Ex09.レアな日②
「えっとね-……。
……そうそう、『温泉バカ』の話なの!」
改めて、リリーちゃんが話を進めてくれた。
『温泉バカ』と言うのは私たちのクラスメートで、ドローシア温泉の跡取り娘……と言うことまでは聞いている。
「えぇ……?
また何かやったの……?」
先週の飛び蹴りに続き、今週も早々にまた……?
やり過ぎちゃって、リリーちゃんたちの保護者……こと、お母さんが呼び出された……とか?
若干呆れた表情が、私の顔に出てしまったのだろう。
ミラちゃんがすかさずフォローを入れてきた。
「いえ、今回私たちは関係なくて……。
あくまでも、『温泉バカ』本人の話ですわ」
「本人……」
「そうなの!
ママ、錬金術学院のことを大切にしてるから、やんちゃな子にはお仕置きするの!」
「お、お仕置き!?」
「あの子は学院での態度も目に余るところがありますし――
……それにミーシャさんのお部屋の件は、どう考えてもやり過ぎですから」
「あー……。まぁ、確かに……。
でもあの件って、犯人は『温泉バカ』の子で良かったの?
証拠とか、残ってたのかな……?」
「その辺りはママが見てくれたの!」
「え……?」
もしかして、犯行現場の調査員とかもやるのかな……?
何だかもう、どれだけ肩書きがあっても足りない気がするぞ。
「詳しいことはお話できませんが、お母様がそう言うのであれば間違いありませんわ。
……それで、学院長先生と今後の相談をしていましたの」
「私たちもいろいろ聞かれたのー。
だから休憩が全然取れなかったの!」
「リリーは授業中に寝ていたじゃありませんか……」
「それは不可抗力なの!」
個人的に、授業中に眠るのは信じられないけど……でもそんな事情があるなら、少しは仕方が無いか。
図書館で残って勉強している子たちなんだから、不真面目な態度では無くて、それこそ本当に不可抗力……なのかな?
「ちなみにそのお仕置きの話って、私も聞いて良かったの……?」
「ミーちゃなら大丈夫なの!
……被害者だから?」
リリーちゃんは自分で言いながら、途中でミラちゃんに聞いていた。
「まぁ、そうですわね。
ミーシャさんだって、『温泉バカ』とは顔を合わせづらいでしょう?」
「犯人だって言うなら、確かにそうだね……。
でもそう言えば、今日は授業に出ていなかったみたいだよ?」
「とりあえず1週間、謹慎処分になったの!」
「あんなことをして1週間なんて、罰が軽いにも程があるのですが……。
ただ、お母様も最後通告をしておりましたし」
「最後通告……」
「ママにそこまでさせるのって、なかなか無い話なの」
「塵も積もれば何とやら、ってやつかな……」
……私は知っている。
普段怒らない人が怒るのは、とんでもなく怖いと言うことを……。
「実際、お母様はあまり怒らない方なのですが……。
きっと、怒る……と言うよりも、諭す……と言う感じになるでしょうね」
「それはそれで怖いの……」
ミラちゃんとリリーちゃんは、声をトーンダウンして話している。
やっぱり怖いのかなぁ……。私も真面目に頑張って、怒りを買わないようにしないと……。
「それじゃ『温泉バカ』の子も、来週には学院に戻ってくるってことだよね。
それまでは寮にいるの?」
「んーん。実家に戻されていると思うの。
きっとあの子の親から、きつ~く怒られると思うの」
「幸いなことに、ご両親は常識人のようですわ」
「ああ、それなら良かった……。
1週間で、ある程度は矯正されてくれると嬉しいなぁ……」
……おかしな人が1人いるだけで、学習の環境は大きく変わってしまう。
学生の時間は学業に投資されるべきで、おかしな人に浪費するのは無駄だと言うものなのだ。
「ちなみにもう1度、おかしなことをやったらおしまいなの。
だからミーちゃも安心するの!」
「おしまい……?
もしかして、退学……とか?」
「そこまではいかないと思うの……。
でも、ママがきつ~いお仕置きをすると思うの!」
……ああ、そう言えばさっきもそう言っていたっけ。
お母さん自ら、お仕置きをするのかぁ……。
お仕置きって言うなら、お母さんは立場を利用するのかな?
資産家と言う観点であれば、ドローシア温泉もかなり稼いでいるだろうし……。
そもそも資産の規模で差があったとしても、他の家の子にお仕置きなんて、おいそれと出来るはずもないものだからね……。
……って言うと、やっぱり二人のお母さんは身分が高い人なのかなぁ。
そんな疑問を持ちつつも、私はもう少し雑談をしてから二人と別れることにした。
二人はこれから、図書館でお勉強。
私は工房に戻って……何をしよう。
折角だし、今日の実習でやったアイテムの復習でもしてみようかな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
工房に火を入れて、準備は万端。
今回は今日実習でやった、『ティミスの茶葉』の作成でも復習しよう。
……ぶっちゃけ、素材をフライパンで炒るだけなんだけどね……。
しかしそれでも、品質には何故か差が出てしまう。
簡単なものこそ奥が深い。
もしかすると、そんな感じのものなのかもしれないね。
でも、初級ポーションですら水分量の比率とか、そう言う要素もあるんだけど……。
今回のこれは、素材を炒るだけ……。
一応、フライパンの温度とか、素材や器具の質も影響するっぽいんだけど……。
鑑定スキルが無い以上、詳細な品質までは分からないと言うか。
「……あ。自分で使ってみれば良いのか」
そもそも錬金術のアイテムと言うのは、品質を競うためのものでは無い。
実際に何かの用途があって、それを実現するために存在するのだ。
つまり鑑定スキル云々は置いておいて、実際に使ってみて、狙った通りの効果が出れば良い……と言うことにしておこう。
ひとまずフライパンから炒った茶葉をお皿に移して、自然に任せて熱を冷ましていく。
ちなみに『ティミスの茶葉』から作るお茶は、気持ちを落ち着けてくれる効果があるらしい。
確かに漂ってくる茶葉の香りは、すっと鼻に抜けて気持ちが良い気がする。
茶葉を冷ましたあとは、実際にお茶を入れてみることに。
薬とかは自分には使い難いけど、日用品に近いものなら、自分で使ってちゃんとその良さを体感しないとね。
フライパンの代わりにヤカンを火に掛け、しばらくぼんやりと眺めてみる。
お湯はすぐに沸いてくれたので、台所からお茶のセットを持ってきて、自分なりに入れてみる。
「――うん。不味い」
……あれ?
香りとは裏腹に、何だか渋い……と言うか、余計な雑味……と言うか。
もしかして、それっぽくは見えるけど、作るのに失敗したのかな……?
あるいは、お茶の入れ方が何か違う……?
実習の授業では、今日は作るところまでで終わってしまったし――
……予想もしていなかった結果に、私は戸惑ってしまった。
炒るだけ……とは言っても、やはり錬金術のアイテムなのだ。
こういう基本的なところを、間違いなく確実に押さえていかなければいけないのだろう。
……でも、炒るだけなんだよなぁ……。
不思議だなぁ……。
……錬金術。奥が深いです。




