Ex16.恋愛トーク
3時間ほど話をしたあと、ルーファスは用事があると言うことで帰っていった。
フランはもう少し話をするため、もうしばらく残ることに。
「――……それで?
最近どうなの?」
「え? どう……って?」
私の言葉に、フランは戸惑うように返事をした。
「いやいや……。
状況的に考えて、フランってルーファスをデートに誘おうとしているよね?」
「でっ!?」
「ルーファスの話から察するに、結構声を掛けてるみたいだし……。
……当の本人は、単純に遊びの誘いだと捉えているみたいだけど」
この辺り、男性と女性では温度感が違うと言うか……。
いや、ルーファスが鈍いだけなのかもしれないけど……。
「そんなんじゃ――
……うぅん、そんなん……なのかなぁ……」
「そうだよー。でも身分を除けばお似合いだと思うよ?
間の抜けたルーファスと、しっかり者のフラン。
うん、ぴったりじゃない?」
「それ、褒めてるの……?
そう言うミーシャこそ、どうなのよ。ルーファスとは仲良さそうに喋っているけど……」
「えー、それを聞いてくる?
私はルーファスのこと、そんな目で見たことは無いよ?」
「……やっぱり、名門の家柄だから……?」
「いや、単純に趣味じゃないだけ」
「えぇーっ!?」
私の言葉に、フランは不満そうに口を突き出した。
確かにルーファスはそれなりにモテているようだけど、それでも全員の心を射止めるほどでは無い。
つまり単純に、私は心を射止められない側に立っているだけなのだ。
「でも身分って言ってもさ、ルーファスのお父さんもお爺さんも、恋愛結婚なんでしょ?
それなら身分の違いなんて、どうにかなるんじゃないかなぁ……」
「ちょちょちょ、ちょっと待って!?
な、何で結婚の話まで進んでるのっ!?」
「いやぁ、そこはだって……名門の長男だから……」
名門の跡取りは、傷物になってもらっては困る。
だからこそ、気軽に交際をすると言うのは好ましくないだろう。
……となれば、最初から結婚を目指しちゃえば良いんじゃないかな? ……的な。
「む、むぅ……。
……でもさぁ、ルーファスも大変な時期みたいだし……」
「そうなんだけどね……。
でも試練をクリア出来たら、来年からはアイナ様の警護をするんでしょ?
次に引き継ぐのはルーファスの子供だろうから、かなり長い期間になるよね」
「……ってことは、警護をしながら結婚をして、子供も育てるわけ……?」
フランの言葉に、私はこくりと頷いた。
そうとなれば、その前――
……アイナ様の試練が終わってから、警護の仕事に就くまでの間が勝負……!?
来年になれば、ルーファスと会える機会はどうしても減ってしまいそうだし……。
狙うなら、やっぱり今年中が良いんじゃないかな……?
「私も応援するからさ!
本気なら、告白しちゃおうよ!」
「うえぇ……。
何だか話が進んじゃってるよぉ……」
「でも、ずっと好きだったんでしょ?
ずっと積極的にいってるみたいなのに、進展が全然無いわけだし……」
「だ、だってアイツ……。鈍いんだもん……」
「まぁ、昔からそうだったけどさ……」
基本的には勘が鋭いのに、こと恋愛についてはボケボケのルーファス。
フランが独自のルートで調べたところ、たくさんの貴族令嬢から声を掛けられているらしい。
でも、恋愛や結婚に繋がりそうな話はまだ無いんだって。
それならまだまだ、フランにもチャンスがあるはずだよね。
……って言うか、そこまでのことを調べている時点で……。
フランもなかなか、やり手なんじゃないかな……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――その日の夜中。
結局今日は、お喋りをして終わってしまったなぁ……と、そんな後悔を若干しつつ。
でも生活にメリハリを付けるのも大切だから、たまにはこんな日があっても良いよね。
「それにしても、恋愛……かぁ」
こと私に関して言えば、今は恋愛どころではない。
今はしっかり錬金術を勉強して、イーディスの病気のことを調べて、そして薬を作らなければいけないのだ。
……ただ、そこに至るまでの道のりは長い。
長いと言うか、終わりがあるのかすらもまだ分からない。
この世界には『不治の病』なんて言うものは数えきれないほどあるのだ。
仮にイーディスの病気がそれに類するものなら、つまり終わりなんて存在しないわけで……。
しかしそんな弱音を吐いている場合では無い。
私はそれでも、前を向いて進んで行かなければいけないのだ。
「……勉強、するしかないよね……」
錬金術を学びながら、イーディスの病気のことを調べていこう。
ずっと看病をしていたから、症状はこと細かに覚えている。
そのことを誰か、病気に詳しい専門家に伝えることが出来れば――
……しかしそれだって、とても難しい話かもしれない。
そこら辺に詳しい人が落ちてるなんてことは無いから、それなりの縁やコネ、あるいは見返りを用意しておかなければいけない。
でも私はただの貧乏学生。
出来ることは限られている。
それなら今は、ただ錬金術の実力を付けていくしかない……。
「……うぅん、やっぱり勉強しかないね……」
錬金術と並行して、医学書も出来るだけ読んで勉強をしていこう。
錬金術師ギルドには蔵書がかなりあるし、医学書もそれなりに揃っているって聞いたし……。
あとは、錬金術学院にだって図書室がある。
さらに聖都には、王立図書館なんていう立派なものも存在する。
ここに入るには資格が必要なんだけど、錬金術学院の生徒なら、一部の本は閲覧できるって言う話だし……。
……そう考えると、調べるところはたくさんあるんだよね。
先達の努力が結果を結び、後進はかなり調べ物をしやすくなっているのだ。
「……あれ?」
そう言えば私、錬金術師ギルドにはまだ行ったことが無かった……。
学院生活にかまけて、そっちをおろそかにしていたと言うか……。
それなら明日は、錬金術師ギルドに行ってみようかな……。
依頼の掲示板を見て、刺激を受けてみたり……。
特に私の最終目標である薬関係。これの雰囲気は掴んでみたいかな……。
……あわよくば、私でも受けられる依頼を探してみたり?
そうそう。錬金術の勉強をするために、自腹で素材を買う必要があるんだよね……。
それを考えるなら、何かしらの方法で稼いでいかないといけないわけで……。
「……先は長い。本当に……」
長い道のりではある。
さらに、終わりがあるかどうかも分からない。
しかしゴールに辿り着くためには、一歩一歩進むしか方法は無いのだ。
……あれ?
うーん……。さっきからずっと、考えが堂々巡りをしているような……。
「――よし、寝よう!」
とりあえず眠って、頭の中をリセットしてしまおう。
結局は勉強するしかないのだ。
一発逆転、起死回生の手は今はまだ早すぎる。
何も考えず、明日は勢いのままに錬金術師ギルドに行ってみよう。
何かがあるかもしれないし、何も無いかもしれない。
でも、何も無かったとしても、それは何も無かったことが分かった……と言う成功体験なのだ。
どちらにしても、錬金術師ギルドに行けば良いことが起こる。
うん、今日はそれで良いか。うん、良しとしよう。
――と言うわけで。
今日はおやすみなさーいっ!!




