Ex65.報告②
フランとの話を終えてから、次はルーファスの家に向かった。
家……と言うよりは、どう見ても立派なお屋敷なんだけど……。
……スプリングフィールド家のお屋敷に来るのって、実は初めてだったりして。
フランはちょこちょこ来ていたみたいだけど、私はどうにも壁を感じてしまって……。
恐る恐る正門の警備員に声を掛けると、ルーファスから話が通っていたようで、すんなりと中に案内された。
広い庭を通ってから、立派な玄関を抜けて、そして長い廊下を歩いて――
「……疲れたよ!!」
「はははっ、慣れないとそうだろうな!」
開口一番、私の不満にルーファスは明るく返してきた。
他愛も無い話をしている間にも、メイドさんがお茶を運んできてくれる。
……ここは私には場違いな、ハイクラスな場所だ……。
少し怯みながらも、メイドさんがいなくなったのを見計らって、私は本題を切り出すことにした。
「えーっとね、今日はイーディスの件!
私の薬、無事に効いてくれたよ! どやーっ!!」
「おお、マジか!!
ミーシャの顔を見て、察してはいたけど……。
……うん、本当に良かった!」
「ありがとう!
ルーファスにもたくさん手伝ってもらったから、お礼もたくさん言わなきゃね!」
「お礼は別に要らないよ。
もっと早く伝えられれば……とか、反省点はあるし……。
……でもまぁ、結果オーライだな」
「ただ、私の薬も2、3年の効果みたいなの。
だからそれまでに、次の手を考えておかないといけなくて……」
「それって、同じ薬を作る……じゃダメなのか?」
「何回も飲んでると、効き目がどんどん弱くなっちゃうんだって。
だからその前に……私は、『エリクサー』を作ろうと思うの」
「エリクサー……。
え? あれって、かなり難しいんだろ?」
……もちろん、錬金術学院の授業なんかでは教えてくれない。
レシピは公開されているはずだから、調べればすぐに情報は出てくるだろうけど……。
しかし、単純に難しい。
素材を混ぜて作る……と言うものでは無くて、魔法の知識が厳密に絡んで来る……と聞いている。
『神竜の雫』はまぐれで作れるかもしれないが、『エリクサー』はまぐれでは作ることが出来ないものなのだ。
「……でも、頑張ればどうにかなるはず……。
ううん、どうにかしてみせる。これは、私がやらないと!」
今まで私の中で止まっていた決意が、ここでようやく私の外に出ていった。
言霊……と言うものがあるのであれば、この言葉に従って運命を導いてもらいたい。
……いや、私が導かせるものなのか。
「へぇ……。
ミーシャ、良い顔するようになったなぁ……」
「え? そ、そう……?」
突然のルーファスの言葉に、私は急に恥ずかしくなってしまった。
「ああ。この前会ったときよりも、何だか大きく見えるぞ?
やっぱり貴重な薬を作った経験かなぁ……」
「それもあるとは思うけど――
……あとはアイナ様に会って、いろいろ刺激を受けたり……?」
「ははは、あそこは刺激の宝庫だからな。
でもその調子なら……エリクサーくらい、きっと作れるさ!」
「そうだと良いね……。
申し訳ないけど、そのときはまた手伝ってくれる?」
「もちろん!
……ただ、俺もアイナ様の警護に就くことになるから、そこは注意してくれな?」
「あ、そっか……そうだよね。
それじゃ、どうしても困ったところだけ、相談に乗ってもらおうかな」
「ごめんなー。
でも出来ることはやるからさ、気楽に相談してくれよ?」
「うん、分かった。ありがとね」
その後もしばらくお互いを労い、褒め合い、何となく気分が良くなってきたところで。
私は次の話を切り出すことにした。
「――ところで、フランの件なんだけど」
「お……、おうっ?」
途端に言葉に詰まるルーファス。
この辺りはフランと一緒か。
「もう随分会ってないよね?
フランもかなり滅入っちゃってるようなんだけど……」
「そうだな……。この屋敷にも、全然来なくなったからな……。
イーディスの件も一旦落ち着いたから、少し話をしようと思っていたんだけど……。
俺は明日から、ちょっと出掛けなくちゃいけなくて……」
「ああ、そう言ってたもんね。
でも早く話しておいた方が良いと思うよ。ルーファスも分かってると思うけどさ」
「まぁ、なー……」
「そもそもルーファスって、フランとはどうしたいの?」
「どうしたいって……。
今まで通り、仲良くしたいぞ……?」
「いやいや、そうじゃなくて……。
それってダメなパターンじゃん……」
「え? ダメ……かな?」
「フランは今までよりも、ルーファスと親密になりたいんでしょ?
大貴族が平民をお嫁さんにする……って言うのは難しいとは思うけど」
「うーん……。
実際、俺もそこまで考えていないんだよ……。
保留、じゃダメ……かなぁ」
「煮え切らない態度がお互いをしんどくするだろうし、私としてはかなり心配……」
「うぅーん……。
付き合う、か、絶交、しかないってのも、正直つらいんだけど……」
……確かにそうかも。
実際、ルーファス視点だと突然のことだもんね……。
「はぁ……、恋愛って難しいねぇ……。
でもしっかり考えておかないと、フランと会ってもどうにもならなそうだし……」
幼馴染だからと言って、これからの人生をずっと一緒にいるべきだ――
……なんてことは全然無い。
恋愛はそれぞれの心の持ちようだから……はぁ、本当に難しい……。
「逆にミーシャは、俺たちにどうなって欲しいんだ?」
「何で私に聞くかね……。
フランとルーファスがラブラブになれば、丸く収まるわけだけど?
私はそれで大満足だよ?」
「うわぁ……。突き放された……」
「フランは昔から……、村にいるときからルーファスが好きだったんだけどさ。
ルーファスは、そう言うのは無かったわけ?」
「うーん……。
まぁ確かに? 2回目に会ったとき、刺しゅう入りのハンカチをもらって……。
あれはどきっとしたけど……?」
「ああ、そんなこともあったねぇ。
あれがきっかけで、フランは裁縫士を目指すようになったんだよ。
だから、ルーファスへの恋心がフランの人生を決めてしまっているわけで」
「おいおい、突然重い話になってきたぞ……!?
でもあのハンカチ、凄く頑張ってたみたいだからなぁ……。
……あのときから……って考えると、色々と思うところはあるけど……」
改めて考えてみれば、私が錬金術師になる決心をする前から、フランはルーファスのことを想っていたのだ。
途中、本人は意識の外に追いやってしまっていたようだけど……。
……でもそれにしても、凄く長い期間だよね。
「考えがまとまらないなら、時間を取ってしばらく考えた方が良いかもね。
フランのことは、私が面倒みておくから」
「はぁ……。
ミーシャも忙しいだろうに、すまないなぁ……」
「解決したら、何かお礼をくれるだけで勘弁してあげる♪」
「おお、そうだな……。
そしたら、エリクサーの素材を何か探してきてやるよ」
私の軽い冗談に、ルーファスは真面目に返してきた。
……これはちょっと予想外。
「ああ、いやいや!?
冗談だって。私はルーファスに『竜の血』の借りがあるわけだから……」
「いや?
それは、ミーシャがうちのお抱え錬金術師になるって約束でチャラになるだろ?」
「うっ、そうでした!」
まだ見ぬ私の、未来の約束手形。
せめて良い価値が出せるように、私も錬金術の道を頑張ることにしなければ。
……フランとルーファスのことは、もともとお節介を焼くつもりだったから……。
そこで何かをもらえるなら、儲けものって感じにしちゃって……まぁ、それでいっか。




