Ex33.お帰りなさい
――収穫祭が終わって2週間ほど。
さすがに街からはお祭り気分も抜け、景色は徐々に冬に向かい始めていた。
ま、その前に秋があるんだけどね。
その間、私の学院生活も順調に進んでいった。
未知の分野である魔法の授業も始まって、新鮮な気持ちで日々を過ごせているような気がする。
逆に言えば、その分疲れが出やすいのかもしれない。
だから、たまの週末くらいはのんびり過ごそうと思っていたんだけど――
……チリンチリン♪
こう言うときこそ、何故か来客があってしまうものだ。
どうか面倒事じゃありませんように……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「よーっ!
ミーシャ、元気だったかー!?」
……お前の方こそ元気満点だな!
そんな感じで現れたのは、ルーファスだった。
「あれ、こんにちは。
面倒事じゃなかったっぽい?」
「……え? 何、それ?」
「あ、ごめんごめん。
タイミング的に、何かアクシデント的な来客かなーと思って」
「いやいや、大丈夫だぞ!
面倒事……ではないけど、大変なことは終わらせてきたからな!」
「お……? ってことは、アイナ様の試練は――」
「ああ、無事にクリア出来たぜ!!
ははは、やったやったー!!」
そう言いながら、ルーファスは自然な流れで私の両手を掴んできた。
私も思わず握り返し、二人でぶんぶんと上へ下へと両手を振る。
「本当に、やったじゃん!!
いろいろ話、聞かせてよ!!」
「おう! それじゃ、お邪魔するぜ!」
私はルーファスを招き入れて、早速お茶の準備をしていった。
お菓子をお土産に持って来てくれたから、ありがたくそれを頂戴することにしようかな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――それでそれで?
試練って、どこで受けてきたの!?」
「秘密!!」
「えっ!?」
一番最初の質問で、私は早々に拒絶されてしまった。
「いや、ごめん。場所は秘密なんだ。
ほら、アイナ様の居場所は機密情報だからさ」
「あ、そう言うことね……。
この街には住んでいないって聞いたことはあるけど、そうなのかな?」
「っと、そこも何とも言えないぞ? ごめんなー」
私の情報はセミラミス様から聞いたものだから、間違いは無いと思うんだけど……。
ただ、ルーファスの立場としては、否定も肯定も出来ないところなのだろう。
「うん、大丈夫だよ。
下手なことを言って、警護の仕事が無くなったら大変だもんね。
それじゃ、アイナ様ってどんな方だったが聞いても良い?
もう、300歳を超えているんでしょ?」
「300歳……。そうなんだよなぁ……。
えーっと、どう見ても俺たちと同年代だった……な……」
「え、本当に?
確かに見た目は若い……って聞いたことはあるけど、まさかそんなに?」
「ああ。でも若く見えて、存在感はとんでもなくあったぞ。
特にあの瞳……」
「……瞳? どんな感じ?」
「左目が黄色……と言うか、金色だな。すっごく綺麗でさ。
反対に右目が青色で、こっちも違う意味で綺麗で……」
「へー……。オッドアイなんだ?」
オッドアイと言うのはそこまで珍しいものでも無いけど……、金色と青色、かぁ……。
その組み合わせは、私はまだ見たことが無いかな?
「それで、とにかく可愛かった……!
……いや、違うな。何だか凄く、尊かった……」
「は、はぁ……」
今までに見たことの無い感じで、何やら気色悪くメロメロし始めるルーファス。
私はついつい、冷めた反応をしてしまった。
しかし彼は特に気にせず、そのまま言葉を続けていく。
「いや、身体の奥底からな……。
この方をお護りしなければいけない……って、気持ち? ……感情?
そんなものが溢れてきてさぁ……」
「ふ、ふぅん……?
でも実際、この国や神器を作った方だもんね……。
尊いって言うのは、間違いでは無いのかな……?」
かく言う私も、アイナ様のことは当然のように尊敬している。
会ったことも見たことも無いけど、何せ伝説の錬金術師。何せこの国を作ったお方。
……そんな人を、尊敬しないわけにはいかないじゃない?
「……ごめん、ミーシャ。
このままだと、一晩くらいは語ってしまいそうなんだが……」
「……本当にね……。
気にはなるけど、一旦他の話をしよっか……」
私はルーファスの申し出をありがたく受け、別の話をすることにした。
アイナ様の話はもちろんしたいけど、他の話も聞きたいからね。
「――そうそう。
まずはお礼を言わせてくれな。ミーシャから買ったポーション、とっても役に立ったぞ!」
「あ、それは良かった。ちゃんと効いたかな?」
「ああ。おかげで死の底から這い上がれたぜ!」
「……は? 死って……。
いやいや、ちょっと待って……?」
「本当に死ぬって状態になったら、アイナ様がきっと助けてくれただろうけどさ。
でもそうしたら、試練は失敗になるって話だったんだよ」
「そ、そこまで追い詰められていたの……?
ごめん、想像以上だったわ……」
「今にして思えば、俺も試練が始まるまでは軽く見ていたところがあったな……。
でも死ってやつに直面して、精神が随分鍛えられた気がするよ」
「あ、それ分かるかも。
ルーファスはいつもの調子だけど、何か大人びた……って感じがするもん」
安定感が増したと言うか、頼りに見えると言うか……。
お世辞抜きに、短期間で確実に何かが変わったように見えるかな。
私の言葉を聞いて、ルーファスは嬉しそうに照れていた。
その表情を見ていると、応援していたこちらとしても嬉しくなってしまう。
「……あ、そうだ。
ところでさ、ひとつ聞きたいことがあったんだ」
「え? 何?」
「ゴーレムを作るのって、錬金術なのか?」
「ゴーレム……?
確かアーティファクト錬金の分野で、場合によってはホムンクルス錬金が必要……になるかな?」
単純に機械として動くゴーレムであれば、アーティファクト錬金の分野だ。
しかし仮初めの命を吹き込むものであれば、ホムンクルス錬金の技術も必要になってくる。
さすがに錬金術学院ではそんなところまでは学ばないし、この辺りの製法は世に出てくることもまず無いんだけどね。
「ふむ……。
それって、難しいのか?」
「あ、ごめん。何の分野かって言っても、それだけじゃ分からないよね。
えーっと、とりあえずかなり難しい……かな。私なんて、まだまだ麓にも辿り着けていないくらいにね」
「へぇ……。
実はさ、アイナ様のところにいたんだよ……」
「え? ゴーレムが?」
「そうそう。しかも聞いて驚くなよ……。
そのゴーレムは全身がミスリルで出来た、ミスリルゴーレムだったんだ……」
「ミスリル……? で、ゴーレムなの……?
何それ、凄い……!!」
「しかもな……。
ガルルンの形をしたミスリルゴーレムだったんだ……!!」
「は、はぁ……!?」
「大きさは置物くらいの可愛いサイズだったんだけど……。
あれはもしや、ガルルン神なのでは……?」
そう言うルーファスの目は、キラキラと輝いていた。
ルーファスはガルルン教の信者だから、それも仕方が無いのかな……?
いや、それにしても……置物サイズの、ガルルンのミスリルゴーレムかぁ……。
……えー、いいなぁ……。
私も正直、すっごく見てみたいぞ……。




