Ex66.鑑定
フランとルーファスへの報告も終えて、私は家に帰っていた。
二人はお互いを大切に思っているものの、しかし掛け違えたボタンを戻すのは難しい……と言ったところだろうか。
私も適度にお節介を焼こうと思うが、急いては事を仕損じる。
ひとまずのところは、しばらく冷却期間を設けることにしよう。
ルーファスは用事があるって言うし、その間はどうしようも無いからね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
日が変わって、また新しい朝がやって来た。
新年の気分はまだ抜けないけど、新学期が始まるまではあと3日ある。
「……あ、そうだ。
錬金術師ギルドはもう開いているはずだから、ちょっと寄ってみようかな……」
思い立ったが吉日。
ぱぱっと準備をしてぱぱっと行ってみると、いつもより賑わっているようだった。
ここもしばらくお休みだったから、その反動でみんな用事を済ませに来たのかな?
私は『神竜の雫』の作成……と言う大きな仕事を終わらせたばかりだから……。
今日は依頼を受けるつもりは無いけど、一通りくらいは依頼を見ていくことにしよう。
「えぇっと――」
……掲示板にはたくさんの依頼票が貼られており、見ているだけでも楽しくなる。
もちろん知らないアイテムもたくさんあるから、そう言ったものは記憶の隅に残しておこう。
「……あれ?
『闇色の草』の買い取りがある……」
金額は、金貨30枚。
うわぁ、やっぱり結構高いものだったんだね……。
それを踏まえると、高価な素材で作った『神竜の雫』はどれくらいの値段になるんだろう……。
ぼんやりと考えながら歩いていると、錬金術師ギルドに常駐している鑑定士さんが目に入ってきた。
……持ち込んだものを、有料で鑑定してくれる人。
それなら『神竜の雫』も、鑑定をお願いしてみちゃおうかな……?
『神竜の雫』は『エリクサー』の劣化版……のような側面もあるから、きっと現実離れをした額にはならないはずだ。
ただの学生が持つ分には、きっと高価なものなんだろうけどね。
私はひとまず家に戻って、改めて錬金術師ギルドを訪れることにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……時間は昼すぎ。
鑑定士さんが昼休みから戻って来たところで、私は元気に声を掛けていった。
「こんにちは!
すいません、鑑定をお願いしたいんですがー」
「はい、いらっしゃいませ!
いつもニコニコ、笑顔の鑑定士アルマイヤがお受けいたしまーすっ!」
……ん?
何でこの人、こんなアピールしてくるの……?
ま、まぁいっか……。
「よろしくお願いします……。
えっと、この薬をお願い出来ますか?」
「承知いたしましたー。
……ん? あれ、この薬は凄い感じがしますね……」
「そ、そうですか?」
「はい! 鑑定代金が上振れする可能性がありますが、よろしいですか?」
「う、上振れ?」
「希少なアイテムの場合は、技術料をプラスで頂戴する場合があるんですっ!
でも、最大で銀貨10枚ですから安心してくださいっ!」
「う……。普通は銀貨3枚……ですよね?
……でもまぁ、よろしくお願いします……」
仮に鑑定代が高くなるのであれば、それはつまり『神竜の雫』が希少なもの……と言うことだ。
絶対に銀貨10枚になる予感はするけど……。
「それでは参ります!
むむむ……。うー、やー、とぉーっ!!」
アルマイヤさんが何度も力を込めると、彼女の前にウィンドウが現れた。
このウィンドウって、ちょっと憧れちゃうんだよね。
私もいつか、出せるようになってみたいものだなぁ……。
「どうでしたか?」
「はぁ、はぁ、ふぅっ……。
……おっと、これは……やっぱり凄いものでしたね!」
はい、銀貨10枚確定……。
私は少し残念な気持ちを抱えながら、宙に浮いたウィンドウを覗き込んでみた。
----------------------------------------
【神竜の雫(D+級)】
偉大なる竜族がもたらした神酒。
多くの病を癒す力がある。
※追加効果:悪酔い(小)、体力減退(小)、精神減退(小)
----------------------------------------
「……おぉ。見慣れない説明文、凄く感激……。
でも、D+級かぁ……」
嬉しさと共に、悲しく突き付けられた現実。
イーディスの病気は一旦回復したものの、それでもD+級……。
もっと品質が良ければ、もしかしてエリクサーじゃなくても治すことが出来たりするのかな……?
……でも確実なことは分からないし、そこに頼るのはちょっと怖いか。
あとは、追加効果で……マイナスが多いなぁ……。
さすがD+級……。
「ふーむ。この薬って、お酒……なんですね。
珍しいアイテムなので、映像を撮らせて頂いても良いですか?」
「え? はぁ、大丈夫ですけど」
突然の申し出に、私は間抜けな感じで答えてしまった。
返事を確認したあと、アルマイヤさんは両手の親指と人差し指を組み合わせて、細い長方形の形を組んで、呪文のようなものを呟いた。
「……っと、これで良し。
はい、ありがとうございましたーっ!」
「……え?
今、何をしたんですか……?」
「念写魔法で映像情報を取得したんです!
鑑定のウィンドウみたいに、後から宙に映したりすることが出来るんですよ!」
そう言いつつ、アルマイヤさんは『神竜の雫』の映像を宙に映し出す。
「わっ、凄いっ!!
……え? この魔法、すっごく良いですね!」
「そうでしょー?
私はこの分野の魔法適性があったので、頑張って覚えたんです!」
「おぉー!
私も魔法の勉強中なんですけど、その魔法は覚えられるかなぁ……!?」
「魔術師ギルドで適性を調べることが出来ますよ。
そこで『空間系』の適性が出れば、覚えられる可能性があると思います!」
「く、空間系……、ですか?」
「収納スキルに似た魔法も、ここに含まれるので……錬金術師には便利な適性ですよ!
ただ、この適性がある人って、少ないんですよね……」
「錬金術学院でも適性は見ましたけど、あのときは六属性だけでしたね……」
「一般的には、六属性の適性がほとんどですからね。
空間系は、第九属性……とも言われるくらい、なかなか珍しいんですよ」
……聞く限り、とってもレアな適性のようだ。
そもそも空間魔法なんて――……確か『沈黙の魔術師』ヴィオラが体系化した分野なんだよね?
……って、この人も300年前の人だよ……。
またその時代の話かー……。
「うーん……。
今度機会があったら、適性の確認をしてみます」
「はい! もし適性があったら、空間系トークで一緒に盛り上がりましょう♪
……さて、と。それでは今回の鑑定料、銀貨10枚になりまーすっ!」
「やっぱり、そうですよね……。
ちなみにこの薬、売るとどれくらいになるか分かります?」
「私の鑑定スキルではちょっと出せませんね……。
品質が少し残念なので、素材価格の5割増しくらいでは無いでしょうか!」
「なるほど、ありがとうございます。
……それでは銀貨10枚、こちらで」
「毎度ありー、です!
また何かありましたら、是非寄ってくださいね!」
「はい、分かりましたー!」
……私はアルマイヤさんと別れて、歩きながら『神竜の雫』の値段に思いを馳せてみた。
素材の代金……の、5割増し、かぁ……。
高価なところでは、『竜の血』が金貨100枚、『闇色の草』が金貨30枚……。
それ以外の金額を足して、金貨140枚として……。
……で、今回はこの素材で2つが出来たから、1つ辺りは金貨70枚。
この5割増しと言うと……大体、金貨100枚くらいか。
「D+級でも、結構な額になるんだなぁ……」
……でも、金貨100枚があったところで……『竜の血』を買ったら、それでもうおしまいなんだよね。
あれ?
いやいや、何だか金銭感覚が崩れてきたぞ……?




