Ex67.2か月後
――そして2か月ほどが経過した。
気候は少しずつ、寒さが和らいできた気がする。
たまには暖かい日もあるから、そろそろ春に差し掛かってきた……と言うところかな。
ちなみにその間、特に大きく動いた出来事は無かった。
私は引き続き錬金術学院で勉強に励んでいるし、フランとルーファスの問題もそのままだ。
ただ、あと1か月ほどで、建国三百年祭が行われるから――
……聖都はその準備で徐々に慌ただしく、賑やかになってきているようだった。
「――そう言えば二人って、三百年祭はどうするの?」
休憩時間の合間に、リリーちゃんとミラちゃんにそんなことを聞いてみた。
このお祭りの間は、錬金術学院もちょうどお休みに当たっているのだ。
「ママと一緒に過ごす予定なの!」
「あ、そうなんだ。
さすがに忙しいお母さんも、その間はお休みなんだね」
「んー……。むしろ、忙しいの?」
「うわぁ、お祭りのときも仕事なんだ……?
って言うと、ミラちゃんもお母さんのお手伝いなのかな?」
「えぇっと……まぁ、そうですわね」
……あれ?
何となく、一瞬表情が曇ったような……。
気のせいかな……?
「そうすると、また一緒には遊べないのかー。
三百年祭って、1週間くらいずっとやってるはずなんだけど……」
「そうなの!
ミーちゃはたくさん楽しんでくると良いの!」
「ちなみにミーシャさんは、どなたかとまわるんですか?」
「うん、学院の友達を誘ってみて……。
あとは幼馴染のフランって子と、あとは……ルーファス、は難しいか……」
建国三百年祭のタイミングを以って、ルーファスはお父さんから、アイナ様の警護の任を受け継ぐことになっている。
だから当然、その頃は忙しくしているはずだ。
「学院の方々と一緒なら、賑やかになりそうですわね。
私も残念ながらご一緒できませんので、ゆっくり楽しんできてください」
「うあー、ミラちゃんもかぁ……。
収穫祭のときも一緒に遊べなかったし、とっても残念……」
私が錬金術学院に来て以来、たくさん話はしてもらってるけど……。
でもどこか、やっぱりまだ距離を詰め切れていないと言うか……。
……二人はミステリアスな部分を残しているから、それならそれでアリなのかな?
いやいや、出来ればもっと仲良くなりたいんだけどなぁ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
授業が終わってから、工房に戻って今日の復習をする。
それが終わると、アイナ様からもらった本を頼りに、授業以外の勉強もこなしていく。
学業の面では、何とも充実した日々。
プライベートの面では……個人的なところは、からっきし。
良い異性を見つけて青春を謳歌しているクラスメートもいるけど、私はそんな時間は取れないし……。
少し遅めになってしまうだろうけど、そう言うのは錬金術師として独り立ちした後でも良いかな……。
別に、気になる人なんていないから――
「……そう言えば」
ジェイさんって、結局その後は会えていないなぁ……。
セミラミス様が知っているくらいだから、立派な人なんだろうけど……。
……あ、いや。
そう言えばセミラミス様、信徒の名前をほとんど覚えているんだよね。
新年に会ったときなんて、みんなの名前を呼んで挨拶をしてたし……。
……とすると、ジェイさんは別に立派な人じゃないのかな?
いや、その言い方は失礼だけど……、まぁ、はい。
突然頭に浮かんできたジェイさんのことは置いておいて、私はそのまま手を動かしていった。
今となっては、中級ポーションくらいならそれなりの品質で作れるようになっている。
これも授業と復習、実践を繰り返しての賜だろう。
こと実技においては、私は学年の中でもかなり良い方に入るようになっていた。
筆記のテストはまだまだ微妙なんだけど……。
でも、全体的にほどほど良いよりは、どこかが突出していた成績の方が、きっと良いよね?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――夜、工房の扉からノックの音が聞こえてきた。
この時間、この場所からの来客はもう決まりきっている。
「こんばんわ~。訪問販売のポッポルでーす」
「はい、こんばんわー。
ささ、入って入って。お菓子もあるよー」
「ありがとうございます!
僕、仕事中だから……とか言いませんからね!」
「あはは、気軽に食べていってくれた方が嬉しいよ!」
私はポッポル君を工房に招き入れて、品物を出してもらっている間にお茶の準備を済ませた。
工房にいるときは一人っきりだから、ポッポル君は話し相手に丁度良いのだ。
「いただきまーす。
……わぁ。このクッキー、美味しいですね!」
「本当に?
実はこれ、作業の合間に作ってみたんだ♪」
「え? おねーさんが作ったんですか?
てっきりこういうの、苦手だと思ってました」
「な、何で!?」
「特に理由は無いんですけど……、イメージでしょうか……」
「そんなイメージがあること自体、私は悲しいよ……」
そう言いながら、私は悲しみを癒すためにお茶を啜った。
今使っている茶葉も錬金術で作ったものだけど、いつぞやに比べれば品質は上がっているはずだ。
……何と言っても、苦くないからね。
「ところでおねーさん。
最近はたくさん買ってもらってますけど、お金の方は大丈夫ですか?」
「え? ちゃ、ちゃんと支払いはしてるよね……!?」
「あ、そうなんですけど……。
ここのところ、結構買ってもらっているので……」
……そうそう。
実は『神竜の雫』を、セレスティア教団に買い取ってもらっていたのだ。
金貨100枚くらいかなー……とは思っていたけど、結局は金貨90枚で。
少し残念なところはあったけど、セミラミス様にはとてもお世話になったし、その値段で快諾をすることに。
飲んだ後は体調を崩してしまう……と言う引け目も、快諾に至った1つの理由だったのかもしれない。
そんなわけで、私の手元にはそれなりのお金が戻ってきていた。
最近の使いっぷりは、その辺りの影響もあったんだけど……。
「そ、そうだねぇ……。
あんまり使わない素材も増えてきたから、そろそろ消化にまわらないと……。
ポッポル君が持ってきたのを見ると、どうしてもつい買っちゃうんだよね……」
「なるほどー。
もしよろしければ、過剰な在庫で何か作って、僕たちに卸してもらえませんか?
最近はそう言うニーズがあるんですよー」
「へー、そうなんだ?
私に作れるものがあるかなぁ……」
「作り方はお教えしますので、それに従って頂ければ大丈夫です!
おねーさん、中級ポーションは作れるんですよね?
それなら十分です!」
ポッポル君は近くのフラスコを指差しながら、嬉しそうに言ってきた。
ポーション類って、実力をある程度まで計る指標になるんだよね。
……つまり私も、それなりのところまでは来たと言うことか。
「それならちょっと、挑戦してみようかな。
でもまずは、今日の商品を見せてくれない?」
「かしこまりました!
『ガチャボックス』も、ついにバージョン3に生まれ変わって」
「それは要らない」
「えぇーっ!?」
……私は一歩一歩着実に進んで行く。
今はガチャの罠になんて、はまっている時間は無いのだ。
「でも……10個一気に開けると、激レア素材が当たりますよ!?」
「むっ……。
だ、だから開けないってばっ!」
「えぇーっ!?」
……ポッポル君め、強引に押し込んできおったな……。
開けないって言ったら、もう絶対に開けないんだからね……!!




