Ex21.初々しい
「――それで、アルバイトは順調なの?」
数日後、私の工房にフランが遊びにやって来た。
本題はルーファスとの話だけど、それ以外の話題も当然のように出るわけで。
「うん、学院のお友達と一緒に頑張ってるよ。
エリナちゃんって言う子なんだけど、とっても几帳面でさ――」
……私は主に肉体労働。エリナちゃんは書類仕事。
最初から最近まで、そんな役割分担で落ち着いてしまっている。
「ミーシャは昔から、身体を動かす方が好きだもんね。
それなのにまさか……イーディスのためとは言え、錬金術師を目指すなんて思わなかったよ」
「そうかな?
個人的には天職だと思っているんだけど……」
……まだ、勉強中の身だけどね。
それでもいつか、イーディスの病気を治してあげるのが目標なのだ。
「――ところでミーシャってさ、そのうちお店を開くの?」
「え? 何で急に?」
「ほら、私も裁縫士を目指しているでしょ?
将来どうやって仕事をしていくかの選択肢が結構あってさ……。
それで、割と錬金術師と同じところもあるんじゃないかなぁ……って思ったの」
「選択肢、かぁ……。
そう言えば錬金術師ギルドに、学院を卒業した先輩がいたなぁ……。
あとは他の工房に所属するって言う手もあるよね……」
「そうそう、そんな感じ。
先生から、少しずつ将来のイメージを固めておくように言われてさ。
それで、ミーシャはどうかなーって思ったわけ」
「うーん……。
個人的には、自分のお店を出すのが面白そうかな?」
「やっぱりそうだよね!
ところでミーシャが借りてるこの建物さ、お店もくっついているよね?
折角だし、お店を開いてみたりはしないの?」
「えぇー!?
私が売り物に出来るのなんて、初級ポーションがせいぜいのところだよ?
あとは基本的な素材も作れるけど、そう言うのは自分で使いたいし……」
「今は仕方が無いけどさ。
そのうち、いろいろと作れるようになるんでしょ?」
「まぁ、その予定だけど……。
でも学院を卒業したら、どうするのかはまだ分からないなぁ……」
この建物を借りていられるのは、きっと学院に在籍している間だけだよね?
そう言えば、その辺りの話を全然していなかったなぁ……。
……あれ? そもそも賃貸契約すらしていないぞ……?
「ん? どうしたの?」
「ああ、いや……。
こっちの話だけど、ちょっと気になることに気付いて……。
えっと、話を戻すと……、将来のことは具体的には決めていないかな」
「そっかー。
ミーシャにはイーディスの薬を作るって目標があるもんね……。
……そっちは調べてる? 私は全然、見当が付いていないんだけど」
――イーディスと同じような病気は知らないか。
それは彼女の関係者であれば、常日頃、誰かに聞きまわっている内容だ。
私の村はそんなに大きな場所でも無いから、みんながイーディスの病気を治そうと頑張ってくれている。
ただ、村にはお金持ちもいないし、人望が凄い人もいない。
だから調査の輪は、そこまで広げられていないのが正直なところだった。
「ん、私の方も全然……。
でもアルバイトが軌道に乗ったら、図書館でも調べてみるつもり。
錬金術師ギルドの依頼も受けなきゃいけないから、そこまで時間は取れなさそうなんだけど……」
「なるほど、図書館かぁ……。
錬金術学院の生徒なら、入れる場所が多いって言う話だもんね。
薬を作るには、病気の知識も必要になるし……」
「『エリクサー』って言う薬なら、何でも病気が治るらしいんだけど……。
でも、お屋敷1つくらいの値段がするんだって……」
「うわぁ。うちの村のお金を全部集めても、到底足りなさそうだよね。
……でも、ミーシャが作れば安くなるの?」
「多分、素材自体が高いと思うよ。
技術力が仮にあったとしても、金銭的な問題も乗り越えないといけないわけで……」
「はぁ~、確かに。
それなら誰か、支援者を見つけないとね」
「ただの学生を支援してくれるなんて、そんな奇特な人はいないんじゃないかな……」
「結婚する代わりに出してくれる人はいるかもよ?
ほら、ミーシャも結構可愛いし」
「残念ながら、そんな御縁は全然ありませーん!
……って、そうだ。今日はルーファスの話をするんじゃなかったっけ?」
「えっ!?
と、特にそう言うわけでも……?」
「そう言いながら、顔が赤くなるフランであった」
「ちょ、ちょっと!? からかわないでよっ!?」
「まぁまぁ、気持ちはもう知っているからさ。
時間はあまり無いし、空回りしていても仕方が無いでしょ?」
「うぅ、確かに……。
……えっとね、来週の週末に夏祭りがあるの。
それで、そこに誘おうかなーと思って……」
「あ、そうなんだ?
いいじゃん! それでそれで?」
「もし良ければ、ミーシャも一緒に……」
「いやいや、何でそこで腑抜けるの!!」
「ふ、腑抜けって……」
「いやもう、そこまで決まっているなら二人でがつんとデートしてきちゃいなよ!
その準備はもちろん手伝うからさ!!」
「準備って、あのねぇ……」
「出来ることなら、何でも手伝うから!」
「そ、そう?
実はね、夏祭り用に新しい服を作っているんだけど……」
「……準備してるじゃん」
「うえぇん……」
私のツッコミに、フランは照れて泣きそうになってしまった。
……初々しい。絶対に叶えてあげたい、この恋心。
「ごめんごめん。それで?」
「一人で作ってたからさ、ミーシャにも見て欲しいかなぁ……って」
……私が見たところで、特に何も変わらないだろう。
ただ、不安なんだろうね。
だから誰かの肯定的な意見を聞いておきたい、って言うことかな。
「うん、それくらいなら大丈夫だよ!
装飾品は考えてる? 服を新しくするなら、そっちも揃えた方が良いかもね」
「一応、あるはあるんだけど……。
それじゃ、買い物に付き合ってくれる?」
「おっけー、おっけー。
お安い御用だよ!」
「あと、夏祭りでのスケジュールも決めておきたいかも……」
「うん! 決めよう決めよう!」
「それと、出店するお店の情報が知りたいかな……。
ほら、やっぱり美味しいもので話を盛り上げたいし……」
「そうだね、分かる分かる!」
「人気 の無い場所も知りたいかも……。
あ、いや! 別におかしなことをするわけじゃなくて……!!」
「聖都の地理は詳しくないけど、少し探してみよっか!」
「お、お土産とかも考えた方が良いのかな……?」
「さすがに、デートでお土産までは要らないんじゃない?」
「そ、そう……?
ほら、ご家族の方に何か……」
「いやいや、要らないと思うよ?」
「う、うーん……。
あああ、そうだ! ルーファスの家に食事に招かれたらどうしよう!?」
「無い無い。それは無いから!
フラン、一旦落ち着こうか?」
「お、落ち着いてるよ!?」
「……どこが?」
――改めて、初々しい。
結局翌日も、朝から晩までフランに付き合うことになった。
一応2日は空けておいたけど、まさか丸々使ってしまうことになるとは……。
でも出来るだけのところは手伝ったし、来週の夏祭りは、上手くいくことを祈っていよう。
夏祭りで親密度を上げておいて……。
でも秋の収穫祭は、ルーファスが試練の前で忙しい時期だから……。
……だから告白があるとすれば、収穫祭のあとの、静かな時期になるのかな。
ああ。具体的に決まってくると、何だか私まで緊張してきてしまうなぁ……。




