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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
最終章 私たちの国
805/911

805.王女ちゃん②

 露店で助けた女の子を連れて、私はエミリアさんとジェラードのところまで戻ることにした。


「……あれ?

 アイナさん、その子はどうしたんです?」


「えぇっと、露店で口論になっていたので……。

 ひとまず連れてきちゃいました」


「ふーん……?」


 私の答えに、ジェラードは呟きながら女の子の上から下までを眺めていた。

 念のためジェラードの名誉のために言っておくと、女性を物色しているように……では無いから安心して頂きたい。



「……あなたの仲間?」


 少し間の空いたところで、女の子が聞いてきた。

 たこ焼きの支払いを終えたルークも、それに前後する形で戻って来た。


「うん、みんな私の仲間だから安心してね。

 えーっと……、それであなたは?」


「私は……ダルデダガス王国の第七王女、マルレーネ。

 特別に、マリーって呼ばせてあげるわ」


「……王女様?」


 確かに着ているものは良い服だけど――

 ……でもさすがに、見るからに王女様って感じでは無いかな。


「それで? その王女様が、何で一人でぶらぶらしていたんだい?」


「ねぇ?

 こちらが名乗っているのに、そちらは誰も名乗らないつもり?」


 マリーは少し強い口調で言ってきた。言われてみれば、それもその通りか。

 王女様が云々……ではなく、名乗ってもらったのなら名乗り返さないとね。


「っと、ごめんね。

 私はアイナ。それでこっちから、ルーク、ジェラード、エミリアさん」


 私の言葉に、三人はそれぞれ会釈をする。

 しかしその途中から、マリーの表情は見る見るうちに変わっていってしまった。


「……ま、まさか?

 アイナ……さんって、もしかして……、『神器の魔女』……の!?」


「うん、そうだよ」


「そうすると、こちらが『竜王殺し』のルーク様……」


「ははは……。

 最近は『竜王騎士』の方が通りが良いのですが……」


「し、失礼しましたっ!

 『竜王騎士』の、ルーク様……」


「ふーん? ルークも有名になったものだねぇ♪」


「アイナ様、からかわないでください……」


「そしてこちらが、『隠密の双剣』のジェラード様……」


「……え? 何ですか、それ」


 突然出てきた二つ名に、私はついついジェラードを見てしまう。


「ほら、僕ってダリルニア王国にしばらくいたでしょ?

 そのときにちょっとやんちゃしちゃって、そう呼ばれたこともあったかなー……みたいな?」


「はぁ……。

 ジェラードさんにも、そう言う呼ばれ方があったんですねぇ……」


「ふふふ♪ 格好良いでしょ?」


 満更でもないように笑うジェラード。

 そして私はその後ろで、エミリアさんが顔をキラキラさせているのを見つけてしまった。

 ……これはきっと、自身の二つ名を期待してのことだろう。


「まさか、私の国でも有名な御三方にお会い出来るなんて……っ!

 私、とても光栄ですっ!!」


「あ、あれーっ!?」


 マリーの言葉の直後に、聞こえてきたのはエミリアさんの声。


「エミリアさん? どうかしましたか?」


「わ、私は何か無いんですか!?

 私、アイナさんの1位タイの仲間なのにっ!!」


 1位タイ……と言う辺り、空気をちゃんと読めている感じがする。

 今となっては、仲間内で順位を付けるなんて難しいことだからね。


「えーっと……。

 エミリア様のことも、もちろんお話には伺っておりますっ!」


「わ、わーい……?

 ……でも……二つ名……、ぐすん」


 結局最後まで二つ名は何も出て来ず、エミリアさんは少し拗ねてしまった。


 しかしエミリアさんは、ダリルニア王国にほとんどいなかったのだ。

 だから二つ名が広まらなかったと言うのも無理は無い。


 逆にルークの場合は――

 ……あのときはグリゼルダも乱入して来たからね。

 『竜王』繋がりで、そっちの方は印象が強く残ってしまったのかもしれない。


「私たちのことを知っているなら、自己紹介はもう要らないよね。

 それで、マリーは一人で何をやっていたの?」


「はい、実は父上――……失礼。

 我が国の王が、この街に来る準備をしていたのですが――」


「……あ、ごめん。タメ口で大丈夫だよ。

 会ったときがああだったから、今さら丁寧語は慣れないかなぁ……って」


「そ、そうですか……? それでは失礼して……。

 えぇっと、陛下がやってくる前の準備をいろいろやっていた……の。

 それで、ストレスがちょっと溜まってきたから、逃げてきた……と言うか!」


「そ、そんな理由なの……?

 マリーは、国の代表の一人……なんだよね?」


「そうなんだけど……。

 でも私、今回の仕事が終わればお役御免だから……。

 まぁ、適当に、適当に?」


「……おやくごめん?」


「私ね、国にはもう帰れないの。人質みたいなものなのよ。

 だからいまいち、仕事に集中できなくてさ」


「あー……。

 確かに、そう言う人が来るってことは聞いていたかなぁ……」


 要人を、平和のために招いておく……って言うのかな。

 そう言う人がいれば、国同士の結び付きのひとつになるからね。


「それで、お腹が空いたから露店を覗いていたんだけど……。

 ……あそこのおじさん、言っていることが良く分からなくて。困っていたのよ」


「あはは……、確かにちょっとね……。

 それにしても、ダルデダガス王国かぁ……」


 ……実はその国、ヴィクトリアが嫁いでいった国である。

 このことはジェラードも知っていたため、そのまま話が続いていった。


「ねぇ、マリー。

 ヴィクトリアって子を知ってる? この国の出身なんだけどさ」


「ヴィクトリア……?

 あいつ、アイナさんたちの仲間……だったの?」


「仲間って言うか、完全に敵だったけどね……」


「あ、そうなんだ。それじゃ、良い知らせかもしれないわ。

 ヴィクトリアは先日、手打ちにされたわよ」


「は? 手打ち?」


「うん。あいつ、貴族の家に買われていったことは知ってる?

 それで――……ああ、いえ……。

 ……やっぱりこれ、話さない方が良いかも……」


 そう言ってから、マリーは気分を悪そうにしながら口を手で押さえた。


「えぇ……?

 手打ちって、もしかして殺されちゃったってこと……?」


 私の質問に、マリーは何も答えなかった。

 ちょっと言い難い……みたいな空気が漂っているけど……。


「……ふむ、アイナちゃんには刺激が強そうな話なのかな?

 それじゃ、僕にだけ教えてよ♪」


「お、面白い話じゃないわよ……?

 そんなに聞きたいの……?」


「僕は情報担当だからね♪

 アイナちゃんに絡む情報は、何でも知っておきたいのさ♪」


 ジェラードの言葉を聞いて、マリーがちらっと私の方を見た。

 まぁ、ここはひとまず頷いておくことにしよう。


「それじゃ……。

 ジェラードさん、あちらで……」


「了解っ。

 アイナちゃん、ちょっと待っててね~♪」


 そう言うと、ジェラードとマリーは少し離れた場所に行ってしまった。



 ……オティーリエさんに続いて、ヴィクトリアも死んじゃったのか。

 てっきり海の向こうで、ずっと幸せに暮らしていくものだと思っていたんだけどナー……。

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、あの性格じゃなぁ
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