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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
外伝 ミーシャのアトリエ ~ラミリエスの錬金術師~
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Ex18.深夜の出会い

 週も明けて、今日の授業も全部終わり。


 帰り際、錬金術学院の依頼掲示板を見てみると、長期休暇に備えた依頼がかなり出ていた。

 依頼自体も学年別に振り分けられていて、きっとこれまでの復習を兼ねたような内容になっているのだろう。


 二年生、三年生の依頼には良く分からないアイテムが混ざっているけど、一年生のものは全部知っているものだし……。

 ……ただ、全体的に単価は安いようだ。

 勉強中の生徒が作るものだから、それは仕方が無いのかな……。



「ミーシャさん、こんにちは……!」


「あ、エリナちゃん! こんにちはー」


 突然、同じく掲示板を見に来ていたエリナちゃんに声を掛けられた。

 確か前回出くわしたときも、掲示板のところでだったよね。


「今日は、依頼を見に来たんですか?」


「うん、休みの間に何か出来ないかなーって。

 そう言えばエリナちゃん、錬金術師ギルドのアルバイトをやるんだよね?」


「え……、はい。

 何でご存知なのでしょう……?」


「引っ越しの手続きで錬金術師ギルドに行ったら、アルバイトを紹介されてさ。

 その流れで、倉庫整理で1人だけ応募があった……って聞いていたの」


「そうでしたか……。

 そう言うミーシャさんは、どこかの工房のお手伝いですか?」


「ううん?

 今のところは……やるなら、倉庫整理かなーって」


「え? 倉庫整理って、人気……無いですよ?」


「あはは、受付のシンディさんにもそう言われちゃったよ。

 でも、いろいろなものを見ることが出来るんでしょう?

 それはそれで、良いかなぁって思ってさ」


「私と同じですね……。

 それでは是非、一緒にお勉強しましょう……!」


 弱々しくはあるが、どこか熱の入った言葉。

 まだやるって決めていたわけじゃないけど、やっぱりやっておきたいところかなぁ……。


「うーん、それじゃやることにしようかな!

 ただお金も稼がないといけないから……、そこまでたくさんは出来なさそうかも」


「そこも私と同じですね……。

 私も出来るだけ稼いでおきたいなぁって思っているんです」


「うわぁ、同じ境遇だぁ……。

 でもここの依頼、あんまり単価が高くないんだよね。だからどうしようかなぁって……」


「確かに……。

 それなら、錬金術師ギルドの依頼はどうですか?

 採集の依頼もありますし、それも立派な勉強になると思いますよ」


「うーん。私も村にいたときは結構頑張ったけど、聖都でもやってみようかなぁ……」


「ただ、この辺りは結構開発されてしまっているので……。

 採集の場所は、基本的に少し遠くになってしまいますね。近くで良い場所と言えば――」


「ふむ?」


 私の相槌に、エリナちゃんは何かを思い出したように止めてしまった。


「――あ、いえ。そこはダメでした。

 貴重な素材がたくさん採れるそうなんですが、あまり推奨されていなくて」


「へぇ、そんなところもあるんだ?

 でも危ないところなら、護衛の人を雇って行くって言うのもありだよね」


「そこは残念ながら、それが出来ないんです。

 噂によれば、錬金術師以外は入れないとか……」


「え、そんなことがあり得るの?

 ……どこかが管理している、ってことかな」


「はう……、すいません。

 錬金術学院の生徒は、そこでの採集は禁止されてるんでした……。

 すいません、忘れてください……」


 エリナちゃんは自身の失言に、しゅんとしてしまった。

 そもそも行けないのであれば、今ここで出す話題でもないのだ。


 それにしても、学院で禁止されている……ってことは、卒業してからなら行っても良いのかな?


 ……でもまぁ、今はひとまず忘れておこう。

 そんな場所に行ったことがバレて、退学にでもなったら冗談じゃないからね。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 帰宅後、私はまずアルバイトの契約書にサインをすることにした。


 ぐだぐだ考えていても気持ちが悪いし、決めるべきことはたくさんある。

 それならまずは、ほぼ受けることが決まっているアルバイトの件を確定事項にしてしまおう。


 実際に働く時間はあとで調整が効くとして――

 ……1日あたりは4、5時間くらいが丁度良いかな?


 倉庫整理って言うくらいだから、きっと肉体労働だろうし……。

 それが終わったら、錬金術師ギルドの依頼――例えば採集の依頼をこなしてみたり?

 ……あれ、どっちも肉体労働だな……。


 そもそも聖都から少し離れているって話だから、アルバイト帰りになんて言うのは無理か……。

 それならアルバイトの日は早く寝て、次の日に早くから出掛けて……。


 ……その間に錬金術学院で受けた依頼をこなしていけば、時間なんてすぐに埋まってしまいそうだ。

 これでちゃんと、お金は稼げるのかなぁ……。


 錬金術学院と錬金術師ギルドの依頼を思い出しながら、掛かる時間と手に入るお金を計算してみる。


「これは……、ぎりぎり?」


 生活費は最初に確保しているものの、勉強用の素材のお金は全然足りていない。

 節約しても、さすがに限界はあるからね……。


 それならもう少し、採集の時間を増やして……。

 依頼された素材を採ってくるついでに、自分が使う分の素材も採ってくれば……?

 収入にはならないけど、その分それを使って勉強することが出来るわけだし……。


 ……いろいろと考えていくと、貧乏なりにそれなりのことは出来そうだった。

 二年生の依頼を受けられれば、もっと楽にはなりそうなんだけど……でも、失敗するのは目に見えているし。


 うぅーん、今年は貧乏学生を頑張ることにするかなぁ……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――……むにゃ?」


 ふと気が付くと、いつの間にかテーブルに突っ伏して眠ってしまっていた。

 灯りもいつの間にか消えていて、部屋の中は真っ暗になっている。


 幸いなことに、風邪は引いていないようだった。

 それっぽい薬は自分でも作ることが出来るけど、効果はそこまで無いからね。

 臨時出費にならなくて、本当に助かったかな。



「……さて。

 明日も授業があるし、そろそろ――」



 ガタッ



 不意に、工房の奥から物音が聞こえてきた。

 耳を澄ましてみると、何となく気配を感じることが出来る。


 動物……、では無さそうだ。

 もしかして、泥棒……?


 ひとまず手元のポーション瓶を手に取ってみる。

 これで頭を殴ろうものなら、それなりには痛いはずだ。

 さすがに瓶は割れてしまうだろうけど、それくらいの出費なら、まぁ……。


 ……いやいや。ここは出費よりも安全を取るべきだ。

 優先順位を間違えてはいけないぞ、ミーシャ。


 よし。先手を打って、早々に声を掛けてしまえ。



「――泥棒っ!!!!」


「きゃぁっ!?」


 私の言葉に、聞こえてきたのは慌てた感じの女の子の声。

 ……女の子? ……あれ、どこに?



 工房を見まわしてみるも、特に何の姿も見えてこない。

 いや、テーブルの上に何か見えるな……。


 一見小さな人形のようには見えるけど、しっかりと動いている――


「……よ、妖精!?」


 それは初めて見る姿。

 経験豊富な職人のもとに、妖精が姿を現すとは聞いたことがあるけど――


「こ、こんばんわ……。

 まさかこの工房に、人がいるだなんて思いませんでした……」


「う、うん。数週間前からここを借りているの……。

 そう言うあなたは?」


 私の言葉に、その妖精はこちらをまじまじと見つめてきた。


「……錬金術師としては、下の下……のようですね。

 失礼、お邪魔しました……」


 そう言うと、その妖精は工房の煙突から外に出て行ってしまった。


「……え? あれ?」



 ――例えば300年前の錬金術師、レティシアは7人の妖精を使いこなしたと言う。

 そんな逸話を知っていれば、いざ目の前に妖精が現れたとき、やはり何かを期待してしまうだろう。


 しかし今回、ドラマチックなイベントは何も起こらなかった。

 むしろ自分の実力を、ただ単に痛感させられただけと言うか……。



「……寝よ」


 今日は良い夢なんて、見られそうにない。


 しかしそうは言っても、明日は授業なのだ。

 せめて出来るだけ、しっかり眠っておくことにしよう……。

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[一言] 妖精ちゃん、何しに来てたんだろ?
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