表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
外伝 ミーシャのアトリエ ~ラミリエスの錬金術師~
851/911

Ex35.失敗

「ごめんね、大した服が無くて……」


 ずぶ濡れになったフランをお風呂に入れたあと、着る物がないので私の部屋着を貸すことに。

 フランの服は、今は工房の窯の前で乾かしている。

 せめて帰るころまでには、しっかりと乾いていれば良いんだけど――


 ……って、いやいや?

 もう18時を過ぎてるよ? ちょっと遅い時間になっちゃったかな……。


「ねぇ、フラン。

 今日は泊まっていく?」


 私の言葉に、フランは力無く、静かにこくりと頷いた。

 今に至るまで、ろくに言葉を交わせていない。

 フランはずっと俯いたまま、私に勧められるままの行動を取っていた。


 ……こんな彼女は初めて見る。

 どう考えてみたところで、何かがあったとしか思えないわけで……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 静かな食事も終えて、さてどうしたものか……と思い悩む。

 ベッドも整え終わったし、何か話を切り出すのも難しい空気だし……。


 ふと外を眺めて見ると、雨はまだまだ降っていた。

 雨音はかなり弱くはなっているが、それでも外に出たいとは思えない程度に降っている。



「――……めん、ね……」


 注意が一瞬外を向いたあと、フランの微かな声が聞こえてきた。

 ……ようやく聞くことの出来た、その声。


「ううん、大丈夫だよ。

 今日はもう、寝ちゃおっか?」


「……うん……」


 私はフランの肩を軽く支えながら、ゆっくりと部屋に案内していった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ……明日も、錬金術学院はお休みだ。

 だからもう一日だけは、フランの面倒を見ることが出来る。


 明日はどうなるのかな。

 フランも少しくらい、お話をしてくれるようになれば嬉しいんだけど……。


 部屋を暗くしてから、静かにベッドの中に潜り込む。

 ベッドはフランに譲ろうとしたものの、それは固辞されてしまった。


 ただ、同じ部屋では寝ることになったのだ。

 だから何かあっても、私はきっとフォローにまわることが出来るだろう。



「――……ね」


「ひゃふっ!?」


 2、3分後、突然聞こえたフランの声に、私は驚いてしまった。

 いや、声だけなら驚くほどのことでも無かったんだけど、いつの間にかフランがベッドの横に立っていたのだ。


 これは……心臓に悪い……!



「……一緒に、寝ても良い……かな……?」


「うん、大丈夫だよ。

 ……一緒に寝るのなんて、子供のとき以来だねぇ」


 私は寝たまま、身体をよじってベッドにひとり分のスペースを空けた。

 あまり広いベッドでは無いけど、ふたりで寝ても問題は無いだろう。

 フランは静かに、ベッドに空いたスペースに潜り込んできた。


 ……部屋の中は引き続き暗い。

 しかし外からの微かな光が、何となく部屋の中を照らしてくれていた。



「……今日、ね……。

 ……ルーファスと……会ってきたんだ……」


「……うん」


 しばらくして、ようやく出てきたのはそんな言葉。

 想像した通りではあったけど、ここでようやく、それは確定事項になってくれた。


「……ミーシャのところにも、来たんでしょ?

 あいつ……、格好良くなったよねぇ……」


 ルーファス、先に私のところに来ていたのか……。

 ……うーん、フランの気持ちを知っているだけに、それだけで申し訳ない気持ちが生まれてくる……。


「逞しくなったって言うか……?

 ……一皮むけて、帰ってきた感じだよね」


 実際、死に直面するほどの試練だったのだ。

 それはきっと、とんでもない経験になったに違いない。


 私の言葉のあと、少し間が空いてしまった。

 何か失言をしてしまったのでは……と、ついつい焦ってしまう。



「……私……、あいつの一番になりたい……、よ……。

 ますます、その気持ちが……強くなったの……。

 ……あいつが大変な場所から戻ってきたら……、まずは私のところに来てくれるくらい……、一番になりたいの……」


 そう言いながら、フランは私の服を静かに掴んできた。


「ちょ……。

 もしかして、私のこと……怒ってるの?」


 焦りは増して、不安がどんどん募ってくる。


「……ううん。悔しかったけど……、別に怒ってはいないよ……。

 でも、はっきりさせたかったの……。

 ミーシャは私のこと……、本当に、応援してくれているんだよね……?」


「もちろんだよ……!

 私はルーファスのこと、ただの幼馴染だとしか思っていないし……。

 ルーファスも話した感じ、それは間違いないから……!」


「あいつ、分かり易いからね……。

 ……ごめんね、本当に。ミーシャには感謝しかしてないの……。

 でも……」


「……でも?」


「ミーシャじゃないの……。

 でもあいつには、好きな人が出来たの……」


「え? ルーファスに?

 ……それ、私の知ってる人……?」


 まさかの第三者の登場に、私は驚いてしまった。

 今までそんな話、聞いたことも無かったけど――


「……アイナ様」


「ほぇ」


 フランの言葉に、私はまたまた驚いてしまった。


 アイナ様――

 ……私から見れば未だに伝説上の人物だけど、そう言えばルーファスは実際に会ってきたのか。


「……あいつのあんな目……、見たくなかったよ……。

 私が欲しかった言葉……、全部アイナ様に向けられているんだもん……。

 ……こんなタイミングで、会わなきゃ良かったよ……」


「でも、アイナ様はルーファスが護る人だし……。

 恋愛対象にはならないんじゃないかな……?

 ほら、憧れとか、尊敬とか、そう言う感じで……」


 私の服を掴むフランの手に、少し力が入るのを感じた。


「……私も、そう思ったの……。

 だから、ちょっと予定と変わっちゃったんだけど……。

 ……告白、しちゃったんだ……」


「えっ」


 その流れでしちゃうの……?

 ……いや、その場の空気が分からない以上、もしかしたらそれは正しかったのかもしれないけど……。


「……そうしたらね、謝られちゃった……。

 今まで察してはいたけど、何も言えなくてごめん……って。

 好きな人がいるわけじゃない。ただ今は、やるべきことがあるから……って」


 ……確かにルーファスも、試練は終わったとは言え、大変な時期ではある。

 これから来年に掛けて、彼を取り巻く環境はいくらでも変わってしまうのだから。

 だからこそ、私たちはそこに告白をねじ込もうと言う作戦だったんだけど……。


「……そっか。

 それじゃ、ショックだったよね……」


「でも、あいつの目は違ったの……。

 好きな人がいない……そうじゃない、って思うの……。

 私はあいつのこと、好きなのに……。

 ……それに、ケンカもしちゃって……」


「――え?」



 告白してダメだった。

 ……そこからのケンカ?



「あいつ、私のこと……幼馴染として大切に思っている……って言うからさ……。

 それなら……イーディスのことは? イーディスだって、昔一緒に遊んだよね……?

 あの子は今――……うぅん、ずっと。

 小さい頃から、あの子はずっと病気で苦しんでいるよね……?

 でもあいつは、そんなあの子に何をしてあげたの……?

 地位もお金も持っているのに、あいつは何をしてくれたの……?

 ……それが、大切に思っているってことなの……?」


 フランの声に、悲痛なものが混ざってくる。


 ルーファスの家……スプリングフィールド家は、この国の中でも影響力がかなり大きい一門だ。

 私の村が束になっても、当然のように敵うことは無いだろう。


 ……一応、ルーファスも調べてくれてはいるんだけどね。

 それでも病気の情報が得られないのは、本当に情報が無いのか、そこまで本腰を入れていないからなのか……。


 ただ、そうは言っても……。

 幼馴染とは言っても、結局は幼馴染なのだ。

 関係が近い幼馴染もいれば、関係が遠い幼馴染もいるだろう。


 その辺りを察してしまって、私は今まで、あまり強くは聞いてこなかったのかもしれない。


 私にとってのイーディスと、ルーファスにとってのイーディス。

 ここには違いがあって当然なのだから、どうしても情報が欲しいのであれば、私がもっと頑張るべきだったのか……。



 ……しかしフランが悲しんでいるのは、きっとそこでは無い。

 あまり大切に扱われていない『幼馴染』という括りに、自分が入れられてしまったことが辛いのだろう。


 大切にされているようで、大切にされていない。

 今は感情に流されているから、そこまでは深く考えていないとは思うけど……。



「……私からも少し、話してみようか?

 フランのことも、ちゃんと伝えておくからさ……」


「……大丈夫……、かな……。

 ビンタして、雨の中を走って逃げちゃったんだけど……」


「……うわぁ」


「……しかも目撃者が結構いてさ……」


「……うわぁ」



 ……それはちょっと、ルーファスとしては汚名……だよね……。

 由緒正しい貴族の長男が、平民の女の子からビンタをもらって逃げられるだなんて……。


 ……あれ?

 私、どうしよう……?


 うーん……。

 上手く間を取り持てるかなぁ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ルークというアイナさん信者が普通に恋愛してたという前例があるから大丈夫だと思うけどなぁ まあ頑張れ恋する乙女
[一言] ルークもアイナ様アイナ様言いながら別人と結婚したし、その辺割り切れる嫁じゃないと辛いなあ。 確かに前話で送ってくれた人がジェラードっぽい。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ