Ex61.そわそわ
……そわそわ。
今日の早朝、セミラミス様は私の村に出発していった。
お見送りをしたときは普通に歩いて街の外に出て行ったけど、人目の無いところで竜の姿に変身するのだそうだ。
……竜王様だから、竜の姿になるのは当然のことだとは思うけど……。
でも改めて考えてみると、やっぱり凄いことだよねぇ。
セミラミス様は今日中に村に着いて、そしてイーディスに薬を渡して飲んでもらう予定になっている。
夜は村長さんの家に泊まって、翌日にイーディスの容態を確認してから、聖都に戻って来る……と言う流れだ。
明日の夜はきっと遅くなるだろうから、私が結果を聞くのは……明後日になるのかな?
ワガママを言えば、夜の内にお話をさせてもらいたいところだけど……。
……そんなわけで、私は今、そわそわしているしか無いのだ。
時間を無駄にはしたくないけど、今回ばかりはさすがに……仕方が無いよね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
お昼を食べて、引き続きそわそわしていると、フランが私を訪ねて来た。
ルーファスの件があって以来、随分久し振りに会う気がする……。
「ミーシャ、あけましておめでとう」
「うん、あけましておめでとう。
久し振り……だね」
「あはは……。
ごめんね、なかなか気持ちの整理が付かなくてさ……」
……気持ちの整理。
ルーファスのことは、これからまた頑張っていくのか、それとももう諦めてしまうのか……。
「……今日はどうする?
寄っていくなら、お茶とお菓子があるよ」
「そうだね、少しお話をしていっても……良いかな?」
「うん。私も話したいこと、たくさんあるからね」
私はフランを招き入れて、久し振りに話をすることにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……まずは私の話から。
イーディスの薬を何とか作り上げて、セミラミス様に後をお願いしていること。
素材を手に入れる途中で、偶然ながらアイナ様に出会ったこと……などを話した。
『魔女の迷宮』の話をしてしまえば、アイナ様の居場所がばれてしまうから……、そこだけは話さないでおくことに。
私がルーファスと話したときも、その辺りはルーファスから全然聞かなかったしね。
「……へ、へぇ……?
私がぐだぐだ悩んでいる間に、色々と進んでいたんだね……」
「あはは……。
去年の最後は、本当にドタバタして終わっちゃったよ」
「……でも、イーディスの薬が出来たんだね。
さすが、我が村が誇る錬金術師さま!」
「いやいや、私はまだまだ学生だからね!?
今回上手く作れたのは、本当にまわりのみんなのおかげだったよ」
「まわりを巻き込んでいくのだって、職人の大切な資質だよ?
……って、うちの先生が言ってた!」
「まぁ、そうかもだけど……。
それで、多分明後日には結果が分かるはずだから……、ずっと緊張しててさ」
「さすがにそうだよね……。結果は私にも教えてね?
イーディスが元気になったら、また3人で遊ぼうよ」
「そうだね、遊びたいねー。
出来れば三百年祭にも来て欲しいなぁ……。3ヶ月後なんて、すぐ来ちゃうだろうけど……」
「ミーシャの薬がすぐに効けば、それも間に合うんじゃない?
ポーションみたいに、すぐ効くタイプなんでしょ?」
「うん、一応そうは聞いているけど……。
でも初めて作ったものだし、そもそも初めて聞いた薬だし……。
やっぱり不安なところはあるんだよねぇ」
「傍から見れば、ただの液体だもんね。
効果は鑑定で分かるけど、実際に効くかは使ってみないと……みたいな?」
「そうなんだよー……」
……そんな感じの、とりとめのない話。
でも、私は気付いてしまっていた。
もしもイーディスが聖都に来たとき、そのときに遊ぶ顔触れから、ルーファスが外されていることに……。
やっぱり、故意……なんだろうなぁ……。
「……あのさ。
今回は色々な人に助けてもらったんだけど……。
ルーファスにも、凄く助けてもらったんだよね」
「……そうなの?」
「かなり高価な素材もくれたし……、それにね?
セミラミス様からも聞いたんだけど、前々から本当にずっと調べていてくれたみたいで……。
でも、ルーファスの家は高名な家柄でしょう?
だから、適当な情報を出すわけにはいかない……って、黙っていたみたいなの」
……私の言葉のあと、しばらく間が空いてしまった。
その間にフランは、右手で両目を隠すように覆い、表情が見えないようにしていた。
「……はぁ。
それじゃ、私が一方的に……、酷いことを言っちゃったのか……」
そう言うフランの声からは、一気に元気が失われてしまった。
ルーファスを悪く思うことで、気持ちのやり場を作っていたのかもしれない……。
「でも、ルーファスはフランと仲直りしたいって言ってたよ?
私が間を取り持とうか……って聞いたら、自分で何とかする、とも言ってたけど……」
しかし今までのフランの言葉を聞いている限り、ルーファスはまだ何のアクションも起こしていなさそうだ。
上流貴族だから、年末年始は色々とありそうだし……、仕方が無いのかな?
そう考えるとつくづく、ルーファスのお家柄が事をややこしくしていると言うか……。
「……うん、分かった。
ミーシャにも迷惑掛けるね……。
イーディスの件が上手くいったら、私も考えてみるよ……」
「そうだね。でも、あんまり無理はしないでね」
「……うん。
さて……、そろそろ明るい話でもしよ?」
「そ、そうだね。えーっと……」
「ちょっと気になってたんだけどさ、アイナ様ってどんな人だったの?」
「え? そ、その話をするの?」
「もちろん!
だって、ミーシャが尊敬していた人なんでしょ?」
以前、ルーファスがアイナ様のことをべた褒めしていただけに……、このタイミングでは話しづらくはあるけど……。
でもまぁ、私の主観なら問題は無いのかな。
「え、えぇっと……。
身長は私よりも少し低くて、本当に同い年の子……、みたいな感じだったよ」
「300年以上、生きてるんだよね?
それなのに若いままなんて、何だかずるーいっ!」
「あはは……。それで、明るくて、優しくて、素敵な人だったな。
少し突き放すようなところもあったけど、それも優しさだろうし……」
「ふむふむ」
「それにね、すっごく強かった!
私が死に掛けたときに助けてくれて、それで魔物もたくさん倒してくれて!」
「……え? 魔物?
ミーシャ、死に掛けたの?」
「……あ。
無し。今の、無し」
「いやいや!?
大切な幼馴染が危険な目に遭ってたとか、聞かずにはいられないんだけどっ!?」
「まぁまぁ」
「いやいや!?」
私の渾身の誤魔化しも効かず、フランは私に詰め寄ってきた。
お互い椅子に座っているから、顔の距離を詰められただけだけど……謎の迫力がてんこ盛りだ。
「えーっと、簡単に言うと……。
素材を探していたときに魔物に襲われて、そこを助けてもらったって言うか……」
「あちゃー……。ミーシャ、無茶なことをしたんだねぇ……。
……『水の迷宮』にでも、挑戦しちゃった?」
「水……? あ、そうそう、それそれ!
いやー、あそこって下に下りる分には楽だもんね!」
「はぁ……。何をやってるんだか……」
……『魔女の迷宮』については誤魔化せたものの、結局のところは呆れられてしまった……。
墓穴を掘らない様に、早くこの話から離れたいよぅ……。




