Ex30.下の下の……
中級ポーションとは、それなりの難易度がある錬金アイテムである。
錬金術学院においては、一年生の最終目標のひとつに掲げられているほどだ。
「……はい。しっぱーい……」
休日の丸一日を使って作ってはみたものの、結果は見事に失敗。
本来は透明な液体になるはずなのに、何故か白く濁ってしまった。
それに、何となく粘度があるし……?
本当はもっとこう、さらさらーって感じになるはずなんだけど……。
「うぅーん……。
今回は特におかしかったなぁ……」
今までに中級ポーションは作ったこともあるし、一応成功させたこともある。
そのときはもっと、綺麗な透明になっていたはず……。
……何だろう? どこが悪かったんだろう……?
上手く成分を拡散できなかったのかな……? 素材から成分を抽出できなかったのかな……?
中級は初級の次――……と、侮ること無かれ。
ぶっちゃけ中級ポーションさえ作ることが出来れば、それだけで生活をしていくことが可能なのだ。
だからこそ、錬金術学院では中級ポーションに重きを置いている節もあったりする。
「特に私は、ファーマシー錬金を専攻するわけだから……。
中級ポーションくらいは、早く安定して作れるようにならないと……」
……初級ポーションなら、普通の品質のものであれば高確率で作ることが出来る。
それこそうたた寝でもしない限り、確率としてはほぼ100%なのだ。
そんな感じで、私もいずれは中級ポーションを楽々と作れるようになるだろう。
そしていずれは、高級ポーションさえも――
……反面、ファーマシー錬金を専攻しないのであれば、初級ポーションまでしか作れないなんて言う錬金術師もザラにいたりする。
ただその場合は、違う分野で良い仕事をする場合がほとんどなんだけどね。
例えば特殊な素材を作り出す、マテリアル錬金。
例えば貴重な特殊効果を生み出す、アーティファクト錬金。
しかし私が目指すのは、高級ポーション。
そしてさらにその先に広がる、数えきれないほどの薬たち。
怪我を治すポーションだけに留まらず、私はいろいろな病気を治す薬を作っていきたい。
でもそう考えると、やっぱり医学の知識も必要になるんだよなぁ……。
……錬金術の勉強に加えて、医学の勉強。
ただでさえ時間が無いのだから、さすがに医学は錬金術学院を卒業してから……の話になるのかな。
二兎追う者は一兎も得ず。
在学中はとりあえず、イーディスの薬を最優先に……。
……でも、卒業までにとは言わず、出来るだけ早く。
それならせめて、病気のとっかかりくらいは早く掴まないとなぁ……。
私はいつも通り、悩みの迷路に迷い込んでしまった。
考えても考えてもなかなか答えが出て来ない滅茶苦茶な道。
こう言うときは、早々に気分転換をしたいところだけど――
「……時間は、もう夜かぁ……。
今から外に出るわけにもいかないしなぁ……」
聖都は治安が良いとは言え、女の子がひとりでふらふら出歩くのはさすがに危ない。
となれば、気分転換も工房かお店の中でするしか無いわけで……。
……でも、明日からまた授業なんだよなぁ……。
それならもう、さっさと寝ることにしちゃおうかなぁ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
お風呂に入って、寝る前に戸締りを確認していく。
今日は窯に火を点けていたから、火の元のチェックも済ませて――
「――……あ!!」
「わっ!?」
窯の側にいたのは、先日も会った妖精。
ミラちゃんの言う通り、よく見てみれば眼鏡も掛けているし……。
そんなこの子の名前は――
「……ターニアちゃん?」
「え? な、何で私の名前を知っているんですか!?」
「いやぁ、ミラちゃんから聞いたんだけど……」
「っ!!
み、ミラ様とお知り合いなんですか!?」
……ミラ様。
ミラちゃんを様付けで呼ぶのは、学院長先生以来かな。
「知り合いも知り合い、友達だよー。
錬金術学院でクラスが同じだし……。
あとはこの工房を借りるときにお世話になったし……」
「う、羨ましい……!」
そう言いながら、ターニアちゃんは私のことを睨んできた。
……何だろう。そこはかとなく、敵対心を感じるぞ……。
「えぇっと、それで今日は何の御用かな?
この前とは違って、私が住んでいるってもう知っているでしょ?」
前回は故意でなかったとしても、今回は故意になる。
さすがに用も無く、無断で工房に入ってきて欲しくは無いんだけど……。
「ここを通り掛かったら、無様な臭いがしたので……。
つい、立ち寄ってみたんです」
「……無様な臭い?」
そう言いながらターニアちゃんを見ると、彼女の視線はテーブルの一か所に向かっていた。
そしてそこには、私がさっき作った中級ポーション……の、失敗作が。
「由緒正しい工房を借りておきながら、こんな無様なものを作るなんて……。
…………はあ~……」
「ちょちょちょっ!?
そりゃ、今日は失敗したけど……!
でもそんなに、大きな溜息をつかなくても良いんじゃないかな!?」
「あっと、これは失礼しました。
それではごきげんよう、ゲゲゲの錬金術師さん……っ!」
そんな言葉を残すと、ターニアちゃんは消えるようにいなくなってしまった。
それにしても、『ゲゲゲ』って……。
ターニアちゃん、見掛けによらず、口が悪過ぎなんじゃないかな……。
そして後に残されたのは、さらなるストレスを浴びせかけられた私がひとり……。
……ダメだ。
今日はもう寝よう……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――次の日の朝、いつもの時間に目が覚める。
ベッドの上でぼんやりしていると、唐突に昨晩のターニアちゃんの言葉が私を襲ってきた。
……ゲゲゲの錬金術師。
どこからどう見ても、まるで褒められていないその言葉……。
実際、『下の下』からもうひとつ進化したような感じだし……。
……ぐあぁーっ!!!!
「……はぁ。
ひとまず顔でも洗おう……」
それにしても、妖精ってあんなキャラもいるんだねぇ……。
もしかして、私を煽って真の力を引き出そうと画策していたりとか……?
……でもターニアちゃんって、リリーちゃんたちのお母さんと契約をしたいんだよね?
それならいちいち私に構わないで欲しいと言うか……。
「……せっかく妖精さんと会えたのに。
まさか『来るな』なんて思っちゃうだなんて……」
私としては、出来れば妖精さんと契約をしたい気持ちはある。
でも、ターニアちゃんは正直ちょっとなぁ……。
いちいち煽られていたら、私も精神的にもたないし……。
……契約してくれるなら、もっと素直で優しい、いかにも妖精って感じの子が良いなぁ……。
そう言えば、学院の生徒で妖精と契約をした人なんていたっけ……?
いたとしても、実力的には三年生なんだろうなぁ……。
でも私のもとには、そのうちまたターニアちゃんがやって来そうな気がする。
契約うんぬんじゃなくて、私みたいな低ランクの錬金術師が、この工房を使っているのが許せないんだろうけど……。
……となれば、私がこの工房に見合う錬金術師になって見返してあげれば良いのかな……?
聖都の一等地!
伝説の職人を多く輩出した場所!!
貴族が行き交う、高級職人通り!!!!
――……そんな場所に見合うようになるなんて、いつの話になるんだ……。
自分で勝手に考えて、勝手に絶望を感じる今日この頃。
……はぁ。
そろそろ準備して、授業でも受けに行こっと……。




