Ex22.採集
本日は晴天なり。本日は晴天なり。
やはり天気が良い日は外に出るのに限る。
最近はずっと倉庫で作業をしていたから、街の外に行くだけでもとても刺激的だ。
さて、何で街の外に出ているかと言えば、錬金術師ギルドで受けた依頼のためだ。
今日は街から少し離れた森で、指定されたものを採集することになっている。
ちなみに今回は、一人での作業。
大きな籠を背負って、早朝からのんびりと森まで歩いて来たところだ。
「……遠いけど、治安は良かったかな」
途中の道はしっかりと整備されており、時間の割に人通りもそれなりに多かった。
そもそも聖都の周辺は警備がしっかりしているから、野盗なんかはなかなか出て来ないんだけど……。
それでもやっぱり、一人で街を出るのは心配なんだよね。
辺りをぐるっと見てみれば、誰かが地面にしゃがんでいるのがちょこちょこ目に入る。
きっと私と同じように、採集をしているのだろう。
一応、森での採集は私も経験があるけど……。
……村でやっていたのと、大体は同じかな?
依頼で集めるものにはあまり知らない素材も含まれているけど、詳しいメモ書きももらったし……。
こう言うとき、高レベルの鑑定スキルを持っていれば、凄く楽が出来るんだろうね。
「ま、無いものねだりをしても仕方が無いか。
……それじゃ、分かり易い『癒し草』から採って行こうかな」
今回の依頼は、とある工房の錬金術師が依頼主になっている。
自分の工房がある程度軌道に乗っていくと、採集作業を外注する人が増えてくるのだ。
そもそも工房を空けたくない……という理由もあるし、採集が面倒だ……と言う理由もある。
あとは私みたいな学生や駆け出しに、仕事をわざわざ出してくれると言う心優しい人もいるのだ。
今回はどうやら後者のようで、初歩的な素材から少しレアな素材までが散りばめられている。
私としては、今までの復習と、少し先の予習をするような感じになるから――
……これは多分、錬金術学院を卒業した先輩からの依頼なんじゃないかな?
どちらにしろきっちり仕事はこなすつもりではあったけど、ここはさらにびしっと、完璧にこなすことにしよう。
それとあとは、自分用の素材も採っていこう。
基本的には依頼のあったものと同じやつ……で、今日のところは大丈夫そうかな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――気が付けはもう夕方。
昼の暑さも徐々に消え失せ、ようやく過ごし易くなってきたところだ。
「……ふぅ。
これで完璧……!」
籠の中には依頼のあった素材が盛りだくさん。
本当はもっと少ない量で良いんだけど、自分用のために張り切り過ぎてしまった。
これから聖都に戻れば、きっと時間は夜になっているだろう。
でも納品は明日中であれば問題ないし、それに明日はアルバイトも入れていない。
時間はあると言えばあるから、素材の整理をして、何かアイテムでも作ってみようかな。
……でも、まずはしっかり帰らないとね。
しっかり帰るまでが冒険。
しっかり納めるまでが依頼、なのだから。
「――ん?」
さて森を出よう……と言ったところで、足元にキラリと光るものを見つけた。
何だか黒っぽい、ガラスみたいな欠片。
……宝石では無いみたいだけど。
黒色……って言うのが、何だか嫌なイメージかも?
綺麗は綺麗。でも、不吉って言うか……。
何かを感じるってわけじゃ無くて、ただ単純に、一般的な色の印象なんだけど……。
一応まわりを見てみるも、同じようなものはその1つだけしかなかった。
そもそも一日中をこの森で過ごしていたのに、見つけたのはこれが初めてなのだ。
つまりそれだけ、量は少ないと言うことになる。
「うーん、悩ましい……。
でもまぁ、ゴミならゴミで良いか。重さなんてほとんど無いし……」
ひとまず私はその欠片を拾って、念のためハンカチに包んでから、籠……では無く、小さな鞄の方にしまっておいた。
もしもこれが悪さをして、今日集めた素材が台無しになったら冗談じゃ済まないからね。
まさかそんなことは無いとは思うけど、一応念のため……と言うところなのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日、私は錬金術師ギルドに納品へ向かった。
昨晩のうちに仕分けを済ませて、今回持ってきたものはすべて納品する素材だけ。
納品の際、常駐している鑑定士さんに『黒い欠片』の鑑定をお願いするが出来た。
ついでとは言え、銀貨1枚……有料なり。
「――……む? これは……?」
「お?」
鑑定士さんの思わぬ反応に、私の声も釣られてしまう。
銀貨1枚……は個人的には痛い出費だから、せめて良い結果であって欲しい。
これで『ただのガラスの欠片でしたー!』とか言われても悲しいからね。
「いや、珍しいですね。
これは『黒妖精の宝石』と言う宝石です。
純度もそれなりですし、売れば良い金額になりますよ」
「おお! ちなみにおいくらくらいで?」
「そうですね、こちらで買い取る場合は金貨1枚になります。
自分で上手く売れば、金貨2枚くらいになるかもしれません」
「えっ!? そ、そんなに高いものなんですか!?」
「使いどころは限られますが、量が出て来ないものなので……。
昨日、こちらの素材と一緒に採ってきたんですよね?
あの森でこの宝石が採れるなんて、私は聞いたことがありませんし……」
「運が良かったんですね……!
やった、臨時収入♪」
「ははは、おめでとうございます。
それで、買取はどうしますか?」
「金貨1枚が即金とは魅力的……。
……ちなみにこれ、いつでも買い取ってもらえるんですか?」
「そうですね。
ただ、急に大量に出回り始めたら分かりませんが……」
「あ、使いどころが限られるんですもんね……。
供給過多になれば、買い取っている場合じゃ無いか」
「今までこの宝石がそうなったことはありませんし……。
多分、大丈夫だとは思いますよ」
「うーん、それじゃ今回は持って帰ります。
どうしてもお金が必要になったときに、また持ってきますね」
「承知しました。
余裕があれば、ご自身で使っても良いかもしれませんね。
錬金術ではお守りや護符のようなものに使用するものなので」
「ああ、そっち系ですか……」
……占い系って言うのかな?
さすがに素材だけで金貨1枚以上もするのだから、効果はそれなりにあるのだろう。
「錬金術師ギルドの図書館なら、何か参考になりそうな本があると思いますよ。
興味があれば、探してみてはいかがですか?」
「そうですね、他に調べ物もありますし……。
時間を見て、調べたいと思います!」
「はい、頑張ってください。
……さて、今回持ってきて頂いたものは問題ありませんでした。
報酬はあちらのカウンターでお渡ししますので、しばらくお待ちください」
「分かりました、ありがとうございます!」
……ほっ。
採集を仕事として受けるのは初めてだから、やっぱり緊張をしてしまった。
しかし採集なんて仕事は、真面目に誠実にやっていけば大抵は問題無く終わるものなのだ。
難易度の高い素材とか、魔物を倒しての入手とかは別だけど……。
……だから今日くらいの採集であれば、今後は特に問題は無いだろう。
やっぱり実地で何かをやるのは勉強になるから、これからも積極的にこなしていきたいところかな。
二年生、三年生になったらまた別だろうけど……。
とりあえず今はまだ、基礎の力を磨く時期。
急ぐところは急ぎながら、確実にいくところは確実に。
錬金術師としては、私はまだまだだけど――
……今日みたいな日を繰り返していけば、いつかきっと、一人前になれるはずだよね。




