810.建国式典①
ついに建国式典の日がやって来た。
今日は朝から――……5時過ぎから、いろいろと動き回っている。
何だかもう、疲れちゃった。
気分としてはそうなんだけど、しかしそうも言っていられない。
私たちは、今日この日を目指して頑張り続けてきたのだから。
「アイナさーん!
そのドレス、似合ってますね!!」
お城の一室で、エミリアさんが明るく話し掛けて来た。
非日常の中の、さりげない日常。
そんな空気を私にくれるエミリアさんは、何とかけがえのない存在なのか。
「そう言うエミリアさんだって、素敵じゃないですか。
その服、バーバラさんにお願いしたんですよね?」
「はい、アイナさんとお揃いですよーっ♪」
見た目は全然違うけど、作ったのは同じ人。
厳密に言えば他の人の手も入っているんだけど、監修はしっかりバーバラさんがやってくれているのだ。
私は基本的に、白い色。
立場的にはこの国の一番トップになるのだから、純白で在れ……と言うことらしい。
ファーディナンドさんも、同じ理由で白色が基調になっているそうだ。
対してエミリアさんは、全体的に黒色。
何でも魔術師ギルドの長たるイメージ……と言うことらしい。
「ママーっ、私も新しくしたの!」
「お母様、私もですわ!」
リリーとミラも、負けじとアピールをしてくる。
この二人、基本的に服は魔力で作り上げているんだけど、今日はいつもより精巧なデザインにしているようだ。
「わー、可愛いね!
これ、自分でやったの?」
「なの! ふくやに色々と教えてもらったの!」
「私も、相談に乗ってもらいましたのよ!」
『ふくや』と言うのは、リリーがバーバラさんを呼ぶときの名前だ。
……まぁ正直、完全にそのまんまなんだけど。
「へー、凄いね。
いやぁ、細かいところまでしっかりと出来ていて……」
「なの!」
「苦労しましたわ!」
話を聞いてみれば、意識的に服のデザインを変えるのは難しいことらしい。
そう言えばずっと、この二人の服は変わっていなかったんだよなぁ……。
最初は少し気になっていたけど、どうにもしっくり来すぎていて、途中から気にならなくなったと言うか……。
「うん、頑張ったんだね。
折角だし、これからも色々とお洒落をしてみない?」
「えーっ、毎日は面倒なの……」
「でもリリー、可愛くしていればお母様も喜びますわよ?」
「……そうなの?」
「いつものままでも可愛いけどさ、色々試してみたらもっとキラキラすると思うよ?
ほら、女の子ってそう言うものだし♪」
私の言葉に、リリーは少しだけ興味を持ってくれたようだ。
「それなら頑張ってみるの!
ミラも一緒に頑張るのーっ!」
「もちろんですわ。
二人でお洒落になって、お母様に喜んでもらいましょう!」
意気込むミラと、頷くリリー。
いや、お洒落の目的はそこでは無いんだけど……まぁ、慣れるまではそれでも良いか。
逆に考えれば、魔力だけで服が自由になるのなら……応用がいろいろと効いて、凄く面白いと思うんだけどね。
そんな話をしていると、バーバラさんが部屋にやって来た。
「おはようございます、アイナさん。エミリアさん。
それにリリーちゃんと、ミラちゃんも」
「おはようございまーす。
こんな朝早くから、大変ですね」
「いえいえ、今日が本番ですから!
服飾のことで何かあれば、何でも気軽に教えてくださいね」
「はい、ありがとうございます!
……でも、今のところは特に無いかな?」
「それなら一安心です!
でも一応、本番の前に動いておいた方が良いかもしれません。
何か不都合があれば、すぐに対応できますので」
「うーん、それもそうですね。
式典が始まったら、自由に動けなくなりますから……」
……今の時間はまだ8時。
長い長い式典が始まるまで、あと2時間と言ったところだ。
さて、どうしたものか……とエミリアさんを見ると、彼女は少し申し訳なさそうに笑った。
「えへへ、ドキドキしちゃいますね♪
でも私、これから魔法師団の方に行かなきゃいけないんですよ~……」
「そうなんですか?
それならエミリアさんの服も新しいことですし、先にバーバラさんに見てもらってください」
「ん、そうですね。
それではお先に、ちょっと動きまわってきまーす!!」
……と言うと、エミリアさんはすぐにどこかに行ってしまった。
服のチェックのために、どこまで動いてくるつもりなのだろう……。
「うふふ♪ エミリアさんも、緊張をしているんですね」
明るく笑いながら、バーバラさんが言ってきた。
……なるほど、そう言う解釈もあるのか。
「お偉いさんがたくさん来ますから、列席するだけでも緊張しますよね……。
私は性格が図太いので、大丈夫だとは思いますけど」
「アイナさんは、新しい国を支えていく方ですから。
正直、『さん』付けで呼ぶのも心苦しくなってきました……」
「いやいや。昔からの知り合いは、やっぱりそのままが良いんですよ。
バーバラさんから『様』付けなんてされたら、息が詰まっちゃいます!」
「あはは……。それでは引き続き、今と変わらずと言うことで……。
今後とも是非、よろしくお願いしますね!」
「はい、よろしくお願いします♪」
そんな言葉を交わしたあと、バーバラさんは別の部屋に行くことになった。
他にもいくつか、仕事を掛け持ちしているらしい。
……彼女にとって今日は、仕事の実績をたくさん積める貴重な一日なのだ。
どうか失敗の無いよう、最後まで無事に終わることが出来ますように……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――さて。
時間はまだ……あるのかな?」
部屋の時計を見ながら、ふと呟く。
私の仕事としては、基本的には挨拶くらいしか無い。
……タイミングは何回かあるんだけど、台本は全部暗記しているから安心だ。
それなら今は、少し気分転換に歩いてまわろうかな。
「ママー、どこかに行くの?」
「それならお供しますわ!」
私が椅子から立ち上がると、リリーとミラが近付いてきた。
さすがに私がいないと、二人も居心地が悪くなってしまうだろう。
「バーバラさんの言う通り、少し歩いてこようかなって思うの。
二人も一緒に行ってみる?」
「もちろんなの!」
「ご一緒いたしますわ!」
「ん、ありがと。
それじゃ1時間くらい、適当に歩いてみよっか♪」
……気持ちを落ち着けるのは、開始の1時間前からで良いだろう。
とりあえずそれまでは、最後の息抜きをしておくことにしようかな。




