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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
最終章 私たちの国
807/911

807.彼方からの呼び声①

 ――私、アイナ・バートランド・クリスティアは悩んでいた。


 悩ましい。

 実に悩ましい。

 本当に悩ましい。


 建国式典まで、あと1週間。

 当日の準備はほぼ終わり、あとは心の準備をしていくだけだ。


 本当ならそれだけに集中して、それだけに向かっていけば良かったんだけど――



「……はぁ」


「アイナさん、どうしたんですか? 溜息なんてついちゃって」


 朝食後、悩みながらお茶を飲んでいるとエミリアさんが話し掛けてきた。


「いやぁ……。

 ちょっと、気になることがありまして……」


「気になること……ですか?

 よろしい、それではご相談に乗りましょう」


 私の言葉にまっすぐ向き合ってくれるエミリアさん。

 何て心強いことなのだろう。


「実はですね……。

 何か最近、呼ばれているような気がするんですよ」


「……呼ばれている?

 え? 誰にですか?」


「いや、それが良く分からないんですけど……。

 でも、行くべき場所は何となく分かるんです」


「ふむ……?

 ちなみにそれって、どこなんですか?」


「クレントス……の方、みたいなんですが」


「あれ? 具体的な場所までは分からないんですか?

 ちょっと、アバウトって言うか……」


「そうなんですよ……。

 でも、凄く呼ばれている気がするんです。だから私も、ちょっと行ってみたいって言うか……」


「もしかして、今すぐ……なんですか?

 建国式典の前に……?」


「ぐむむ。

 そうなんですけど、行かなきゃいけない気がするんですよーっ」


 それは理屈では無く、感覚的なものとしか言いようが無い。

 私が今まで築き上げてきた勘なのか、それとも別のものかは分からないんだけど……。


「仮にクレントスだとして……、ここからだと往復に時間が掛かっちゃいますよ?

 それこそ、下手をすれば建国式典にギリギリに……」


「逆に言えば、まだ間に合いはするんですよね。

 だから悩んでいるんです。行かなきゃ絶対に後悔しそうで……」


 理屈と感情。そのせめぎ合い。

 ぶっちゃけ、建国式典が始まるまでは私がいなくても何とかなるのだ。

 最悪のところ、当日だってファーディナンドさんさえいれば大丈夫なはずだし……



「……え?

 アイナさん、もしかして……行くつもりなんですか!?」


 私の表情で察したのか、エミリアさんは慌てて聞いてくる。


「ま、まぁ……。

 ほら。みんなもいるし、大丈夫かなぁ……って」


「ええぇっ!?

 私、魔法師団の方があるからご一緒できませんよ!?」


 ……っと、心配しているのはそっちなんですか。


「そうですね、エミリアさんはしっかり頑張ってください」


「むむむ……。

 私と同じように、ルークさんもジェラードさんも無理ですよ?

 当日の警護の準備とか、仕事は山のようにあるわけですから」


「確かに……。

 うーん、そう考えると護衛をお願いできる人がいないなぁ……」


 正直、護衛がいなかったところで何とでもなるだろう。

 しかし安全面を考えると、さすがに一人で……と言うのは不味いのだ。

 何と言っても、ダリルニア王国に連れ去られたときは、そう言うタイミングを狙われてしまったのだからね……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 信頼が置けて、すぐに協力してもらうことが出来て、そして十分な強さを持っている――

 ……そんな人は大体、それなりの立場に付いてしまっている。


 しかし何事にも、盲点と言うものは存在するのだ。


「グギャッ!」

「ピィッ」


「お久し振り! 今回はよろしくね~♪」



 ――お分かりだろうか。

 『人』がダメなら『獣』である。


「俺も行ければ良かったんだが……。

 しかしポチもルーチェも、かなり強いからな。

 アイナ殿も、安心してくれて構わないぞ!」


 グレーゴルさんの一番の仲間のポチ。

 それに加えて、光る青色の羽を持ったレアな鳥のルーチェ。


 そう言えば『ルーチェ』って名前、私が付けたんだよね。

 あのときは小鳥のサイズだったけど、今では(わし)ほどの大きさにまで育っている。

 いつの間にか、かなり強い魔力を持つようになっていたようだ。


「はい、お忙しいところありがとうございます!

 ポチとルーチェなら、みんな納得ですよね♪」


 ルークは何か言いたげではあったが、2匹の実力と従順さを考えれば、問題なんて起ころうはずも無い。

 それにどちらも、かなりの機動力を持っている。

 だから下手な護衛を付けるより、すぐに行って帰ってくることが可能になるのだ。



「アイナ様……。

 面倒なことには関与しないよう、くれぐれもお気を付けください」


「うん、ワガママを言ってごめんね。

 でも、クレントスならアイーシャさんもいるし……。

 何か必要があれば、手伝ってもらうことにするよ」


「そうなさってください。

 今からでは伝令も飛ばせませんので……」


「急のことですからね!

 伝令を飛ばしたところで、アイナさんたちの方が早く着いてしまいますから♪」


 エミリアさんはそう言いながら、目の前にいるポチを撫でていた。

 グレーゴルさんはそんなエミリアさんを、優しい眼差しで見守っている。


 ……ああもう、何だかもどかしいなぁ。



「さてと、それじゃ行ってきますね。

 ぱぱっと行ってきますので、建国式典の準備は引き続きお願いしまーす!」


「かしこまりました」

「はーいっ♪」

「気を付けてな!」



 三人の言葉を受けて、私はポチの背中に乗った。


 もふもふで気持ち良い。

 これならしばらく乗っていても、疲れることは無いだろう。


 ……私もこう言う仲間、欲しいなぁ。

 いつか余裕が出来たら、ちょっと狙ってみようかな。



「それじゃポチ、ルーチェ。

 二人とも、よろしくね♪」


「グギャギャッ!」

「ピィイィッ!」



 ポチの羽ばたきと共に、私たちは宙に舞った。

 ……さて、しばらくは空の散歩を楽しむことにしようかな。

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― 新着の感想 ―
[一言] アイナ×エミリアが好きなので、 グレーゴルさんとエミリアさんはくっついちゃいそうのはとても悲しいですねー
2020/05/31 19:13 退会済み
管理
[一言] 何が読んでるのかな? 新しい転生者とか? 其か英知さんが言ってた女の子? いや、どっちもってこともあるか。
[一言] 誰に呼ばれてるんでしょうか。気になりますね!!
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