812.建国式典③
「してあるからに、ガルルンとは――」
「とても愛らしく、表情豊かな――」
「まさに芸術。美の極点――」
ダルデダガス王国の王様と話を終える頃、いつの間にやら他の国のお偉いさんにも囲まれてしまっていた。
そしてどこで知ったのか、全員がガルルンのことを褒め称えてくる。
……いや、私がガルルンを推していると言うのは、それなりに有名な話か。
だからこそ、ガルルンを褒めて私の気を引きたい……と言う気持ちもあるのだろう。
ただ、ダルデダガス王国の王様がガツンと褒めてくれたばかりだから、いまいち他の言葉は響いてこない。
二番煎じ……みたいな?
我ながら、なかなかワガママなものである。
「ママー、そろそろ時間なの?」
ふと、リリーがドレスの裾を引っ張って私を呼んだ。
時間はそろそろ9時になるところ。
建国式典が始まる1時間前……と言うことになる。
私はその場にいる全員に軽く挨拶をしたあと、最初の部屋に戻ることにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――ただいま戻りました」
部屋に入って、バーバラさんがいることを確認してから挨拶をする。
「アイナさん、お帰りなさい。
今まで歩かれていたんですよね。ドレスの調子はいかがでしたか?」
「特に何も、気になるところはありませんでした!」
「本当ですか? 良かったー♪
エミリアさんの服は、少しだけ調整をしたんですよ」
「あ、そうだったんですね。
それで、そのエミリアさんは?」
「先ほど、会場に行くと言って出て行かれました。
式典も、あと1時間ほどで始まりますし」
時計を見れば、時間はもう少し進んでいて――
……開始まではあと50分、と言ったところになっていた。
「もう少し……ですか。
さすがにちょっと、緊張してきますね」
「ママ! 応援してるから、頑張るの!」
「私も応援していますわ!」
リリーとミラは、私を元気付けてくれる。
ちなみにリリーとミラも、少し離れた場所で式典には参加する予定だ。
特にやることは無くて、座っているだけではあるんだけど……まぁ、それ自体が『やること』って言うのかな。
「うん。二人とも、ありがとうね♪」
そう言いながら、私は近くに来ていたリリーの髪を、くしゃっと撫でてみた。
そもそも私の国は、私とリリーのために作り始めた……と言っても過言では無い。
私たちが、誰にも邪魔をされないように暮らしていく場所。
それを目指していたはずが、いつの間にか、とんでもなく大勢の人を巻き込む形になっていった。
……そして今日が、その集大成。
そんなことを考えていると、ミラも私のドレスを引っ張ってきた。
ミラが生まれたときは、この街は既にある程度の形にはなっていた。
そのあとたくさん発展してきたけど、今となってはミラのいないときを思い出すのも難しい。
それだけ、ミラの存在感も大きくなって来たと言うことだ。
……ぐすっ。
ふと軽く涙ぐんでしまい、自然と鼻を啜ってしまう。
ここに来て突然の感傷――……と言ったところだろうか。
「――あの、すいません。アイナさん」
「え? は、はい!」
「私、隣の部屋に行きますね。
10時まではそちらにいますので、何かあればお呼びください!」
「分かりました。
でもドレスの調子良いですし、大丈夫かと思いますよ!」
「それは何よりです♪
式典の最中も近くに控えておりますので、何かあったらすぐに教えてくださいね」
「はい、頼りにしています♪
お仕事、引き続き頑張ってくださーい」
「はい、頑張ってきます♪」
バーバラさんは力を一回入れると、しゃきしゃきと部屋から出て行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――さて、と。
部屋に残されたのは、私の他にはリリーとミラだけ。
それ以外には誰もいない。
次に誰かが来るのは、私を呼びに来るときだろうか。
建国式典は10時からだけど、私は途中からの入場だから、もう少しゆっくりと出来るのだ。
「……やることも無いし、挨拶の内容でも確認しておこうかなぁ……」
徐々にではあるが、何となく落ち着かなくなってきてしまった。
リリーとミラは二人で話しているけど、そこに入っていく気力はどうにも湧いてこないし……。
……うーん?
私が緊張するなんて、今となっては珍しいことかもしれない……?
挨拶の内容を確認するのもすぐ終わり――……と言うか、途中でそんな気分も失せてしまったんだけど……。
それならばと、私はアーティファクト錬金でもして遊んでみることにした。
何を突然……と言う話ではあるが、案外これは、暇つぶしには持って来いなのだ。
ぶっちゃけ、ランダム要素の強いガチャに他ならないからね。
さて、何に特殊効果を付けてみようかな?
さっきまでガルルンの話で持ち切りだったし、ここはやっぱりガルルンの置物が良いだろう。
何と言っても、アドラルーン様も気に入っているガルルンだ。
今回も因果を乗り越えて、想像を越えた効果が付くかもしれないし……。
それじゃ、アイテムボックスのガルルンの置物を素材にして――
バチッ
……何を血迷ったか、今回はミスリル製のガルルンを作ってみた。
まさに神秘的なガルルンの誕生だ。
かなり貴重な逸品だし、あとでこれ、抽選で誰かにプレゼントするのも面白いかも――
……っと、気になる錬金効果はいかに!?
では早速、かんてーっ
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【ガルルンのミスリル像(S+級)】
神器の錬金術師によって生み出された奇跡のオブジェ。
神々との交信を可能にする
※錬金効果:
※追加効果:
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……ナニコレ?
まずいね、こんなの世に出せないね。謎の因果、乗り越えて来ちゃったね。
しかもこれ、錬金効果と追加効果のところが空欄になっているし……。
何も無い――……のではなくて、いつぞやの英知さんみたいに、設定漏れ……なんだよね?
ついでにツッコむと、『神々』って言うのは、この世界ではアドラルーン様か私のことになっちゃうわけだけど……。
何なの? これを使うと、私と通信することが出来ちゃうの?
――トントントン
私が色々とツッコミを入れていると、扉の方からノックの音が聞こえてきた。
「はーい、どうぞー」
私の声を受けて、入って来たのは第三騎士団の団員だった。
時間が時間だけに、少し緊張をしてしまっているようだ。
「失礼いたします。
アイナ様。時間になりましたので、移動をお願い出来ますでしょうか」
「え? もうですか?」
しかし時計を見れば、いつの間にやら10時になっていた。
ガルルンの置物ばかりに注目をしていたら、あっという間に時間が経ってしまったという……。
……うーん。
やはり恐ろしや、ガルルンと言う存在……。




