Ex25.世紀の大発見?
アルバイトの方は、かなり順調に進んでいった。
数週間を残した時点で、5つある倉庫のリストアップが何とか完了したのだ。
これも、エリナちゃんの書類作成能力のおかげかな?
私の倉庫整理能力……は、どうだろう。
エリナちゃん一人ではここまで捗らなかったはずだから、私の力もきっと大きかったに違いない。
「ミーシャさん、やっとここまで終わりました……!」
「うん、お疲れ様!
リストを提出したら、一旦は指示待ちになるんだよね?」
「はい、今日は提出したら終わりにしましょう。
……ところで何か、欲しいものは見つかりましたか?」
倉庫整理で見つけたもののうち、欲しいものがあれば、ある程度の値段で売ってくれる……と言う話があった。
錬金術師ギルドで『不要なもの』が対象だから、どれでも売ってくれるってわけでもないんだけど……。
それに加えて多少安くなったとしても、高いものは高いままだから、私の資金力では買えないものの方が多いのだ。
「うーん……、欲しいものはいろいろあるけど……。
『生命の実』ってやつが気になったかな」
具体的に何の素材になるのかは分からないけど、元気になれそうなアイテムだし……。
もしかしてイーディスの薬に使えるものかもしれないし……?
「あれは……、かなりの貴重品ですよ……?」
「え? そ、そうなの?
あんなタマネギみたいなやつが?」
「鑑定士さんとお話をしたんですけど、過去の取引では金貨150枚くらいが相場のようで……。
一番古い記録によれば、あのアイナ様が神器の素材として買い取っていたとか……」
「……じ、神器の素材だったんだ……。
どこに使うんだ、あんなタマネギ……」
私の中では、もはやタマネギ扱いだ。
それにしても、神器のどこに使うんだろう……? もしかして神器って、食べられるのかな……。
「錬金術学院で学ぶ中に、『生命の実』を使うものは無いって話でした……。
かなりの高額ですし、他のものを狙った方が良いのでは……?」
「う、そうだね……。
多少値引きをしてもらったところで、全然手持ちが足りないし……。
何に使うかも分からないものに、そんな大金を払うだなんて……」
「ですよね……」
「……ちなみにエリナちゃんは、何か買う予定なの?」
「いえ、私もお金がありませんので……。
今回はいろいろと見ることが出来ただけで、良しとしようかなって思ってます……」
「それが賢明かもね……。ほとんどが手の届かないものだし……」
錬金術の素材には高価なものが多い。
とりあえず金貨1枚以上のものを『高価』とするならば、その時点で今の私にはなかなか買えないものばかりなのだ。
金貨1枚もあれば、日々の生活が結構潤うし……。
まぁ最悪、先日拾った『黒妖精の宝石』を売り払うって言う手もあるけど……。
でもあれはあれで、私としては貴重なものだからなぁ……。
「……話をしていたら、何も買わないのはもったいない気がしてきました……」
「実は私も……。
はぁ、どこかにお金、落ちていないかなぁ……。
……そう言えば錬金術師ギルドって、隠し部屋があるって噂が無かったっけ?」
「あ、私も聞いたことがあります。
この建物を造るとき、秘密の抜け道がたくさん作られたとか……?」
「それって本当なのかなぁ。
もしかして秘密の宝物があるかもしれないし、倉庫の中を探してみない?」
「え? でももう、一通りは見てますよね……?」
「隠し部屋とか秘密の抜け道って言うくらいならさ、巧妙に隠されているんじゃないかな。
向こう側に何かがあるなら、壁を叩いたときの音が違うかもしれないし……」
「そんなに上手くいきますか……?」
「うーん……。
それじゃ、エリナちゃんの鑑定スキルでどうにかするとか?」
「私のスキルレベルではさすがに……。
……でも折角だし、叩きながらまわってみますか……?」
「うん、二人でやってみよう!
何か見つけたら山分けね!!」
「はい、分かりました……!!」
……そんな感じで、アルバイトの最中だと言うのに宝探しが始まってしまった。
でもやることはもう終わっているし、きっと少しくらいなら許してくれるよね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――コォン……
……錬金術師ギルドの、一番奥の倉庫。
その一番奥より少し手前の、石製の壁。
そこを棒で強く叩くと、反響を伴う音が返ってきた。
「……もしかして、もしかしちゃった……?」
「そ、そうかもしれません……!」
言われてみれば不自然な感じで、直線的な埃が四角い枠を描いている気がする。
これは本当に、隠し通路があったりして……?
「世紀の大発見……!?
わー、やったよエリナちゃん!!」
「は、はい……!
えっと、それでどうしましょう。職員さんに伝えますか……!?」
「勝手に壁を壊すわけにもいかないからね――
……って言うか、普通に開けられないかなぁ」
「え、どうやって……?」
「それは分からないけど、押したり……押したり……。
うーん、引いたり横にスライドさせたりは出来なさそうだよね……」
「それ以外であれば、あとは魔力を注いだり……とかでしょうか。
そもそも魔力で制御しているのであれば、他の条件もあり得ますけど……」
「むぅ……。
私は魔力とか詳しくないから、押すしか出来ない……!」
「だ、大丈夫です……!
休暇が終わったあと、授業では魔法の勉強が始まりますので……!」
「それは嬉しいけど、今の私には押すしか出来ないわけで……。
とりあえず、押してみて良い?」
「はい、大丈夫だとは思いますが……」
ひとまず私は、薄い埃で囲まれた四角の中心を押してみた。
……何も起こらなかった。
「ダメだった!」
「もしかして、押すにしても押し方があるとか……」
「えぇー? 例えば上を押してみるとか?」
……何も起こらなかった。
「それじゃ、下とか……?」
「よいしょっと」
……何も起こらなかった。
「……右?」
「おりゃっ!」
……何も起こらなかった。
「ここまで来たら、ついでに左も押しましょう」
「エリナちゃんは几帳面だね……。
よいしょ」
……ガコン
「「――……ふぇ?」」
何かが動く音がしたあと、埃で出来た四角い枠は、壁から外れてこちらに倒れてきてしまった。
そして空いた壁の向こうには、ちょっとした空間が広がっていた。
……1メートル四方の、石造りの道が続いている……。
奥行きはそこまでも無い、何のために作られたかは分からない空間……。
「まさか本当に開くなんて……。
……あれ、ミーシャさん。一番奥に、何かありませんか……?」
「あー、本当だ。……封筒……っぽい?」
分厚さは全然無い封筒。
でも、重要な秘密が入っていたり……?
ひとまずここは、肉体労働担当の私が拾うことになった。
封筒を拾って、すぐにその空間から退避する。
「特に古そうでは無い……のでしょうか?
……いえ、耐劣化の処理が施された、錬金術製の封筒のようですね……」
ひとまずエリナちゃんが、鑑定スキルでそこまで調べてくれた。
品質はともかく、大雑把な概要までは分かってしまうのだ。
「封はしてあるね……。開けちゃうのは、さすがに軽率だよね……。
……って、あれ? 何か書いてある……」
「本当ですね。えぇっと――」
――『レシピ・オブ・ルーシー#07』
「……ん? 何、これ……?
いや、どこかで聞いたことがあるような……」
「有名なものですか……?
連番が付いているみたいですし……」
……私たちが見つけたこの封筒。
これはこの後、一部の業界を大いに賑わすことになるのだった……。




