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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
最終章 私たちの国
802/911

802.最後の星

 3日後の夕暮れ、私は街から離れた森に立っていた。


 ……私の姿以外は無い。

 しかしいつの間にか現れた一人の男が、私に話し掛けてきた。



「――こんなところに一人で来るだなんて、不用心じゃないか」


 その男は平均よりも少し小柄。

 ただ、陰鬱な気配を静かに纏っていた。

 暗殺者……と言った表現が、一番しっくり来るだろうか。


「散歩をするには丁度良いと思いませんか?

 ほら、風も涼しいし……」


 『涼しい』と言うよりも、むしろ『寒い』と言う方が近いかもしれない。

 もうすぐ春だと言うのに、暖房は手放せない気候が続いているのだ。


「そうだな……。

 死に逝く場所には持って来い、か……?」


 そう言うと、その男は懐から短剣を取り出した。

 陰鬱な気配は、静かな殺気へと一気に変わる。


「私を殺すつもりですか?

 もう、あなたの主はいないと言うのに」


「……。

 貴様、俺の正体を……?」


 私の言葉に、その男は静かに反応した。

 予想外……と言う感じはあまりしないが、きっと予想外ではあっただろう。


「ええ。

 ヴェルダクレスの七星の生き残り……、闇星オーエンさん」


 その瞬間、私の頬を短剣が(かす)めていった。

 もちろん、私が避けなければ綺麗に当たっていたところだ。


「ちっ……! なかなか素早いな……!」


 初撃に留まらず、闇星は連続で攻撃を突き出してくる。

 しかしこの程度、今の私なら余裕で避けることが出来てしまう。


「もう、オティーリエさんは死んだんでしょう?

 この襲撃は何の目的があるんですか?

 恨みを晴らすため? それとも、誰かの依頼? ……もしかして、新しい王様?」


「貴様を(うと)んでいる人間なんぞ、大勢いるさ……!

 俺はその代弁者……。そして、オティーリエ様の恨みを晴らす者……ッ!!」


 瞬間、闇星は私の視界から消えた。

 しかしその気配は、しっかりと捉えることが出来ている。



「――クローズスタン」


 バチバチバチィッ!!


「ぐあぁっ!!?」



 私が伸ばした腕の先、そこに移動していた闇星の身体が崩れ落ちる。

 しかし闇星はとっさにポーションを振り掛け、再び私との距離を取っていった。


「……弱い」


「な、何だと……!?」


 さすがに気に障ったのか、闇星は短く声を荒げた。


「ヴェルダクレスの七星は、存命だった他の4人と全員戦ってきました。

 呪星、弓星、獣星、魔星……。あなたが最後の星なんですよね?

 それにしては、弱いですよね」


「ほざけッ!!」


 闇星は力を込めて、大振りの斬撃で襲い掛かってくる。

 しかし大振りになればなるほど、回避はし易くなると言うものだ。



「――最終通告です。

 あなたをここから帰すわけにはいきません。

 でも、私の仲間として迎えるには不適格です。

 この街で監視の元、情けなく生きていきますか? それとも、ここで死にますか?」


「どちらでも無いッ!

 俺は貴様を殺すッ!! オティーリエ様の恨みを晴らしてやるッ!!」


「……分かりました。

 それでは戦いを続けましょう」


「うおおおおおっ!!」



 ヒュヒュヒュンッ!!



 闇星の攻撃は、なおも激しく続く。

 しかしこんな連撃、私はもう見慣れてしまっているのだ。


「エアリアル・スナップ!!」


 ボイィイイイィンッ


「な……っ!?」


 私の新たな魔法――とは言っても、アーティファクト錬金で手に入れたものだけど。

 突然生み出された空気のクッションが、闇星を下から宙高くに弾き飛ばした。


 素早い敵は、動きを封じてしまうに限る。

 特に足場の無い空中なんて言うのは、それをするには打ってつけの場所なのだ。



「――それでは、さようなら。

 アルケミカ・クラッグバースト――」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 轟音が周囲に響き渡り、それがようやく収まった頃。

 少し離れたところから、パチパチと拍手の音が聞こえてきた。


「アイナちゃん、お疲れ様♪」


「あ、ジェラードさん。

 終わりましたよー」


「うん、全部見ていたよ!

 それにしても、七星レベルも簡単に倒せるようになっちゃったんだねぇ……」


「今までいろいろありましたから。

 それに今となっては、私も神様ですからね」


 ……まぁ、神様の力は振るえないわけだけど。


「うん、うん。

 アイナちゃんは名実ともに、僕の女神様になったわけだ!」


「あー……、それはどうも……?

 それにしても、今回はジェラードさんの情報に助けられましたよ」


「そう言ってくれると嬉しいな♪

 本当なら、僕が倒しておこうと思ったんだけど……」


「それでも良かったんですけどね。

 でも、オティーリエさんの最期が見れなかったから……。

 だから、私なりに終わりを()(くく)りたかったかなって」


「……その気持ちは分かるよ。

 でもオティーリエ前国王も、処刑の瞬間はビアンカが見届けたからさ。

 裏取りもしっかり取れているし、替え玉とかは無かったはずだよ」


「ジェラードさんからの情報を聞いて、ようやく安心が出来ました。

 対外的に、嘘を付くことなんて良くありますから」


「うん。やっぱり情報は、自分の信頼筋からじゃないとね♪

 ……さてと。用事も済んだし、そろそろ帰る?」


「はい、そうしましょう。

 闇星のお墓は……まぁ、要りませんよね」


「うん、要らないよ。

 闇に生きる人間は、そのまま闇に還れば良いのさ。

 死んでから日の当たる場所に出て来られても、それは迷惑ってものだから」


「そうですね……。

 ……って、もしかしてジェラードさんもそんな感じなんです?」


「もちろんだよ。

 でもお墓があったら……アイナちゃん、たまにはお墓参りに来てくれる?」


「え、そりゃもちろんですけど」


「くぅ~……。

 それならやっぱり、お墓も欲しいかなぁ~」


「あはは……。それならしっかり作りましょう。

 ……って、いやいや。今からそんな話、したくないんですけど」


「ごめんごめん♪

 先は長いからさ、アイナちゃんの負担にならないように考えておくよ♪」


「はい、そうしてください。

 ジェラードさんに会えなくなるのは、私も寂しいですからね」


「きゅん」


「……え?」


「……ん? どうかしたの?」



 ……いや、変な声が聞こえた気がしたんだけど……。

 あれ? 気のせいだったのかな……?

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