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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
最終章 私たちの国
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最終話.輝きの中で

 時間は14時の少し前。

 様々な儀式と昼食が終わり、この建国式典も大詰めを迎えることになった。



「……本当に、私が先で良いんですか?」


 移動の途中、私は何度もファーディナンドさんに聞いていた。


 次にやることは、新しい国の、国民となる人たちへの挨拶だ。

 こう言うときのために作ったお城のバルコニーから、集まった人たちに挨拶をするんだけど……。


「はい、問題ございません」


 そう答えるのは……ファーディナンドさんだ。

 先ほど忠誠を誓ってもらってから、言葉遣いまでもが変わってしまっていた。


「……うぅ。

 何だか慣れませんので、いつもの言葉遣いに戻してくれませんか……?」


「うーむ……、そうかね?

 私としては誠心誠意、上の方にお仕えしたいところなのだが……」


 そう言いながらも、すぐに言葉遣いを戻してくれるファーディナンドさん。優しい。


「最初からなら全然問題は無いんですけど、今までが今までだったので……。

 ほら、ファーディナンドさんは私と一緒にこの国を作ってくれたわけですし、ここは特別扱いと言うことで」


「ふむ……。それでは非公式の場所では、そうすることにしようか……。

 公式の場では、先ほどのように接するからね」


「はい、それでお願いします!

 私も庶民ですから、偉い人に偉ぶるのって苦手なんですよ」


「アイナさんのことを庶民だなんて、今となっては誰が思うのかな……?」


「うぅーん……、まぁ……はい」


「さて、話を戻そう。

 国民への挨拶は、アイナさんがすべきだと私は考えている。

 私も一応する予定ではいるが、やりたいことがあれば何でもやってくれて構わないよ」


 そう言うと、ファーディナンドさんはニヤリと笑った。

 ……何かをやる、と言うことはお見通しのようだ。


「そ、そうですか?

 でも、ファーディナンドさんの出番、本当に無くなっちゃいますからね?」


「ははは、望むところさ。

 何をやるのか、むしろ私も楽しみにしてしまうよ」


「アイナさんなら、凄いことをやっちゃうんでしょうね~。

 ねぇ、ルークさん」


「私もそう思います。

 出会ったときから、散々驚かされ続けてきましたから」


「だよね~♪」


 ルークとエミリアさんの会話に、姿を見せないジェラードもさり気なく混ざってくる。


「まぁ、アイナなら何でもやっちまいそうだしなぁ……」


 少し後ろを歩いていたヴィオラさんも、いつもの口調で同意してきた。


 近くにいた第一、第二騎士団の団長と、第一魔法師団の団長も、これには苦笑いだ。

 ……ああ、そうそう。ヴィオラさんは結局、第二魔法師団の団長と言うことで決着が着いたんだっけ。


 そんな話をしていると、いつの間にやら目的の場所に着いてしまった。



「――それでは、みなさん。

 最後の仕上げに行きましょう」


「はい!」

「はーい!」

「おっけー♪」

「お~」

「うむ」

「「「はいっ!!」」」


 私と、ファーディナンドさんと、騎士団と魔法師団の長が三人ずつ。

 今回はこの八人で、建国の挨拶に向かうのだ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――ワッ!!!!!!!!



 私たちがバルコニーに出ると、大きな歓声が沸き起こった。


 眼下には大勢の人々で溢れ返っている。

 それこそ足の踏み場も無いくらい――

 ……かなり広く作ったにも関わらず、空いている場所が見えない程だった。


「設計……ミスりましたかね?」


「いや、そんなことも無いと思うが……」


 私とファーディナンドさんは、顔を見合わせて苦笑した。

 ヴェセルブルクのお城を絶対に超えてやる……そんな思いで造ったこのお城。

 ここから見える範囲も当然、協議に協議を重ねて設計したものなのだ。


「アイナさーん。拡声魔法は任せてくださいね♪」


 エミリアさんがにこやかに笑う。

 いつでもどこでも私といるために、拡声魔法まで覚えてしまったらしい。

 ……本当、エミリアさんには頭が下がる思いだ。


「ふふふ♪

 みんながアイナちゃんを見ているねぇ♪」


 ジェラードの声も、近くから聞こえてくる。

 別に呼んでいないのに、結局ここまで来ちゃったんだね。

 ……まぁ、良いんだけど。


「それではアイナ様。頑張ってください!!」


 最後にルークが、力強く激励してくれる。


 かなりの人数を前に、少しくらいは臆するものかと思っていたけど――

 ……そんなことは、まるで無かった。



「それじゃ、行ってきます♪」


 私は歩みを進めた。

 しかし移動する距離はあまり無く、すぐに足を止める。


 私の後ろには、先ほど一緒に来ていた他の八人。

 目の前には、数えるのも気が遠くなるほどの人々。


 ……聴衆の歓声も、少しずつは落ち着いてきたようだ。

 いや、きっと私の言葉を待っているのだろう。



「――……みなさん、こんにちは。

 かねてより目指していた建国が、ついに本日、成されることになりました」



 ――ワッ!!!!!!!!



 そこまで喋っただけで、大きな歓声が再び湧き起こる。

 もう少し静かにして欲しいとは思うものの、やはりとても嬉しいものだ。


 ……それに、こういう機会は久し振りだ。

 私のエンターテイナーの血が疼いてしまう……かも?


「この場所にこの街を――……マーメイドサイドを作り始めたときのことは、今なお鮮明に覚えています。

 あのとき、何も無い場所からこの街を作り始めました。

 あのときから手伝って頂いた方にも、あのあとに来て頂いた方にも、感謝の念が堪えません」



 ――ワッ!!!!!!!!



「また、今回の建国に大きな助力を頂いた周辺各国にも、厚い御礼を申し上げます。

 新参の国ではありますが、これからも共栄の道を歩んでいければ――

 ……そう、心より願っております」


 私たちのいるバルコニーの少し下、離れたところには来賓用のバルコニーがある。

 他の国のお偉いさんたちは、そこから拍手をしてくれていた。



 ……さて、これからすべきは建国の宣言だ。


 本来であれば、私はここで『神煌クリスティア』を作ろうとしていた。

 何故なら、『世界の声』が私たちのことを広く伝えてくれるから。


 しかし今となっては、そうしないで良かったと本当に思っている。


 神器を作るときの、あの威圧的な音。

 あれはこの場に、相応しくは無いからね。



「――ところで、みなさんは私の噂をご存知でしょうか。

 私が、絶対神アドラルーンの使徒である……と言う噂を」



 その言葉に、聴衆からはどよめきが上がった。

 この噂はかなり広まってはいるものの、私は基本的に肯定も否定もしていない。

 どちらかと言えば、肯定的な立場ではある……と言う感じか。


 来賓用のバルコニーでも、お偉いさんたちが不思議そうな顔をしていた。

 何で今ここで、そんな噂のことを持ち出すのか……ってね。



「……この建国に際しまして、私は絶対神アドラルーンから贈り物を頂いて参りました。

 私の建国の宣言と共に、どうか皆さま、その奇跡とご慈悲に触れてみてください」



 私はくるりと、後ろを振り返った。


 これから何をするのか、期待に満ちたファーディナンドさん。


 平然と構えているルークとエミリアさんに、ヴィオラさん。

 あとは見えないけど、ジェラードもきっと同じだろう。


 騎士団の団長たちと魔法師団の団長は、突然の流れに付いて来れないようだ。

 ……まぁ、普通はそんな感じだよね。


 私は満面の笑みを見せてから、聴衆たちの方に振り返った。

 そして――




「――……ここに、私たちの国……『クリスティア聖国』の建国を宣言いたしますっ!!!!

 大いなる絶対神よ、我らが国に、悠久の平和と豊穣をっ!!!!!!」



 私は手を大きく広げ、天を仰いだ。


 次の瞬間、周囲には光の翼が舞い降りる。


 眩しいけれど、どこか優しいその輝き。


 そしてそれは、目に見える範囲すべてに及んだ。


 恐らく、クリスティア聖国の領土――鉱山都市ミラエルツの先にまで、この輝きは届いているだろう。




 『これ』が、絶対神アドラルーン様からもらった私の『ご褒美』。

 竜王よりも神様よりも、数段強い偉大なる加護。

 セミラミスさんが戻ってきてくれるまで、この加護が私たちの国を守ってくれるに違いない。



 まわりの人たちと、眼下の人々を見て私は思う。

 きっと今が、私の冒険の中でも一番強く輝いている瞬間になるだろう。


 ハッピーエンドの物語は、そんな輝きの中で終わるものだと私は思う。

 ……ならば私の物語も、ここで一旦閉じることにしよう。



 これからも、色々な問題が起きていくに違いない。

 しかしそんなことは、今いる仲間と、これから知り合っていく仲間と解決していけば良いのだ。

 だからもう、心配することなんて何も無い。



 ――……でも。

 どうしても困ったら、また神器を作っちゃおうかな。



 だってこれは、私の専売特許。

 神器の錬金術師の、神器の錬金術師たる由縁……だからね♪

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