Ex23.自分の手で
アルバイトに精を出しつつ、錬金術師ギルドの依頼に精を出しつつ。
気が付けば時間はあっと言う間に過ぎて行き、早くも夏祭りの日になってしまった。
……ただ、そうは言っても私には特に約束は入っていない。
朝早くにフランのコーディネートのお手伝いはしたけど、今日の予定はそれっきり。
フランはルーファスを無事に誘えたらしく、二人っきりで夏祭りをまわるとのことだった。
私の知り合いは基本的に錬金術学院のクラスメートくらいだけど、特にそちらからのお誘いも無く……。
そもそも私、男の子とはあんまり交流していないんだよね。
そして夏祭りは男女のペアでまわるのが普通らしく、つまり女の子から私に声が掛かると言うこともなく……。
私もお年頃の女の子なわけだから、興味が無いわけでも無いけど……。
ただ、今は恋愛事に積極的になるつもりもないし、今年は普通に諦めることにしよう……。
来年になったら、私にもそう言う相手が出来ているかもしれないし?
……いや、出来ているかなぁ……?
きっと私のことだから、錬金術を優先して、色恋沙汰にはいかなさそう……。
「でも、少しくらいは様子を見に行こうかな……」
聖都に引っ越してきて間も無いし、出来るだけこう言うイベントも見ておかないとね。
もしかしたら、偶然に起こる新しい出会いが待っているかもしれないし……!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――そこの君!
今日は一人かい?」
「あ、結構です」
「そっ、そんなつれないこと言わないでさ!?」
広場に出ると、早々に軽そうなお兄さんに声を掛けられてしまった。
なるほど。相手がいない男性が、同じく相手のいない女性を探していると言うことか。
ひとまず私は、何も考えずに走って逃げることにした。
さすがにそれを追い掛けてくるほど、お兄さんは私に対してやる気は無いようだった。
……さて。
改めて辺りを眺めて見ると、広場には露店がたくさん出ていて、美味しそうな匂いがそこかしこから漂ってきていた。
露店の軒先には巨大な肉の塊がぶら下がっていたり、色とりどりのお菓子が並べられていたり……。
歩いていて目を引いたのは、聖都名物の『ガチャ』……かな。
私はまだやったことが無いんだけど、『ガチャ』と言うのはランダムで何かが手に入る販売方法のようだ。
何が出るかも分からないのに、それに対してお金を払うだなんて――
……そうは思うものの、やはりそこには何かしらの魅力があるのだろう。
「雑貨に武器に、消耗品に……。
え……? アクセサリまであるんだ?」
人混みの合間から様子を見ていると、色々な人たちの色々な表情が目に飛び込んできた。
大半は微妙なものが当たって微妙な表情をしていたけど、大当たりが出て凄く舞い上がっている人も……。
「……遠目だけど、あのアクセサリ可愛いなぁ……」
空気に呑まれたのか、私もついついそんな感想を抱いてしまう。
ガチャの金額を見てみると、1回あたり銀貨5枚……。
出来なくはない金額。
でも微妙なものが出たら、きっと後悔するんだろうなぁ……。
こう言うところで、私はあまり夢を見られない性格だったりする。
確率が明確に出ていると、どうしても確率が高い方が当たると決めつけてしまうのだ。
だから私がガチャをしたところで、微妙な未来しか想像することが出来ず……。
……それならやっぱり止めておこう。
うん、銀貨5枚もあるなら、美味しいものを食べたり、ちょっとしたアクセサリなら買えてしまうからね。
それが賢明。
誰でも分かる、簡単なロジックだ。
――ガチャッ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……やってしまった」
私の思いとは裏腹に、ついついガチャと言うものを初体験してしまった……。
最初に思っていた通り、私の手の中には微妙なアクセサリが獲得されている。
それを眺めながら、私は広場のベンチに座って静かに項垂れていた。
……やはり確率が高い方が当たってしまった。
しかし微妙とは言え、普段使いは出来そうな指輪……ではある。
値段相応……。
いや、ダサいとかの明確なハズレ要素が無い分、これはこれでマシな方なのかもしれない。
それなりの値段がすると言われれば、そう見えなくも無い……的な。
「……ま、銀貨5枚分くらいは使うことにしよう……」
1回の使用料が銅貨1枚だとすれば、50回も使えば元が採れる計算になる。
いまいち謎なロジックではあるが、ひとまず50回くらいは使うことを目指すことにしよう。
ひとまずそんな感じで吹っ切ることにして、私は引き続き、のんびりと露店をめぐることにした。
誰か知り合いでもいれば楽しそうなんだけど、特にはいなさそうかな……。
リリーちゃんとかミラちゃんに会えたら楽しそうだけど……。
……ま、そんな上手いことはいかないか。
エリナちゃんはこう言うイベントが苦手だそうだから、今日は参加をしないらしい。
ローナは好きそうだけど、長期休暇の間は実家に戻るって聞いているし……。
「うーん、やっぱり誰かと約束すれば良かったかなぁ……」
……後悔しても、もう遅い。
後の祭りだね。お祭りの最中だけど。
……ダメだ。くだらなさ過ぎる……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後は開き直って、とりあえず思いっ切り食べ歩きをすることにした。
フランとルーファスのデートの光景を思い浮かべながら、私はおひとりさまを満喫だ。
何度かナンパに遭いながら、その度に走って逃げている。
しかしそう言った人たちも、騎士団の人に取り締りを受けているようだった。
本当に困ったら、大声を出せばいつでも助けてもらえる雰囲気はあるし……。
……うん、やっぱり治安が良い街だなぁ。
港の側を歩いていると、何となく気になるお店を発見した。
店構えを見るに、魔法関係の道具が取り揃えられているお店のようだ。
こう言うお店って、錬金術で使うようなものも置いているんだよね。
ちょっとだけ覘いてみることにしようかな。
「ひょっひょっひょっ。いらっしゃいませ~」
「ひょっ!?」
お店に入るや、おかしな笑い声を放つお婆さんが声を掛けてきた。
「おやおや、あんたは錬金術師かい?」
「あ、はい。錬金術学院の一年生ですけど……。
何で分かったんですか?」
「なぁに。あんたのまわりに、素材になった植物たちの怨念が渦巻いているからね~」
「いやいや、そう言うのは信じませんから」
「何とまぁ、からかい甲斐の無い子だね~。
それで、今日はどんな用かい?」
「お店の雰囲気が気になって寄らせて頂きました。
いろいろと見せてもらっても良いですか?」
「はいはい、どうぞどうぞ~。
棚ごと買ってくれても構わないからね~」
「いやいや……。
そんな豪快な買い方をする人なんて、いませんよね……?」
「いやいや~? この店も古いんだけどね~。
昔はあんたくらいの年齢で、棚こと買いまくっていた錬金術師の子がいたみたいなんだよね~」
「えぇ、それは凄い……。
きっと大金持ちの子……なんですね」
「錬金術は可能性に満ちているからね~。
つまり収入も無限大ってことさ~。
あんたももしかすると、そうなる可能性があるかもね~」
「あはは……。
そうだと嬉しいんですけど……」
それにしても、棚ごと買うのか……。
……凄い子がいたものだなぁ……。
「今日は夏祭りだし、うちのお店は閑古鳥が鳴いているよ~。
どうにも暇だし、ちっとくらい占ってやろうかね~?」
「え、占いですか?
……無料です?」
「……ずいぶんしっかりとした子だね~……。
まぁ良いさ、私も気分屋だからね~。
はい、この中からカードを3枚選んでね~」
そう言うと、お婆さんはカードを素早くシャッフルしてから、テーブルの上に丁寧に並べていった。
「えっと、それじゃこれと……これ。あと、これ」
「ど真ん中と、左右の端ずつかい……。
随分と迷いが無い選び方だね~」
「そ、そうですか?
左右対称で気持ち良いかなって……」
「なるほどね~。
それじゃカードをめくって……ふむ、ふむ。
……むむ!?」
「え? どうかしましたか?」
「あと3枚、この中から選んでおくれね~」
「あ、はい。
……それじゃ、こっちから3枚……」
「今度は左端から3枚かい……。
どれどれ……、ふむむ……むむぅ!」
「ど、どうですか……?」
お婆さんの言葉に、私も何だか不安になってしまう。
しかしお婆さんが伝えてきた結果は――
「……並。
取り立てて良いことも無し」
「えっ!?
……えぇっ!?」
可もなく、不可もなく?
これ以上に面白くない結果があるだろうか。いや、無い。
「どうやら少し前に、ちょいと運を使ってしまったようだね~。
何か心当たりはないかね~?」
「……運、ですか。
採集に行ったときに、ちょっとお高めの素材を偶然拾った……くらい?」
「ふむふむ、なるほどね~。
その素材、もしかすると災いの種になるかも……」
「えっ!?」
「……しれないし、ならないかもしれないし……」
「えぇ……」
「微妙な運勢のその素材……。
銀貨10枚で買い取ればぼろ儲けって出ているね~」
「……それ、お婆さんが儲かるって話ですよね……。
銀貨10枚なら、錬金術師ギルドに売りますよ……」
「おやおや、本当に良いものを拾ったんだね~。
でもそう言う素材こそ、大切にすると良いかもしれないね~。
彼の神器の錬金術師様だって、自分の神器は自分が集めた宝石で作ったって話だしね~」
「あ、神煌クリスティア……ですよね。
……話にしか聞いたことが無いけど、そうなんですか……」
自分で集めた素材で、自分用の装備を作る。
私が神器を作るだなんて無理に決まっているけど、些細なものでも……作ってみるのは面白いかもしれない。
イーディスの薬を最優先にしつつ、少しくらいなら、そう言うところに意識を向けるのも良いかもしれない……?
……そう言う寄り道こそが、本筋に繋がっていることだって、往々にしてあり得るからね。




