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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第4章 宗教都市メルタテオス
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88.本屋さんにて

「おはよー♪」


 次の朝、私たちが食堂で朝食をとっていると陽気なジェラードが現れた。


「おはようございます、今お帰りですか?」


「うん、ひと仕事終えてきたよ」


「ひと仕事……」


 ぼそっとエミリアさんがつぶやいたのはスルーしておこう。


「お疲れ様でした。朝食はどうします?」


「ああ、ちょっと疲れたからもう寝ようかなって。それでさ、頼んでいた育毛剤はできたかな?」


「はい。一日限定のが二本と、ずっと効果が続くのが一本ですよね。今渡しちゃいますか?」


「うん、お願い。起きたらまた、昼くらいに出て行くからさ」


「慌ただしいですね。それじゃこれ、お願いします」


 そう言いながらアイテムボックスから育毛剤を取り出すと、ジェラードは彼のアイテムボックスにしまっていった。


「確かに預かったよ。確認だけど、最終的にミスリルを全部出させれば良いんだよね?」


「理想的にはそうですね。ただミスリルの量は減っても大丈夫ですよ」


 全部もらえるに越したことはないけど、全部もらうことが目的じゃないからね。

 神器作成に必要な分だけ確保できれば良いのだ。

 ……って、どれくらい要るんだろう? 十キロくらいかな? そう考えると、できるだけ欲しくはあるかも。


「なんのなんの。ミスリルはお金で買えるけど、この育毛剤はお金じゃ買えないからね。ミスリルはできるだけ吐き出させてくるよ」


「吐き出させるって……。でもまぁ、よろしくお願いします」


「まかせてよ! それじゃ僕はもう寝るね。おやすみー」


「「「おやすみなさい」」」




「――というわけで今日の必須項目、ジェラードさんへのアイテムの引き渡しが完了しました」


「あとは遊ぶだけですね!」


「そう言うと身も蓋も無いですね。でも、そうかも?」


「ですよね! さて、それでは今日は何をしましょうか」


「観光と魔法の本探し、くらいですかね。エミリアさんとルークは他にやりたいことはあります?」


「うーん、そうですねぇ……。特には無いですけど、メルタテオスはアクセサリ屋さんがいろいろありますよ」


「へぇ? ミラエルツも結構ありましたよね?」


「あっちは材料が豊富っていう理由なんですよね。こっちは宗教色が強いので、そういう意味で種類がたくさんあるんです」


「あ、なるほど。でもアクセサリ屋って、見始めると時間がすごい経ってしまいますからねぇ……」


 ミラエルツでのアクセサリ屋巡りを思い出し、何となく申し訳なくなってルークを見る。


「アイナ様、私は大丈夫ですよ。お気になさらず」


「そ、そう?

 それじゃ今日は魔法の本を探すのと、アクセサリ屋巡りにでもしましょうか。観光は明日にでも」


「はぁい」

「はい」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 そんなわけで、私たちはまず本屋を訪れた。

 本屋――とはいっても元の世界の本屋とはずいぶんと印象が違うんだよね。


 それなりに広いスペースに、それなりの空間を取って置かれた本たち。

 私の知ってる本屋といえば、本は本棚にずらっと並べられて、その前に平積みされてるイメージになるかな。


「……そういえば、本屋って初めてきたかも」


「「え?」」


「あ、もちろん私の国では何回も行ったことありますけど!」


「そ、そうですよね。ところで本屋さんも、アイナさんの国とは違う感じなんですか?」


「はい、本はもっと並んでますね。あとは漫画の本もたくさんありますし」


「漫画の本が……たくさん、ですか? また高度な娯楽文化をお持ちで……」


「これはエミリアさん、にわかに信じられませんね……」


「え?」


「え? だって絵は写本できないじゃないですか。そんなものが大量に並んでるなんて……」


「なるほど……? そういえば、印刷……みたいのってありましたっけ?」


「印刷はありますけど……。部数が膨大になる聖書とか、そういうものでしか使われませんよ。

 あと、当然ながら文字しか印刷できませんし」


「ふむ……。ま、まぁそれはそれとして! さっそく魔法の本を探しましょー!!」


「あ、誤魔化しましたね」


「そうですね。でもまぁここまでとしておきましょう」


「むむむ、いつかはアイナさんの国に」


「ぜひお邪魔したいものですね……」




「――というわけでエミリア先生、まずはどういう本を買えば良いでしょうか」


「分かりました、先生が丁寧に教えて差し上げましょう!」


「よろしくお願いします!」


「あ、……よろしくお願いします」


 ルークの反応は遅れ気味。


「まず魔法とは、体内やら周囲のマナ――これは魔素とか魔力とかとも言われますが、それを一定の法則に従って再構成したものになります」


「ほほう……」


「以上!」


「「えっ」」


「では次に本の探し方です!」


「あ、続くんですね。良かった」


「魔法を覚えるにはまずマナを感じるところから始めなければいけないのですが、これは本にするほどのことではないので、そもそも本は無いと思います」


「そうなんですか? すごい簡単なことだから?」


「体感によるところが大きいのと、本にするにはお金が掛かりますので。それに、そこら辺の魔法を使える人に聞けば分かることですしね」


「な、なるほど……」


「その辺については私が直接お教えいたします。

 それで、本で勉強するのはそのあとの『一定の法則に従って再構成』する部分になります」


「おお、それっぽいですね。一定の法則……これは勉強しないと難しそう!」


「はい、こればかりはさすがに。魔法道具で覚えれば、何となく理解できちゃうそうなんですけどね。

 というわけで本としてはこれ……とかでしょうか」


 エミリアさんは魔法関連のコーナーで本を二冊選び出した。


「『はじめての魔法~水属性~』」


「『はじめての魔法~土属性~』」


「お二人はここからですね! といいますか、初級用の本が他には無いみたいなんですけど」


 本を開くと少し大きめの文字でいろいろと書かれていた。

 たまに魔法陣みたいなものが書いてあるが、なんだか歪んでいる。これは写本だから仕方ないか。


「そしてアイナさん。私の授業料として、この本を所望します!」


「別に良いですけど――え?」


 満面の笑みのエミリアさんが持っていた本は――


「『はじめての魔法~光属性~』」


「いやいや、エミリアさんはもう使えますよね?」


「何を言うんですか! いえ、使えますけど。

 いやいや、そうじゃなくて! 私は水属性や土属性の魔法を使えないので、光属性でいうとどこら辺のことになるのかな、という参考資料です」


「な、なるほど? 分かりました、それではそれも買いましょう」


「わぁい♪ やったー」


 その喜びの声を聞いて、参考資料というのは嘘だなとは思ったけど――教えてもらうのは確かだし、これくらいは良いよね。


 それにしても薄めの本が三冊で金貨1枚と銀貨25枚。値段としては、写本のせいということもありお高いものだ。

 そのうち印刷技術も広められないものだろうか。でも私、そういう知識がまるでないんだよなぁ。


 印刷関係の仕事をしていればこの世界で印刷無双ができたのに……。残念!

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