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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
最終章 私たちの国
803/911

803.恋する星

 闇星オーエンを倒したあと、私とジェラードはお屋敷に戻った。

 ジェラードは久し振りにお屋敷に泊まっていくそうだから、今日はいろいろとお話が出来そうだ。



「……あれ?

 アイナちゃん、あそこに誰かいるね……」


 私たちの目線の先、お屋敷の入口には人影がひとつ見えた。

 敷地には入っていないから、立ち止まっているだけなのかもしれないけど……。


「こんな時間に誰でしょうね?

 用事があるなら、さっさと入っちゃえば良いのに」


「そうだねー。ちょっと怪しいなぁ……」


 とは言え、第三騎士団の警備も働いているはずだから、危ない人では無いはずだ。

 私たちはこそこそすることも無く、その怪しい人影にどんどん近付いて行った。



「――おお、アイナ殿!」


 声を掛けて来たのは、向こうからだった。

 そして誰かと思えば、私たちの良く知る人物――


「……グレーゴルさん?

 こんなところでどうしたんですか?」


 元・獣星のグレーゴルさん。

 彼も今では、魔獣軍なるものの統括をしている。

 騎士団や魔法師団よりも格は落ちるが、空中戦を担う戦力として期待されているのだ。


「うむ、今は仕事帰りでな……。

 それで、ちょっと用事があって……」


「え? 私にですか?」


「いや……。

 ……あの、エミリア殿は……いるかな?」


「エミリアさん、ですか?

 確か今日は、夕方には戻るって言っていましたよ?」


「そうか、それは安心した。

 ……うむ、後で屋敷に寄らせてもらうから、俺のことは気にしないで構わないぞ」


「はぁ……。

 でも折角だし、一緒に行きませんか?」


「いや、大丈夫だから。

 アイナ殿たちは、どうか先に戻っていてくれ」


「……? まぁ、そう言うなら……。

 それじゃジェラードさん、行きましょうか」


「おっけー♪」


 私たちはグレーゴルさんを置いて、お屋敷の敷地に入って行った。



「――……何だったんでしょうね?」


「ふふふ♪

 あれはねぇ……、きっと愛の告白だよ!」


「えっ」


「グレーゴルさん、いつもより高そうな服を着ていたでしょ?

 それにお供の魔獣もいなかったし……これはもう、間違いないね!」


「はぁ……。グレーゴルさんが、エミリアさんに……?

 確かに話は合いそうだなぁ……とは思っていましたけど」


 ……特に、食事方面で。

 エミリアさんほどでは無いけど、グレーゴルさんも大食らいなのだ。

 しかも最後まで美味しく食べるタイプだから、そう言う意味でも確かにエミリアさんとはぴったりなんだと思う。


「でも、あの調子じゃ……いつになるだろうね。

 今日中に、決心が付けば良いんだけど♪」


「そうですねぇ……。

 私としては、グレーゴルさんにもエミリアさんにも、絶対に幸せになってもらいたいですけど……」


 ……とは言え、話が合うのと、恋愛が実るのとは全く別の話だ。

 さてさて、この結末はどうなることやら……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 自分の部屋に戻って、しばらくすると夕食の時間になった。

 食堂に行ってみれば、既に全員が揃っている。


「ごはん、ごはん~♪」


 いつも通り、料理を前にして嬉しそうに待機するエミリアさん。

 ここまでいつも通りなのであれば、グレーゴルさんからはまだ話が行っていないのだろう。


 ……人生が賭かっているもんね。

 ここは慎重に行かなきゃいけないところだからね。


 ジェラードも同じことを考えているのか、私と目が合うと、少し仕方の無さそうに笑っていた。


 私たちが出来ることは何も無い。

 ただ、心の中で応援するのみなのだ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ……時間は22時。

 さすがにこんな時間になったらもう……と思っていたところで、玄関のベルが鳴った。

 普段なら聞き逃してしまうところだが、今日はずっと聞き耳を立てていたのだ。


 しばらくすると、下の階から誰かが来る気配を感じた。

 扉を少しだけ空けて廊下を見てみると、ミュリエルさんがエミリアさんの部屋を訪ねているところだった。


 そのあと、エミリアさんは下の階に消えて行った。

 まだお風呂に入っていなかったようだから、タイミングとしてはセーフだったのかな。

 さすがに着替えたあとじゃ、なかなか会うわけにもいかないからね。


 私は少し考えたあと、部屋の窓から飛び下りて、様子を見に行くことにした。

 竜王の加護があるから、それくらいは余裕で出来るようになっているのだ。


 庭に下りて、周囲の気配をすぐさま探る。

 すると横から、突然声を掛けられてしまった。


「……あ、あれ? アイナちゃん?」


「え? ジェラードさん?」


 お互い驚きながら、ついつい顔を見合わせてしまう。

 しかしそれぞれ、この場にいる理由をすぐに察する。


 私もジェラードも、グレーゴルさんの恋の行方を見守りたくなったのだ。

 ……つまりはまぁ、野次馬と言うやつだ。



 ジェラードと一緒にしばらく待っていると、玄関からグレーゴルさんとエミリアさんが出てきた。

 そのままゆっくり、二人で庭を歩いて行く。


 ……おやおや?

 結構良い雰囲気なんじゃないのかな……?



 気配を殺しながら、私たちは二人のあとを追い掛ける。

 残念ながら話している内容までは聞こえてこないが、それでも何となく声の余韻は伝わってくる。


 5分ほど経った頃だろうか。

 グレーゴルさんはエミリアさんに向き合い、そのまま勢い良く頭を下げた。


 緊張をしているせいか、動きはかなりぎこちなかった。

 しかしそれでも、グレーゴルさんは多分、告白をしてしまったのだ……!!



「……おぉ」

「……さぁ、どうなる……」



 私とジェラードの見守る中、エミリアさんは――

 ……勢いよく、頭を下げ返した。



「……ありゃ?」

「……おうふ」



 実は私も……あとはジェラードも。

 上手くいくと言う確信が何故かあったけど、しかしそれは見事に外れてしまった。


 そのあと3分ほど話してから、グレーゴルさんはとぼとぼと玄関に向かって歩いていった。

 エミリアさんはその背中をしばらく見送ったあと、深呼吸をしてからお屋敷に戻っていった。



「……残念」

「……無念」



 私たちは交わす言葉も見つけられず、そのまま解散することなってしまった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――翌日の朝食のあと、私は何気なくエミリアさんに話し掛けてみた。


「昨日の夜、エミリアさんにお客さん……があったんですか?」


「あ、はい。

 グレっちが、お話があるーって」


「グレーゴルさんだったんですか。

 そう言えば昨日、私が帰ってくるときにも会いましたよ」


「あ、そうだったんですね。

 実はグレっちに、告白されちゃいまして」


「……っ!?」


 エミリアさんの口から、そんな言葉があっさりと出てきてしまった。

 あれれ? そんなに簡単に話して良いものだったの?


「えへへ、やっぱり驚きますよね♪

 どうですか、アイナさん! 私だってモテるんですよ!!」


「そ、そりゃエミリアさんは可愛いですし? モテないわけが無いんですけど……。

 それで、返事はどうしたんですか?」


「やりたいことがまだあるので、ごめんなさいってしちゃいました★」


「ええぇーっ!?」


「でもあれです。

 グレっちからの告白はもう、3回目ですから」


「……は?」


「ありがたいことにですね、ずっと待っていてくれるんですよ。

 それでたまに、こうして告白をしに来てくれるんです」


「は、はぁ……。

 いろいろと驚愕の事実なんですけど……」


「この話、アイナさんにしたのは今回が初めてですよね?

 ……それで、と言ってはなんですけど……。私、アイナさんに言いたいことがあるんです」


「え? 私に……ですか?」


 まっすぐに見つめてくる、エミリアさんの綺麗な瞳。

 私はその輝きに、ついつい気圧(けお)されてしまう。



「……昨日みたいな覘き、もうしちゃダメですからねっ!!」


 え?


 あれ?


 ……バレてた!?



「き、気付いていたんですか!?」


「そりゃ、私も気配くらいは探れますから!

 多分、ジェラードさんもいましたよね!!」


「……っ!!

 そっちは曖昧なんだ!!」


「ジェラードさんとルークさんは、難易度が高いですから!

 でも、アイナさんはまだまだですっ!!」


「ぐぬぬ……」



 ……思わぬ流れで、思いも寄らない切り返しを受けてしまった。

 闇星を倒したとは言え、私もまだまだ未熟と言うことか……。

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[一言] 七星 忘れてたな グレーゴルさん、あんたすげぇよ
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