Ex08.レアな日①
昼食のあとは、実習室での授業が始まる。
少し余裕を持って実習室に行くと、既に何人かの生徒たちが来ているようだった。
そしてその中には、リリーちゃんとミラちゃんの姿もあった。
「リリーちゃん! ミラちゃん!」
「あ、ミーちゃなの!」
「ミーシャさん、こんにちはですわ」
私の言葉に、二人は挨拶を返してくれた。
何でもないやり取り。
しかし――
「……えぇ!? ミーシャさん、リリーさんたちと知り合いだったの!?
それに……あだ名で呼ばれていない!!」
そう驚いたのは、先ほどまで昼食を一緒にしていた3人組の一人。
『ポーションソムリエ』の子だ。
「あぁー……。一応、あだ名なんだよ……。
私の名前は『ミーシャ』で、あだ名が『ミーちゃ』……」
「……っ!!
でも、名前に限りなく近い……ッ!!」
「本当だぁ……。
私のより、よっぽどマシだよぉ……」
「みゅ?
ミーちゃは、『卵つるつる』たちとお昼してたの?」
『卵つるつる』……と言うのもあだ名のひとつだ。
って言うか、どういう経緯があってこんなあだ名になったんだろう……。
「うん、教室で誘われたの。
ところで二人とも、今日は一体どうしたの? 全然お話が出来なかったんだけど!」
「申し訳ございません。
今日はちょっと学院長先生のところに行っておりまして……」
「え? 学院長?」
先日初めて会ったときも、『温泉バカ』の子を気絶させた件で先生に報告に行っていたけど……。
今日は、さらにその上か……。
そんなことを考えていると、『癒し草の人』が私に声を掛けてきた。
「ミーシャさん、ごめん。
私たち授業の準備があるから、もう行くね」
「あ、うん。またね!」
私と別れると、3人組は仲良さそうに実習の準備を始めていた。
私は実習と言うのも今日が初めてだし、今はとりあえず適当にお喋りでもしていよう。
リリーちゃんたちももう、準備は終わっているみたいだからね。
「――えっと、それで?
また何かやっちゃったの?」
「いえ。今日はこちらに、お母様がいらしてまして」
「えっ!?
会いたい! 会わせて!!」
ミラちゃんの言葉に、私は速攻でお願いをしてしまった。
興味……と言う部分はもちろんあるが、それよりも何より、私に工房を貸してくれた恩人なのだ。
多分かなり忙しい人だろうから、機会があれば積極的に会いに行かないと……!!
「残念だけど、もう帰っちゃったの!」
「えぇーっ!?
……くぅ、本当に残念……」
「まぁまぁ、そう落ち込まず。
ミーシャさんのことは、私たちから良くお伝えしておきますので」
「うぅ、それはありがとう……。
でもやっぱり、直接お礼を言いたいよーっ。
……ねぇねぇ、都合の良いときに会わせてもらえないかなぁ……」
「そう言うお約束は、お母様はあまりお受けしませんので……。
一応聞いてみますが、期待はしないでくださいね」
「忙しそうだもんね……。
出来ればで良いから! あと、いつでも大丈夫だから!」
「ママが学院に来るのも、年に数回くらいなの。
私たちが入学してからは、初めてなの」
「ああ、今日は本当にレアな日だったのね……。
ちなみに、何をしにきたの?」
私がそう聞くと、二人の表情は少し陰ってしまった。
……あれ? 聞いちゃダメなことだったのかな……。
「んー……。それはあとでお話するの。
ミーちゃ、授業が終わったあとに付き合うの!」
「おっけー。りょうかーい」
その言葉と同じタイミングで、先生が実習室に入って来た。
そして授業の開始を告げる鐘も聞こえてくる。
……よし。
気になることは一旦置いておいて、午後の授業も集中することにしようかな!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……午後の授業は、基本的には3人組でやるものだった。
リリーちゃんとミラちゃんが2人だったから、そこに入るように言われるかと思ったら別のところに。
よくよく見れば、2人組は他にもあったんだけど……私の入ったところは、先日1人が学院を辞めてしまったらしい。
お昼を一緒に食べた3人組よりも少し落ち着いた感じの子たちで……。
一人はいわゆる委員長タイプ……みたいな感じかな?
「えぇっと……。
お茶の葉を炒るの?」
「はい。ただ、味わうためのお茶ではありません。
しっかりと最大限、お茶の効能を引き出すように炒るんです」
……ふむ。
錬金術と言えばポーション! ……みたいなイメージがあるけど、こう言うものも作るんだよね。
体調が悪いからと言ってポーションをガブガブ飲むだけじゃなくて……。
日頃の疲れを取るためのお茶とかお香も、重要な錬金術のアイテムなのだ。
でも、ぱっと見では……フライパンで、お茶の葉を炒っているだけ。
何だか誰でも出来そうだけど……。
「不思議なことに、人によってかなりの差が出てしまうんです。
その辺り、錬金術の腕が問われるのでしょう」
「へぇ~……」
ちなみにこの委員長タイプの子、リリーちゃんからのあだ名は『委員長』らしい。
……分かる。今までで一番、何だか理解できる。
もう一人の子は『ひっそり』なんだって。
確かにちょっと、あまり目立たないと言うか……。
会話にも全然入って来ないし……。
こうして見ると、いろいろなクラスメートがいるものだなぁ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
実習の授業も終わり、私はリリーちゃんたちと一緒に食堂に向かった。
二人はこのあと図書館に行くと言うことだったので、外には出ずに近場で済ますことに。
……私の懐事情から考えても、この選択は助かったかな。
「ミーちゃ、午後の授業はどうだったの?」
「うん、同じ組の子がいろいろ教えてくれて……。
えっと……。リリーちゃん的に言えば、『委員長』の子なんだけど」
「あの子は教えるのが上手いの!
それに勉強熱心で、私にもよく聞きに来るの!」
「え? リリーちゃんに?」
……私は驚いてしまった。
と言うのも、リリーちゃんとミラちゃんは勉強が出来ない……と言うイメージがあったからだ。
いや、見た目とかじゃなくてね?
本人たちがそう言っていたし、毎日図書館に残っているようだし……。
「リリーも私も、座学の成績は悪いのですが……。
でもその分、実習の成績は良いのですわ」
「あ、そうなんだ?
それってむしろ、センスがあるってことなんじゃない?」
「センスと言うよりも……。
結局は積み重ねだと思いますわ」
「そうなの!
ママをずっと見ていたから、何となく上手く出来ちゃうの!」
ミラちゃんの言葉に、リリーちゃんは嬉しそうに言葉を続けた。
……あれ? って言うことは――
「二人のお母さんって、もしかして錬金術師なの?」
「はい、そうですわ。
でもあまり、工房で作業をすることも無いので……」
「だから作業をするときは、じ~っと見ちゃうの!」
「リリーに釣られて、私も見てしまって……。
小さい頃からそんな感じでしたので、身体が覚えてしまった……と言うのでしょうか」
……ふむ。
何だかいろいろ凄そうなお母さんだけど、さらに錬金術師でもあるのか……。
でもあんまり、アイテムは作らない人なのかな?
錬金術師としても多分、結構な腕前なんだろうけど……。
いろいろとお世話になったお礼として、せめて私は、専門の錬金術だけでも上の実力にならないとね。
私はまだまだ未熟だけど、頑張っていけばいつかそのうち――
……越せるかな? 越したいな!!




