Ex28.星の石
長い休暇が明けて、今日は久し振りの錬金術学院へ。
みんなと会うのは久し振りだから、ついつい話も弾んでしまう。
今日は折角なので、昼食はリリーちゃんとミラちゃんと一緒に食べることにした。
「……はぁ、やっぱり美味しそうだね。そのお弁当……」
やはり二人のお弁当は、とんでもなく美味しそうに見える。
正直なところ、私にも毎日作ってもらいたいくらいだ。
「ミーちゃ、また何か欲しいの?
今日はスライムさんウィンナーをあげるの!」
「え、本当に? やったー!!
……もぐもぐ。うわっ、すっごく美味しい!?」
さすがにウィンナーは手作りじゃないよね……?
買えるものなら、ここはお店を紹介してもらいたいところ……。
「お気に召したようで何よりですわ。
そのウィンナー、お母様の自信作ですのよ♪」
「え!? もしかしてこれ、手作り……!?」
「なの!!」
……残念ながらこのウィンナー、私の家では味わえないもののようだ。
さすがにウィンナーなんて、自分で作る気は出て来ないなぁ……。
「くぅ……、諦めよう……。
ところで二人ってさ、休暇中は何をやっていたの?」
「私はママと、冒険に行ってきたの!」
「……え? 冒険?」
「ママがね、迷宮に用事があるって言ってたから、一緒に付いていったの!」
「めいきゅう……。いわゆるダンジョン、ってやつだよね?
魔物が出るんだよね? もしかして、リリーちゃんも中に入ったの?」
「んーん? 私は外で、お留守番をしてたの!」
……さ、さすがにそうだよね……。
リリーちゃんは別に強そうにも見えないし……。
ローナには飛び蹴りを食らわせていたけど、魔物と戦うのとはわけが違うだろうし……。
そんなことを考えていると、リリーちゃんはお弁当を入れていた袋から小さな石を取り出した。
「これ、ミーちゃにお土産なの!」
「え、私に? やったー、ありがとう!
……って、なにこれ? 石?」
「石なの!」
……お土産が石。
どこからどう見ても、ただの黒っぽい石。
え、えぇー?
子供じゃないんだよ?
私たち、お年頃の女の子だよ?
「あ、ありがとう……?」
私の微妙な表情を察したのか、ミラちゃんがフォローを入れてきた。
「リリー、ちゃんと説明をしないと伝わりませんわよ?
ミーシャさん、ただの石だって思っているようですし」
「そうなの!?」
「え? ただの石じゃないの……?」
「ほら、ね?」
「みゅぅ……。
えっとね、それは『星の石』って言う貴重な石なの!
錬金術でも使えるみたいなの!」
「あ、そうなんだ……!
でも貴重な石なら、もらっちゃっても良いのかな?」
「たくさん拾ってきたから大丈夫なの!」
……たくさん?
あれ? 貴重な石じゃなかったの……?
「私ももらったので、ミーシャさんも遠慮なく受け取ってください。
なかなか入手できないものですし、勉強にも役に立てられると思いますわ」
「そ、そう……? それじゃ、ありがたく頂くね。
ところでミラちゃんは、一緒に行かなかったの?」
「はい、私は聖都から離れられませんので。
お母様とリリーがいない間、のんびり過ごさせて頂きましたわ」
「へー、そうだったんだー」
リリーちゃんとミラちゃんはずっと一緒のイメージがあったけど……。
仲が良いとは言っても、違う人間だもんね。そりゃ、たまには別行動くらいするか。
「ところでミーちゃは、休みの間は何をしてたの?」
「私? 私はね、錬金術師ギルドのアルバイトと依頼をこなしていたよ。
スケジュール通りに進みはしたけど、予想外のこともいろいろあったかな」
「そうそう、錬金術師ギルドと言えば……。
ちょっとした騒ぎがあったようですわね」
「え? 騒ぎ?」
「伝説のレシピが出てきたとか、何とか」
……ぶっ!?
ちょ、ちょっと待って?
それって『レシピ・オブ・ルーシー』のことだよね?
その辺り、結構秘密にされていたんじゃなかったの?
何で情報が漏れちゃってるの……?
……いや、二人のお母さんから聞いたのかな?
お金持ちで偉ければ、それくらいの情報は普通に入ってきそうだし……。
「あ、そ、ソウナンダー?
そう言えば確かに、ちょっと賑やかなことがあったカナー……?」
私はとりあえず、適当に濁すことにした。
この辺りの話を、私やエリナちゃんから出すわけにはいかないからね。
「賑やか……と言うなら、きっと見つかったときの話なのでしょう。
ミーシャさん、是非お話を聞かせて頂けませんか?」
「なの! 聞きたいの!」
「え……」
……よりにもよって、ここに食いついてくるの……!?
でも私は、約束を守る人間なのだ。
ここは全力で誤魔化すことにするぞ……!!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――久し振りだったから、疲れたかも」
夕方、帰宅してから身体を伸ばす。
アルバイト後の方が身体の疲れはあったけど、授業はまた別の疲れが出てくると言うか。
……いや、もしかしてリリーちゃんとミラちゃんを誤魔化す方で疲れちゃったのかも……。
お茶を入れて椅子に座ってから、私はリリーちゃんにもらった石をのんびりと眺めた。
『星の石』……と言うものらしいけど、やっぱりただの石に見える……。
何に使うかは分からないから、今度これについても調べてみようかな……?
さすがに薬の素材にはならないとは思うけど……。
……話によれば、リリーちゃんは『廃城の迷宮』とやらに行ってきたらしい。
この大陸よりも北にある、昔から人を寄せ付けないと言う大陸の奥地……。
でも北の大陸には、ちょっとした街くらいはあるらしくて……、今回はそこを経由して向かっていたそうだ。
でも、さすがにリリーちゃんとお母さんだけで行ったわけじゃないよね?
きっと他の人もたくさん連れていったんだろうなぁ……。
そもそも何をしに行ったんだろう?
そこまでは空気的に、聞くことは出来なかったけど……。
「それにしても、迷宮かぁ……」
私の人生、迷宮なんて恐らく接点なんて無い場所だろう。
冒険者や一攫千金を狙う人にとっては魅力的な場所なんだろうけどね。
でも私、そう言うのはあまり興味が無いし……。
むしろそう言う人を、裏でサポートする方が好きって言うか……。
「……ま、たくさんサポート出来るように、勉強でも頑張りますか」
私の目下の目標は、イーディスの病気を治すこと。
しかし治したあとだって、私は錬金術師の道を歩んでいくつもりだ。
だから、みんなをサポート出来るような力も付けていかなければいけない。
……やることは引き続きたくさんある。
でもまぁ、まずは目先のことだ。
着実にひとつずつをこなしながら、ゆっくりと成長していければ大丈夫だよね。
それはある意味、学生の特権なんだから。




