Ex31.収穫祭①
――収穫祭。
聖都ラミリエスがマーメイドサイドと言う名前だった時代から、ずっと欠かさずに続けられてきた伝統の行事。
ポエール商会が主催するガチャを始め、個性的な催しはあるものの、基本的にはかなり王道のイベントになっている。
一年の収穫に感謝をしながら、苦労を労い、みんなで語って飲み明かしちゃおう……と。
イベントの内容としては、大体はそんなところかな。
そして人がたくさん集まる場所には、もちろん商売のチャンスが眠っている。
だからいつも以上に、商売人や見世物なんかも集まって来ちゃうんだよね。
しかし『話を聞く』のと『実際を見る』のとでは大違い。
街中に集まった人々を目の当たりにしたところで、私の口からは呆けた言葉が出て来てしまった。
「……はぁ、すっごい人だかり……、だねぇ……」
「本当だよねー。
私は2回目だけど、やっぱり気圧されちゃう……」
大通りを埋め尽くす人たちを眺めながら、私はフランと一緒に人の波に抗っていた。
収穫祭は今日と明日の二日間が中心になっている。
初日となる今日は、私はフランと一緒にまわることにしていたのだ。
ちなみに明日は、錬金術学院の友達と一緒にまわる予定だ。
リリーちゃんとミラちゃんにも声を掛けてみたんだけど、二人は用事があって来られないらしい。
エリナちゃんは、自分のクラスの友達と一緒にまわるのだとか。
仲の良い三人と一緒にまわることが出来ないのは、少し寂しいところかな。
「ところで、フラン。
今日は私とで良かったの?」
「ん? そりゃ、もちろんだよ。
何だかんだで、私はミーシャと一緒にいるのが一番気楽だからね!」
「あはは、そりゃどうも……。
ま、お互い勝手知ったる仲……って感じだもんね」
「そうそう、それそれ!
物心ついたときからの付き合いだからねー。いやいや、小さい頃からお世話になっています」
「いえいえ、こちらこそ。
……さて。それじゃまずは、甘いものでも食べに行こっか」
「分かってるぅ~♪
まずはあれね。聖都名物、きんつば!」
「きんつば……。
あー……、私はまだ食べたことが無いんだよ」
「そうなんだ?
でもこれだって、錬金術で作ることが出来るんだよね?」
「うぅーん……。
個人的には、お菓子まで錬金術に含めるのはどうかなぁ、って……。
いや、そう言う風潮が一部であるのは知っているけど……」
錬金は錬金。
調理は調理。
製菓は製菓。
この辺りは一括りにしようと思えば出来ちゃうところだけど、だからと言ってごちゃまぜにするのはどうなんだろう……。
「……窯を使って作れば錬金術……みたいなイメージもあるからね。
私は専門外だから、ただのイメージなんだけど」
「確かにそんなイメージは付いちゃっているよね……。
……ま、今はどうで良いや。
それじゃ早速、あの露店辺りからまわりますか!」
「おー!!」
初日はまず、幼馴染のフランと一緒に楽しんでいく。
……本当なら、他の幼馴染とも一緒にまわりたかったんだけどね。
でも、イーディスは村に残したまま。
ルーファスはアイナ様の試練を受けている最中――
……って、そうか。
ルーファスはもう、試練を受けている頃か。
私たちだけ遊んでいるようで申し訳が無いけど、それはそれとして、二人の分までめいっぱい遊ぶことにしよう。
いつか土産話として聞かせられれば、きっとそれが一番だろうからね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昼から夕方に掛けて、露店をまわり、たくさんの見世物を見てまわって――
……気が付けば早々に夜の時間。
私はフランと一緒に家に戻り、お店のスペースで細やかな食事会を開いていた。
食事のメニューは、露店で買い込んだ食べ物たち。
きんつばも補充したし、露店ではたこ焼きやら焼きそばやら、村ではほとんど食べなかったものが揃っている。
この辺りはいつも港の方で売ってはいるけど、今まではあまり注意が向いていなかったかもしれない。
「はぁ……。
村では見ないものが、たくさんあるね……」
「でしょー!?
私も最初、驚いちゃったもん!
ほらほら、どんどん食べてっ」
「さもフランが買ったように勧めているけど、全部割り勘だったよね……?」
「まぁまぁ! はい、あーん♪」
フランはたこ焼きを楊枝に刺して、私に差し出してきた。
もはやノリもわけが分からない状態だ。
……この辺り、お祭りならではの高揚感……って言うのかな?
「うん、少し冷めちゃったけど美味しいね。
でもこう言うことは、ルーファスと出来れば良かったね~? あ~ん、ってね♪」
「ぅ……。
あ、あはは……。そうだねぇ……。
来年は絶対にルーファスと――
……あ、いや。そうするとミーシャとは一緒にまわれないのか……」
ひとまず、ルーファスと一緒のときは私は除外されてしまうらしい。
ふふふ、女の友情なんてそんなもんよ……。
「はー、それは残念だね……。
来年は私の分まで楽しんでね、ほろり」
「いやいや、冗談だから!
メインは二日間だから、もう片方の日は絶対に一緒にまわろうね!」
「はいはい、それじゃそうさせてもらいましょ。
でも収穫祭ってのも、恋人と一緒ならもっと楽しそうだよね~?」
「こ、恋人だなんて……!
やだー、ミーシャったらーっ!!」
そう言いながら、フランは私の肩をばしばしと叩いてきた。
……何だろう。
幼馴染に言うにはちょっとアレだけど……。
……ちょっと……鬱陶し……。
……いや、何でも無い……。
「はいはい、痛いからやめなさいって……。
あ、そうだ。ルーファスと言えばさ、少し前に私のところに来たんだよ」
「え? 何をしに?」
「試練でポーションが必要だからって、買いに来てくれたの。
ここで初めて物が売れたから、嬉しかったなぁ」
「おー、それは良かったねぇ。
……そっか。ルーファス、今は試練を受けているんだよね……」
「上手くいってくれると良いよね。
そうじゃないと、フランの告白のスケジュールが狂っちゃう♪」
「あああ……。改めて言われると緊張しちゃうから止めて……。
とりあえず今日はさ、明るく楽しく頭を空っぽにして食べ明かそ?」
「食べ過ぎには注意だけどね!
……ところでお酒は買わないで大丈夫だったの? 一応、私たちは飲める年齢になったけど」
「ん? ミーシャは飲みたかった?」
「いや、そう言うわけでも無いけど……。
子供の頃に飲まされた記憶があって……。
……うーん、お酒ってあんまり良いイメージが無いんだよね」
「えー、それはもったいないよ!?
聖都のお酒、凄く美味しいんだから!」
「ふーん、そうなんだ……。
今日はもう無理だから、明日にでも飲んでみようかな」
「酔うならちゃんとしたところで酔うようにしてね?
危ない人だってたくさんいるから、無防備に襲われないように!」
物騒なことを言うフランではあるが、実際はその通りなのだ。
お祭りを利用して、ナンパ目的の連中も集まってしまっているそうだし……。
「それなら買って帰って、ここで飲むことにしようかな。
……いや、一人で飲むのも寂しいか」
正直、錬金術学院の友達をここに呼ぶつもりは無い。
何となく、『呼ぶ度胸』が無いと言うか。
……リリーちゃんとミラちゃんなら大丈夫なんだけど、他の人はちょっとね。
たかが学生が、こんな一等地を借りているだなんて知られたくないし……。
「それなら今度、私と一緒に飲もうよ。
ほら、告白……が成功したら、一緒に盛り上がる感じで!」
「あ、それは良いね!
それじゃそれまで、私のお酒デビューは取っておこうかな」
「うん、そうして!
ミーシャのためにも、絶対に告白を成功してやるんだから!」
「あはは、頑張れ~♪」
……結局この日は、いつも通りの話題に花が咲いてしまった。
ただひとつ特別だったのは、フランが一晩泊まっていったこと。
だからいつもよりもちょっと深い感じで、親交を深めることが出来たかな。




