Ex27.休暇も終わり
月が替わって1週間ほどが経った。
長い長い休暇も、残念ながら今日でおしまい。
夏の暑さも控えめになってきて、街では収穫祭の準備が始まりつつあった。
私はプライベートでも学院生活でも、収穫祭で何か出し物をすると言うことは無い。
だから夏祭りのように、当日は気軽に参加して遊ぶ……くらいになるのかな。
「――ところで、フランは収穫祭はどうするの?」
今日は休暇の最終日と言うことで、工房にフランを招いて細やかなお茶会を楽しんでいた。
私もフランも休暇中はいろいろと頑張ったから、それを労い合っている……と言う感じだ。
「収穫祭の予定は無いよー。
ルーファスはそれどころじゃないしね」
「あ、そっか。アイナ様の試練と重なるんだっけ?」
「うん。収穫祭の前には始まるらしいんだけど……。
試練がどれくらい掛かるかは分からないんだってさ」
「やっぱり大変な試練なんだね……。
あとひと月後には終わっているのかな?」
「どうだろうねー……。
……でも、きっと時間はすぐに経っちゃうんだろうなぁ……」
今のところの予定では、ルーファスが試練を終わらせたあとに、フランが告白する流れになっている。
まぁ、ルーファスが無事に試練を通過したらの話なんだけど。
でも、そこを疑い始めても仕方が無いからね。
だから私たちは、ルーファスが無事に試練をクリアすることを信じているのだ。
「ところで、夏祭りのあとも何回か会ったんだよね?」
「うん♪ ……ルーファスもちょこちょこ照れたりしてたから、多分、好感触……。
具体的に何かを聞いたわけでも無いけど、多分……!」
「ルーファスも単純と言うか、純情なところがあるからね。
照れたりしているなら、上手くいってそうじゃん?」
「本当にそうだと良いんだけど……。
……っとまぁ、この話はそろそろおしまいにしよっか」
「そう? それじゃ別の――
……裁縫士の勉強は上手く進んだ?」
「んっと、課題は無事に全部終わったかな?
服を2着仕上げたんだけど、結構な自信作になったよ!」
「へー。それって、夏祭り用に作った服も入っているの?」
「ううん、あれは自分用だから別物。
だから合計、3着作ったことになるのかな」
「うわぁ、凄いね……。
それでさらに、ルーファスのことを追いまわしていたんでしょ?」
「追いまわすって、もっと言い方~っ!!
……まぁいいや。ミーシャの方は、どうだったの?」
「課題は1週間で終わらせたから、そのあとは有意義な時間を過ごせたかな。
倉庫整理のアルバイトをして、採集の依頼をこなして、あとは空き時間を使っていろいろと作って……みたいな!」
「あー、何だかずっと忙しそうにしてたもんね……。
ところで、彼氏とかは出来た?」
「そんな時間、あったと思う?」
「えぇー?
ほら、アルバイト先とか……どうだった?」
「一緒に作業をしたのは同級生の女の子だし、担当してもらった職員さんはおじさんだったよ?」
「うぅーん……。
折角の休暇なのに、枯れてるねぇ……」
「か、枯れてるなんて言わないでもらえるかな!?」
……男女のことに、興味が無いわけじゃないんだからね?
ただ今年は、特に縁が無かっただけで……!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
長時間のお喋りをしてから、フランは帰宅していった。
そのあと私は夕食をとって、身のまわりのことをして……全部が終わったのは20時頃。
明日からは授業が始まる。
だから今日くらいは、のんびり過ごすことにしよう。
そう思いつつ、銀行からもらった証書を何となく眺めてみる。
……想定よりも、ずいぶんお金が貯まってしまった。
これはもちろん、『レシピ・オブ・ルーシー』を見つけた報酬によるところが大きい。
それ以外でも、アルバイトと採集の依頼でしっかりと稼いではいたんだけど……。
やっぱり金貨20枚が破格だったかな……。
結果論で言えば、倉庫整理のアルバイトをやって良かったと思う。
しかしよくよく考えてみれば、研究室を構えた高ランクの錬金術師からの依頼……は無かったんだよね。
結構期待していたんだけど、今年はどうやらその依頼が0件の年だったようで……。
「……ま、経験はこれから積んでいくか……」
幸いなことに、素材を買うお金は当分困ることは無いはずだ。
むしろ背伸びをして、良い素材をたくさん買っていくのも良いかもしれない。
あるいは学院で習わないものをどんどん作っていくと言うのも良いだろう。
錬金術学院では、一年生の間は特に専門を作らず、幅広く学ぶ方針を取っている。
ファーマシー錬金を専攻するつもりでいても、マテリアル錬金やアーティファクト錬金にも時間を割かなくてはいけない。
私は元々、専攻はファーマシー錬金にすると決めている。
だから寄り道をするようにも見えてしまうんだけど……ただ、幅広い知識が必要になるのが錬金術。
専攻とは別のものでも、やはり基礎的なところは勉強しなくてはいけないのだ。
――……ま、それは良いとして。
休暇を振り返ってみて、他のことはどうだったかな……?
採集の依頼をこなしたのは、最終的には5回ほど。
レアなものとしては『黒妖精の宝石』が手に入っただけだけど、一般的な素材ならそれなりに集めることが出来た。
しっかり処置もしておいたから、しばらくは保存が効くことだろう。
イーディスの病気については――
……何回か図書館に行って調べてはみたものの、結局これと言った手掛かりは見つからなかった。
あわよくば今年のうちに何かの薬を作って、次の発病に備えようと思っていたんだけど……。
1か月以上の時間があっても何も出来なかったのだから、次回は多分間に合いそうにないかな……。
イーディスと約束をしている……と言うわけでも無いから、特に問題は無いんだけど……。
……でも、出来るだけ早く楽になってもらいたいわけで……。
本で調べるって言うのも限界があるし、やっぱり人に聞いていく方が良いのかな……。
そうすると、まずは人間関係を広げていかなくてはいけないか……。
私は錬金術学院と錬金術師ギルドしか活動の場が無いから、そこをどうしていくか……。
「……上手くいっているような、いっていないような」
何事もバランスではあるが、私の場合はどうだろう。
錬金術の学びとしては上手くいっている。しかし病気の調査と言う観点ではまるでダメ……。
……いやいや。調査の方は、進むときは一気に進むかもしれない。
しかし錬金術の勉強が一気に進むなんてことは無いのだから、今のうちはこのままでも良い……のかな。
勉強の礎は、この休暇中にある程度を築くことが出来た。
素材を買うお金も出来たし、休暇前に学んだところの復習はばっちりだ。
これからの予習だってそれなりにはやったし、気になるところは実際に工房で挑戦もしてみた。
以前感じた焦燥感は引き続きあるものの、それにしても私は上手くやっている。……やっているはずだ。
だからこのまま、私は脇道に寄らずに突き進めば良いのだ。
「……多分、ね」
自分の中で結論を出そうとしても、客観的になれないところがある。
つまり考えが延々と、堂々巡りになって収まりがつかなくなって――
「はぁ……。やめやめ……」
一呼吸ついて、気持ちを新たに考えを切り替える。
悩んでいても仕方が無い。楽しくなりそうなことをちょっと考えてみよう。
休暇中は結局、学院の友達はエリナちゃんとしか会えなかった。
明日は他の友達とも会えるわけで、それは結構楽しみにしちゃっているかな。
特にリリーちゃんとミラちゃんは、私の中で特別な子だから……早く会いたいな。
……折角だし、エリナちゃんも誘って4人で遊ぶ?
『カフェ・ルーシー』にも行きたいところだけど、あそこはまずはエリナちゃんと二人で行かなければいけないか。
「うーん、どうしようかな。
えへへ、楽しみだなぁ……」
やはり遊ぶことを考えると、自然と楽しくなってしまう。
お金は稼ぐことが出来たし、多少の出費なら大丈夫……。
……まぁ、お金を掛ければ良いってことでも無いんだけど……。
長い休暇を経て、私はそれなりに変わったと思う。
そしてこれからも、私はもっと変わっていくのだろう。
どんな風になるのかな?
私の理想には近付いていけるのかな?
……期待半分、不安半分。
そんな気持ちを胸に抱いていると、聖都にやって来たときの初心が蘇えるような気がした。
この思い、忘れるわけにはいかないよね。
「――よし!
明日からまた、頑張ろう!」
私は強く決意をしてから、そのままベッドに飛び込むことにした。
おやすみなさーい!!




