82.さようなら、ミラエルツ
朝食を食べ終わってしばらくしたあと、ミラエルツの南門――乗り合い馬車の場所に向かった。
ミラエルツから次の目的地、メルタテオスまでは一週間ほど。ここから馬車に乗って進むのだ。
ちなみに私たちの旅路のイメージとしては、
辺境都市クレントスから一週間ほどで鉱山都市ミラエルツ、
鉱山都市ミラエルツから一週間ほどで宗教都市メルタテオス、
宗教都市メルタテオスから一週間ほどで王都――という具合。
ガルーナ村はちょっと寄り道だったからここでは伏せておくね。
「――さて、私たちが乗る馬車はあれのようですね」
「わー。私、乗り合い馬車なんて久し振りですー」
「あれ、そうなんですか? そういえばエミリアさんって、ガルーナ村まではどうやって行ったんですか?」
「大聖堂が所有している馬車で行ったんですよ。アイナさんが目を覚ましたときはもう王都に向けて出発しちゃってましたけど」
「なるほど、記憶に無いわけですね」
「そういうアイナさんは、乗り合い馬車は初めてではないんですか?」
「はい、クレントスからミラエルツの少し手前までは乗ってたんですよ。
途中でガルーナ村に行くことになって降りたんですけど」
「ふむふむ、なるほど。それじゃルークさんもご一緒だったわけですね」
「ずっとじゃなくて、途中の村で合流したんですけどね……」
ちらっとルークを見ると、ルークも懐かしそうにつぶやいた。
「ははは、懐かしいですね……」
基本的にルークはまともな人だとは思うんだけど、あのときに関して言えば無鉄砲なことをやっていたからね。
私の同意を得る前に私に付いていくって決めて、仕事まで辞めてきちゃったんだから。
真面目なんだけど、思い込んだら一直線……っていうのかな?
「――まぁ、確かに懐かしいや。ふふふ♪」
「ず、ずるいですよ、二人で懐かしがって! 私は混ざりたくても混ざれないのに~!」
「あはは、でもミラエルツの懐かし話はさっきしちゃいましたしね。それじゃ、一旦ここまでにしましょうか」
「むぅ」
「ところでアイナ様、ジェラードさんはどうするんですか?」
「ああ、うん。何か別で馬を手配してたよ」
「馬を?」
「ほら、あれじゃない? あそこの馬の近くにいるの。
おーい、ジェラードさーん!!」
少し遠くに見えていたジェラードを呼ぶと、小走りで駆け寄ってきた。
「おはよう、アイナちゃん。
エミリアちゃんにルーク君もおはよう」
「「おはようございます」」
「そういえばジェラードさんは馬に乗っていくんですか?」
「うん、アイナちゃんたちと一緒に馬車で行くのも魅力的なんだけどね。先にメルタテオスまで行って情報収集でもしようかと思って。
ほら、僕のメインの仕事はそっちでしょ?」
「そんなに固く考えなくても大丈夫ですよ? ゆるっとふわっとやって頂ければ」
「僕はやるとなったらしっかりこなす男さ。これは仕事のスタンスの問題だからね、そこは厚意には甘えられないかな」
「そ、そうですか?
それじゃ、せっかくなので調べておいて欲しいことがあるんですけど――」
「うん? 何かな?」
「メルタテオスを治めてるアーチボルドさんって人が、ミスリルを持っているそうなんです。これの真偽を知りたいなって。
それと何やら頭髪のことで悩まれているそうなので、そこら辺を少しばかり……」
「分かった、その二点だね。調べておくよ。
それにしてもそんな情報を拾ってくるなんて、アイナちゃんもなかなかやるじゃないか」
「ははは……ただの偶然ですけどね」
「運も実力の内、ってね。
さて、そろそろ馬車の時間のようだよ。僕も行こうかな」
「はい、またメルタテオスで!」
「ジェラードさん、また後日~」
「お気を付けて」
「うん、そっちも楽しく安全に来てね。それじゃ!」
そう言うとジェラードは馬に乗って街門を出て行った。
「――さて、それじゃ私たちも馬車に乗りますか」
「はい」
「はぁい」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
馬車に乗ると、そこにいたのは他の乗客が三人と御者と用心棒が一人ずつ。
外にはこんな構成で馬車が数台いるようだった。
「おはようございます、しばらくお世話になります!」
ひとまず私が挨拶をすると、それぞれ――
「いらっしゃいませ、よろしくお願いします」
「がはは! この馬車には俺っちがいるからな! 道中は安心していいぞ!」
「おお、こんな若い娘が二人もいるなんて運が良いな!」
「本当だ! 俺はこっちの――ごふっ!? て、てめぇ、そこは蹴っちゃダメなところだろ……」
「…………」
――といった反応が返ってきた。
むう、何だか退屈しなさそうな馬車だなぁ?
そのあとにルークとエミリアさんも挨拶をしてたけど、何というかノリにギャップがあるというか。
この面子で一週間か……。ちょっと疲れそうかも。
でもクレントスを出たときの馬車にいた人はみんなだんまりだったから、それに比べればずっと良いのかもしれないね。
それにあのときは一人だったけど、今はルークとエミリアさんもいるし。
「――さて、お客様方。そろそろ出発しますね」
御者の人の言葉に全員が頷くと、馬車はゆっくりと走り始めた。
広場から街門を抜け、ミラエルツの街がどんどん遠くに消えていく。
「うん、いろいろあったなぁ――って、しんみりは散々したからもういっか」
「はい、しんみりはしばらく取っておきましょう!」
「ははは、そうですね。またその内、しんみりしましょうか」
「…………くぅ。お前さんたち、ミラエルツではきっと良い思い出ができたんだろうなぁ……」
唐突に乗客の一人が声を掛けてきた。
ええ? このタイミングで、何か妬ましい感じ?
「おいおい、赤の他人に絡むなよ……。すいません、こいつちょっとミラエルツで失恋してきちゃって」
「おおい、それこそ赤の他人に言うんじゃねぇよ……。くぅ、スカーレットちゃん……」
「よしよし、もう泣くんじゃねぇぞ……」
「うおおお! これが叫ばずにはいられるか!
すかああああああれっとちゃああああああああん!! 愛してるぞおおおおおおおおおおおお!!」
「あちゃぁ……。ああ、みなさんすいません……」
「ほらほら、君たちも! 何か思いのたけがあれば!!」
叫んだ男が私たちに促してくる。
えぇ……? いやいや、それはさすがに――
「ミラエルツのみなさーん! 楽しい思い出をあーりーがーと――!!」
「……って、えぇ!? エミリアさん!?」
エミリアさんは乗客の男の誘いに乗って、大きな声で何やらお礼を叫んでいた。
「ほらほら、アイナさんも!」
「え、えぇ……? そ、それじゃ……?
み……ミラエルツのみなさーん! お元気で――――――――――っ!!」
――……の、のわぁあああああああ! めっちゃ恥ずかしいいいいいいいいいいいいっ!!!!!
「あははははっ! アイナさん、良い台詞です!!」
「あーもう、最後がこれですか! 絶対にこれ、忘れられませんよ~っ!」
「えへへ、これで思い出がひとつ増えましたね! ささ、次はルークさんも!」
「……勘弁してください」
困り顔のルークと、大笑いをする私とエミリアさん。
鉱山都市ミラエルツでの滞在は、そんな光景で幕を下ろすのだった。




