Ex04.古い工房
宿屋に入ったら、速攻で寝てしまった……。
……これからのことを色々と考えようと思っていたのに、この体たらく。
しかも少し寝過ぎてしまうと言う、失態続き……。
今日は週末でお休み。
リリーちゃんとミラちゃんとは会う約束をしている。
折角お風呂付きの部屋を借りたんだし、しっかりと身だしなみを整えてから――
……ま、間に合うかなぁ!?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お、おはよーっ!
ごめん、待った!?」
待ち合わせ場所は錬金術学院の前。
私がまだ聖都の地理に疎い……と言うのが理由だった。
「おはようなの!」
「おはようございます。
私たちも、用事を済ませて来たところですわ」
「あ、そうなんだ……?
それじゃ良かったー!」
「って言うか、まだ待ち合わせの時間にはなってないの!
『緑帽子』は慌てん坊さんなの!」
「あれっ!? あだ名が戻ってる!?」
「みゅ? あ、そうだったの。
『こだわり屋さん』だったの!」
「いやいや、それでも戻ってるよ!?」
「リリー。ほら、『ミ』から始まるアレ……ですわよ」
「『ミ』……。
ああ、『ミーちゃ』なの!」
「うん、それそれ……。
呼びにくければ、名前でも良いんだよ?」
「それはご遠慮するの!」
……ぐぬぬ。
ま、まぁいいや。そこまで大きくは変わらないし……。
「それで、ミーシャさん?
昨日のうちに、考えはまとまりましたか?」
「う……。
それが実は、すぐに寝ちゃって……。朝も急いで出て来て……」
「寝坊助さんなの!」
「昨日は色々ありましたからね。無理もありませんわ」
……うぅ。正直、ミラちゃんがいてくれて助かる……。
もしリリーちゃんだけだったら、多分ずっと煽られっ放しの予感がしていたりして……。
「……えぇっと、それで二人は?
何か用事を済ませてきたんだよね?」
「なの! ミーちゃの荷物を取って来てあげたの!」
「え? 荷物?」
「ミーシャさん宛てに、寮に教材が届けられていましたの。
ですので、それをリリーの……アイテムボックス? に入れてきましたのよ」
「あー、教材は被害を免れた!?
ありがとう! 確か結構な量、あったよね?」
「大丈夫なのー。
でも早目に、ミーちゃのお部屋に持っていきたいの」
「アイテムボックスって確か、入れられる量が決まっているんだよね。
となれば、やっぱり今日中には何とかしたいなぁ……」
「それで、ミーシャさん。新しいお部屋の心当たりは――」
「……うぅ、無いよぅ……。
ずっと寝ちゃってたから……、ごめん……」
私は途端に申し訳なくなってしまった。
これから部屋探しに付き合ってもらうためには、まずは私の意思決定が必要になる。
最低でも、何らかの方針を示さなければ――
「気にすることは無いですわ。
むしろ、ちょうど良かったくらいなので♪」
「え? ちょうど良かったって……?」
「まぁまぁ、なの!
ミーちゃ、これからちょっと付き合うの!!」
「ええぇ!? ど、どこに――」
戸惑う私を尻目に、リリーちゃんは嬉しそうに私の右腕を引っ張って駆け出した。
ミラちゃんも楽しそうに、私の後ろを走ってくる。
……何が何だか?
もしかして、どこか部屋を見つけてきてくれたのかなぁ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――ここなの!!」
「ええええええーっ!!!!?」
リリーちゃんの自信満々の言葉に、私は大きく叫んでしまった。
近くに立てられた小洒落た看板には、『アドルフ通り』と書かれている。
……『アドルフ』。
その名前は、何らかの職人であれば必ず目にする名前だ。
いや、職人だけではないか。
一般の人にだって知れ渡っている、300年前に大活躍した伝説の鍛冶師の名前なのだ。
そして彼の名前が付けられたこの通りは、当時の伝説級の職人たちが集まっていた場所――
……つまりここは、職人たちにとって、とんでもなく崇高な場所になるのだ。
リリーちゃんたちが案内してくれたのは、その通りの一番奥にある建物。
雰囲気からして、錬金術のお店……と、工房になっているのだろうか。
「お母様に相談したら、この工房を特別に使っても良いと言って頂きましたの。
私たちとお金の関係を作りたくない、と言うミーシャさんの気持ちもお伝えしたのですが――」
「……あ! もちろん無料って言うのも嫌だよ!?
それに、錬金術師の見習いの私が、こんな立派な工房だなんて!?」
建物はかなり古いように見える。
しかし手入れが良いのか、まだまだ現役で使うことは出来そうだ。
「……ってミーちゃが言うと、ママも思ってたの!
だからここを貸す代わりに、建物の管理をお願いしたいって言ってたの!」
「え? 管理……?」
「はい♪ 建物と言うものは、人の手が入らないとダメになってしまうものでしょう?
ここは誰も使っていませんけど、お母様がときどき手入れをしに来ているんです。
だからお母様の代わりに、そう言うことをお願いしたい……と」
「は、はぁ……。
管理していれば、無料で使って良いってこと……?
……うぅーん。でも、私には不相応な……」
「ちなみに工房には、錬金術の設備が完備されていますわよ?
型はかなり落ちますが、当時は最高級のものを入れていたようですし」
「それに、ミーちゃが独占することが出来るの!
寮は順番待ちとか予約があるから、そっちよりもお得なの~!」
……ふむむ。
確かに寮だと、錬金術の設備があるとは言っても全員分は揃っていないわけで……。
となれば、私の目的を果たすためにはここを借りてしまった方が良いかも……。
……いや、間違いなく借りるべきだ。
出来るだけ早く実力を磨いて、立派な錬金術師になって――
……私には、私を待ってくれている人がいるのだから……!!
「――……そうだね。折角のご厚意だもん。お世話になっちゃおうかな……。
一応、中も見せてもらっても良い? ……あ、一応! 一応、だから!」
「中を見たいのは当然ですわ♪
それではミーシャさん。最初の一歩は、ご自身でお願いいたします♪」
そう言いながら、ミラちゃんは私に鍵を渡してくれた。
少し大きめの、立派な鍵。
持っているだけで、何やら誇らしくなってしまいそうな鍵。
「ありがとう!
それじゃ、早速――」
……ガチャッ
――寮はダメだったけど、まさかの展開で立派な工房を借りることになってしまった。
こんな立派すぎる場所を借りて、それはそれでトラブルが起きるかもしれないけど……。
でも、そんな弱気なことは言っていられない。
私は出来るだけ早く、錬金術の実力を付けなければいけないのだから……。




