まだいるつもり?」
「うぅ……」
今までの態度に比べて、昨日今日はずっとここにいたいように窺える。
何かあったのかなぁ……。
「私で良いなら、困り事は聞いてあげるからさ。
ほら、どうしたの?」
「……や、優しいんですね……。
私、ア……いえ、あの」
「ん? まぁ落ち着いて。
ミルクでも飲む?」
何だか話してくれそうだったので、今回はププペポプのミルクと、作り掛けのチーズもどきを出すことにした。
夜中のおやつにはちょうど良い組み合わせでは無いだろうか。
「……はぁ。このチーズ、まだまだですね……」
「えー、絶対に美味しいよーっ!
まったく、ターニアちゃんは評価が厳しいんだから!」
実際に評価はいつも厳しいけど、こと今回に関しては照れ隠しのような気もする。
薬の効果とは違って、食べ物の美味しさは私でもすぐに分かるからね。
「お人好しなのは、あの方と同じ……か。
……あの、私をここで働かせてくれませんか?」
「は、はぁ?
いやだから、昨日も言ったけど人手は足りてるから」
「足りてても大丈夫です!」
「えぇ……。
えー、何でそこまで……?」
「……その、えっと……。
怒らないで、聞いてくださいね……?」
「怒らないように頑張るよ……」
「実はその、私は……えーっと、ミラ様のお母様と契約をしたかったのですが」
「あ、うん。それは知ってる。
凄いお母さんだもんね、分かる分かる」
私としても、学院に在籍している錬金術師より、凄腕の錬金術師の元で働きたいのは良く分かる。
未熟な人と一緒に育っていきたい……とか、そう言う希望があるなら別だろうけど。
「先日、まずは他の錬金術師のところで修行をするようにって……。
それが終わったら、状況によっては考えてあげる……って言われまして……」
「あ、そう言う……。
でも、何で私のところに?」
「……ここを、ご提案頂いたので……」
「はぁ」
つまり、私のところで働きたいわけでは無くて……。
ミラちゃんたちのお母さんと契約したいから、私のところに来た……と。
「あの……、初めて掴んだチャンスなんです!
だから、どうかお願いしますっ!」
「わ、私としては微妙なところではあるけど……。
……それで? どれくらいここで働けば良いの?」
「2、3年くらいお願いしたいです!」
「長っ!?」
その頃は、私の学院生活も終わる頃になるだろうか……。
そう考えるとちょうど良いような感じもするけど……。
……うーん、どうしようかなぁ……。




